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0と1の世界でブラックシープ共は夢に溺れる  作者: 西順
第一章 異分子の台頭

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目に映るもの

 冒険者ギルドで主職業を【探究者】に、兼業を【軽業師】に変えてやって来たのは、エイトシティ東地区の外壁近く。ここ東地区をぐるりと囲う外壁には結界が施されており、中に暮らすシチズンたちを壁外のモンスターたちから守っている。その外壁の南西端に門がある。エイトシティ南地区へと通じている大回廊と接合した巨大な門だ。


「どうも」


 挨拶をしたのはこの南西門を守護している門番たちだ。鎧を着込み、長大な槍を持って、この厳戒態勢に備えているようだ。


「ゼフか」


「冒険者ギルドのギルマスから話は通っている。お前たちの通行は自由だ。だが……」


 門番2人の顔は暗い。どうやら余程ヤバい状況のようである。


「そんなに? ですか?」


 尋ねる僕に2人が頷く。


「この南西門が通行禁止になるまで1日。その1日で、俺たちが止めるのを無視した商人たちが、護衛の冒険者諸共100名以上死に戻った。特に最後の方は、門から出て100メートルもしないうちに、隊商が全滅した程だ」


 成程、それは酷い。


「HPダメージ現象は、刻一刻と酷くなっていっている。って事ですか?」


「ああ。現在、ゼフが出る前に、3組のパーティがこの南西門を出ていったが、全て返り討ちに遭って死に戻ったそうだ。西地区やエイトポリス、エイトタウンから南地区を目指したパーティも全滅と聞き及んでいる」


 むむ、商人たちよりHPが圧倒的に多い冒険者でも死に戻っているのか。


「継続ダメージって、どんな感じで受けているんですか?」


「ダメージエフェクトが毒ダメージに似たエフェクトだから、薄く毒が撒かれているのではないか? どこかに毒の発生源があるのではないか? と言うのが現状の冒険者たちによる見解だ」


「毒ダメージ?」


「ああ。だが、今までにないタイプの毒らしくてな。どの毒抵抗のポーションでもレジスト出来ないらしい」


 毒抵抗のポーションが効かないのか。毒には微毒、毒、猛毒とあるが、ポリス側から来ているパーティなら、猛毒抵抗のポーションも持っているだろう。それでも駄目なのか。


「とりあえず、僕たちも毒抵抗は付与しておいた方が良いかな。クロリス」


「これね」


 クロリスがストレージから取り出したのは、僕が作った『薬草花のシロップ』だ。これには1時間毒抵抗の効果がある。これを僕、クロリス、グレイに、トンブクトゥで舐めると、準備が整ったので、大門の巨大な右扉に設置されている人が1人通れるくらいの小門を、門番が開けてくれた。大門を開けるのは、門番からしてリスクが高いとの判断だろう。


 小門から外へと顔を覗かせるも、外はいつものように陽光降り注ぐ、変わらぬ大回廊だ。大回廊は別名大蛇古道(オロチこどう)と呼ばれている。理由は、その街道に巨大な蛇の骨が覆い被さっているからだ。正確には巨大な蛇の骨があった場所が、街道になったと言った方が正しいらしい。


 大回廊のメインは勿論街道だが、それしかない訳ではない。街道を外れれば、緑豊かな自然に溢れている。それはモンスターたちを含めて生態系が確立された大自然ダンジョンのような場所だ。


 普段商人たちは隊商を組み、冒険者に護衛を頼みながら、街道を進む。街道でのモンスターとのエンカウント率は、その外と比べれば低い。これは大蛇の骨がモンスターが嫌がる波動を発しているからだと言われている。だからと言って、完全に安全な訳ではなく、モンスターによっては大蛇の骨の陰に潜み、隊商を襲うモンスターもいる。


「…………静か、過ぎる」


「そうね」


 この前南西門から外に出た時は、街道を往く隊商のざわめきだけでなく、少し街道を逸れれば、そこかしこから様々なモンスターの気配を感じたものだ。だと言うのに、今はただただ静かであり、鳥や虫の鳴き声も聞こえない。


「不気味な」


「逆に何かいる。と言っているようなものなのよ」


 グレイふたりも同意見のようだ。そんなグレイを剣状態にして、僕は門外へと一歩踏み出した。


「なっ!?」


 瞬間、僕の視界が赤く染まった。薄いので完全に視界が塞がれた訳ではないが、問題はそこではない。これは『見切り』のエフェクトだからだ。つまり現在進行形で攻撃を受けている? どう言う事? と周囲を見回してみても、前も後ろも赤い。全方位から攻撃を受けているエフェクトで視界が埋まっている。


「クロリス! グレイ!」


「ええ。何だか分からないけれど、ダメージを受けているわ」


「こちらもなのよ」


「発生源が分からないと、下手したら辿り着く前に死に戻りかねん」


 クロリス、グレイも、何による攻撃かは分からないけれど、ダメージを受けているようだ。これはヤバいのではないか? 僕よりもVITが高く、状態異常耐性のあるふたりがダメージを受けるのは異常事態だ。


「はっ!?」


 そこでハッとなり、同行しているトンブクトゥへ視線を向けると、当の本人はけろりとしていた。トンブクトゥの姿が透けて見えるので、どうやら『次元迷彩』状態らしい。あれなら問題ないのか?


「かはっ!?」


 などと色々思考を巡らせていたら、吐血した。いや、鼻血も出ているな。視界も血の赤に染まりつつある。これは恐らく耳目鼻口全てから血が出ているな。


「いかん!」


 グレイの声が遠くに聞こえる。息苦しさで脳まで酸素が行かず、立ち眩みを起こして気絶しそうになるのを察したグレイが、僕をぐるぐる巻きにして、門内に引き入れてくれた。


「ぐはっ!」


 門内の大道で僕が仰向けに倒れると同時に、視界の端で門番たちが慌てて小門を閉じているのが見える。そして、その向こう、門外では、まるで自然が泣いているかの如く、空は厚い雲に覆われ、竜巻と雷が幾つも発生するのを見ながら、僕は気を失ったのだった。


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