LUK特化
「ああ〜〜、疲れたあ〜〜」
本日の仕事が終わり、物置部屋のハンモックに倒れ込む。宿屋が繁盛している為、部屋が取れず、シューシさんに「すまない、賃金には色を付けるから」と変わらず物置部屋生活をしている。
「はあ〜……」
何気なくステータスウインドウを呼び出せば、この1週間で個人レベルが5に【錬金術師】のレベルが7、【軽業師】は18も上がっていた。
【軽業師】の上がりが早いのは、【軽業師】が初期職だからだ。と言っても【冒険者】以外の初期職は、個人レベルが10以上ないとなれないのだが。
逆に【探究者】のレベルは1ミリも上がっていない。この1週間ダンジョンに潜っていないからだ。【探究者】は副職業に回している。1回試しに街の外に出てみたが、クロリスとグレイが無双して終わった。
「ああ、【軽業師】が即行でカンストしそう」
【軽業師】は初期職の為、レベル上限が【冒険者】同様50である。他の【探究者】と【錬金術師】は上限が100となっている。その分レベルは上がり難いけどね。
「別に良いんじゃない? カンストしたらそれこそ【道化師】にジョブを変えれば良いんだから」
頭上のクロリスも、どこか疲れた声でそのような事を口にしてくる。それはそうだが、クロリスと会ってからと言うもの、僕のレベルが軒並み上がり続けている。これが異常事態だと言うのは僕にも分かる。【ザコボッチ】の称号スキルで『頑張る』があるので、レベルが上がれば上がる程、経験値が多く貰えるので、レベルの上がり方が他の冒険者とは違うと言うのもあるが、それを考えても、ステータスに対してレベルが上がり易く、ステータスが置き去りにされ、レベルだけ上がっている気がする。
「そんな事ないでしょう」
僕が持論を展開すれば、それを即座に否定するクロリス。
「そんな事ないのよ」
「あり得ぬな」
とグレイまでが否定する。ええ、そんな事あると思うのだけど。と僕が口を尖らせていると、トンブクトゥも部屋に入ってきた。僕の連れの1人としてカウントされたトンブクトゥは、有無を言わさず物置部屋行きだった。ご愁傷様です。
「どうなさいました?」
僕らがあーだこーだと話をしていたのが気になったらしく、トンブクトゥが内容を尋ねてきたので、僕はここでも持論を展開する。
「それはあり得ませんね」
するとトンブクトゥからも否定されてしまった。しかもどこか確信めいた言い方だ。
「理由をお伺いしても?」
尋ねる僕に、トンブクトゥは鷹揚に頷いてから、自らのハンモックに座り、その理由を説明し始めた。
「前にもお話しましたが、ゼフュロスさんのレベルの上がり方が、LUK特化のそれだからです」
「LUK特化だと、ステータスの上がり方が違ってくるんですか?」
「ええ。このシャムランドでは、レベルが1上がるまでの行動によって、どんなレベルの上がり方をするかが決まっています。だいたいの冒険者は、平均的な上がり方をします。これはその行動が他のプレイヤーやストレンジャーに似ている為に、シャムランドのシステム的……、ええ〜、シャムール様的に、平均的だと判断されてそうなるのです」
そうなんだ。シャムール様がそう判断されたのなら、そうなのだろう。
「平均的な【冒険者】は、レベルが1上がる度に、ステータスがランダムで0〜3上がります。これは個人レベルのステータスにも適用されます。大抵が0〜2で、そのレベリングの時に、一番評価された行動に則したステータスがたまに3上がると言うのが、平均的な上がり方です」
ふむふむ。
「対して〇〇特化と呼ばれている特化タイプの上がり方をする冒険者もいます。彼らはその職業に則した行動ゆえに、それに則したステータスが3上がる事が常です。例えば、戦士系統の【盾士】や兵士系統の【騎士】であれば、他の冒険者をその盾や鎧で守る行動を良くするので、VITが上がり易くなり、VIT特化になり易い職業です。他にも、【剣士】や【槍士】などのダメージディーラー系はSTRが上がり易く、【狩人】や【偵察】などはAGI特化に、魔法使い系統だとMND特化に、生産系であればDEX特化になり易い傾向があります。あくまで傾向ですが」
ふむふむ。就いた職業によって、ステータスの方向性が決定付けられるのか。
「【冒険者】はどんな上がり方をするんですか?」
「……平均的な上がり方です。しかもステータスが3上がる事は稀で、大抵は0〜2の中に収まります」
…………んん? それってつまり……、
「【冒険者】を続ける旨味はなく、出来るだけ早目に他の職業に転職した方が得と?」
僕が恐る恐る尋ねると、トンブクトゥは若干困ったような顔になりながら首肯した。う〜ん、冒険者系統全てがそうで、【探究者】や【探検家】も同様のステータスの上がり方をするなら、ちょっと考えちゃうなあ。
「ここまでは平均的、〇〇特化含め、常識的な上がり方の範疇と言って良いでしょう。その範疇から外れるのが、LUK特化です」
とトンブクトゥが得心顔に変わる。向こうも持論に自信があるようだ。
「そう言えば、僕はLUK特化だと言っていましたね?」
「はい」
そうなると、僕のステータスの上がり方は常識的じゃないのか。
「LUK特化の特徴は、他の〇〇特化よりもより独特な行動をすると上がり易くなります」
「より独特?」
「はい。例えば、レベル帯に合わない、自分よりも遥か上位のレベルのモンスターと闘うとか、生産で自分のレベル帯よりも上位の製作物を作ろうと奮闘するとかですかね」
うん。な〜んか心当たりあり過ぎなんですが?
「つまりゼフみたいな行動をするって事ね?」
クロリスの歯に衣着せぬ発言に、首肯を返すトンブクトゥ。あ、やっぱりそうなのね。
「戦闘に関しては、僕の一存でなくて、クロリスの意向なんですけど? あれ? でもそうなると、ツアーやキャリーで上位のモンスターと闘うのは違うんですか?」
「同じです」
同じなんだ。
「ただ、ツアーやキャリーでも連れて行ける上限はありますから、レベル1からレベル50まで一気に上げるようなツアーやキャリーはありませんね。ステータス的には問題なくても、プレイスキル的に、どこかで詰みますから」
「そうなんですか?」
「そうなんです。だからこそ、ゼフュロスさんの例は稀なんです。幸運に幸運が重なったうえ、自身がプレイスキルを磨き続けた結果です」
誇って下さい。と言うトンブクトゥにうんうんと深く頷くクロリスとグレイ。実感が全くないんですけど。
「それで、LUK特化の特徴とは何なんですか?」
「そうでした。LUK特化のステータスの上がり方の特徴は、まずLUK特化なのでLUKが3上がるのは決定で、更に他のステータスにも上方補整が入る事です。端的に言うと、ステータス上昇で0と1が足切りされて、2か3上がるようになるんです」
「本当に!?」
思わず食い気味に聞き返すと、トンブクトゥはまた鷹揚に頷いてみせる。それは凄いな。それが本当なら、LUK特化は他の人よりステータスが全体的に上がり易くなっている。
「ゼフュロスさんは、『怨霊蠱毒の壺』から生還された時、個人の『基礎』レベルと【冒険者】のレベルがカンストしていましたね?」
「はい。そうですね」
「実はカンストしていたのはレベルだけじゃないんです。ゼフュロスさんの個人レベルのステータスと【冒険者】のステータスもカンストしていたんですよ」
「ええっ!?」
驚き過ぎて声が裏返る。
「平均的なプレイヤーが、【冒険者】のレベルをカンストさせても、良くてゼフュロスさんのステータスの3分の2から半分と言ったところです。つまりゼフュロスさんは他のカンスト【冒険者】よりも1.5倍強いと言う事になります。そこにプレイスキルも乗りますから、強いのも納得と言う訳です」
成程なあ。僕、強かった? いや、
「『お荷物』があるんで、そんなに強くないですよ?」
【ザコボッチ】の称号スキルである『お荷物』のせいで、僕は十全にステータスを発揮出来ない。
「そうですね。『闘争本能』を覚えていなければ、ウィンザードとの闘いも違う結果になっていたかも知れません」
『それはない』
トンブクトゥのこの発言に対して、クロリスとグレイが声を揃えて反論する。
「ゼフには、ステータスを補って余りあるプレイスキルと知恵があるわ。あんなステータス頼りのエセ剣聖に負ける訳ないわ」
「うむ」
「そうなのよ」
クロリスとグレイの、僕に対する信頼はどこからくるのか? 謎だ。トンブクトゥも「知恵?」と困惑顔である。
「まあまあ、この話もここまでにしよう。明日も働かなきゃならないんだから」
「う〜ん……」
僕が話を打ち切ろうとしたのに、トンブクトゥはまだ困り顔だ。
「どうかしたんですか?」
「恐らく、明日からは宿も暇になるかも知れません」
暇になる? その顔から確信が窺えるので、多分独自の情報網から、そう判断したんだろう。しかし、月1のイベントまでまだ少しあるはずだし、この宿屋はそもそもシチズン向けだ。なのにこの盛況が落ち着く理由が、僕には思い浮かばなかった。




