錬金術師のレシピ
う〜ん、どうするかな。新たにポーションを作りたい気もあるが、眼前には乾燥させた薬草の残りである花、茎、根が結構な数残っている。先にこれをどうにかしたい。
「まだやるの?」
考え事をしていたら、クロリスが僕の顔を覗き込んできた。見ているだけと言うのも気疲れするのだろう。少し呆れた顔をしている。
「そうだね、別の事をしよう。薬草の花からはシロップやオイルが、根からはお茶や珈琲なる飲み物が作れるようだから、それを作ってみようか」
「シロップが良いわ!」
甘い物が作れると聞き、花を咲かせたような笑顔になるクロリス。
「はいはい。じゃあ、シロップを作ろう」
これも件の錬金術師がレシピを残していた。
僕は乾燥した花を鍋に入れ、水でひたひたにすると、ひと煮立ちさせる。灰汁が出るのでそれを適宜取りつつ、市場で買ったレモンの薄切りを数枚と砂糖を大量に投入。ちょっとの塩を隠し味に、更に煮詰めていくと、砂糖が蜜状になるので、これを濾して、蜜だけを瓶に入れれば、薬草花のシロップの完成だ。
『薬草花のシロップ』
レア度:3 品質:☆☆☆☆☆☆
効果:薬草の花部分を使って作られたシロップ。そのまま舐めるも良し、『料理』、『薬膳』、『調薬』に使用可能。そのまま舐めた場合、解毒、1時間毒抵抗を獲得する。
僕がテーブルに出来立ての薬草花のシロップを置くなり、すぐにクロリスが小さじでそれを掬い、一口。お気に召したのか、身体をゆらゆらさせながらサムズアップしてくる。
「全く、仮にも女帝ともあろう者が、あのようなふにゃふにゃした顔をしよって」
「威厳も何もないのよ」
グレイの小言も、今のクロリスの耳には入らないらしく、口元をシロップでべとべとにしながら、夢中でシロップを食べ続けていた。まあ、クロリスの体積から考えて、2、3杯でお腹いっぱいだろうけど。
「まあ、そう言ってやるなよ。グレイには精油を作って、それを塗ってあげるから」
「おお! まことか!?」
「嬉しいのよ」
食事のいらないグレイだが、一応『剣』カテゴリーであるので、耐久値を気にする必要が、……あるのか? グレイはどうやら周囲からMPと言う形で栄養補給して、自己再生が出来るらしいので、気持ちの問題かも? まあ、クロリスにシロップを作っておいて、グレイに何も作らない理由はないか。
薬草花の精油は簡単に作れる。蒸留器に花と水を入れれば良いのだ。後は待つだけ。水で蒸された蒸気を冷却すると、精油と芳香蒸留水となる。水と油は基本的に混ざらないので、上澄みの精油をスポイトなどで取り出し、容器に入れれば、薬草花の精油の完成である。
精油が出来るまで時間があるので、他の物も作ろう。作るのは、薬草茶と薬草珈琲だ。作り方はこちらも簡単で、乾燥薬草の根を薬研やすり鉢で粉末にして容器に入れれば、薬草茶はこれで完成。薬草珈琲の方は、ここからフライパンで焙煎すれば完成。簡単なものだ。
『薬草茶粉末』
レア度:3 品質:☆☆☆☆☆☆
効果:乾燥薬草の根の粉末。お湯で煮出すと程よい苦味のあるお茶となる。お茶として飲めば1時間STR、VITが10%上昇する。
『薬草珈琲粉末』
レア度:4 品質☆☆☆☆☆
効果:乾燥薬草の根を粉末にした後、焙煎した物。焙煎されているので香り高いが、味は薄めなので好みは別れる。珈琲として飲めば1時間VITが15%上昇する。
うん。薬草茶の方が簡単に作れたからか、品質が☆1高いな。その代わり薬草珈琲の方がレア度が高い。工程が多いからだろうか。まあ、効果にそれ程差を感じないので、飲むなら好みだろう。
などと考えている間に、精油の方も出来たので、精油と芳香蒸留水に分離する。この2つは食用じゃないそうなので、口にしないように気を付けないとな。
『薬草精油』
レア度3 品質:☆☆☆☆☆☆
効果:薬草花の香り高い精油。食用不可。傷薬として患部に塗布して使用可能。または武器防具用の手入れ用品として使用可能。傷薬として患部に塗布した場合、患部からの出血を止め、HPが3分間、10秒毎に1継続回復する。手入れ用品として使用した場合、1日1回の使用で、通常使用時と比較して、耐久値を2倍持たせる。
『薬草芳香蒸留水』
レア度3 品質☆☆☆☆☆
効果:薬草花の香り高い蒸留水。食用不可。回復薬として使用可能。また身体に振り掛けると消臭効果を発揮する。身体に塗布した場合、HPが3分間、10秒毎に2継続回復する。身体に振り掛けた場合、消臭効果で1時間獣系、亜人系モンスターとの遭遇率が下がる。ただし虫系モンスターの中には近寄るものもいるので注意。
継続回復はおまけみたいなものだな。薬草芳香蒸留水の遭遇率低下は良いけど、虫系が寄ってくるのは使いどころを選ぶな。
さて、色々作ったところで、
「トンブクトゥも一息吐きませんか?」
と僕がボーッと突っ立っていたトンブクトゥに尋ねると、「ありがとうございます」と返事をしてくれたので、意見が聞きたいので、薬草茶と薬草珈琲両方をお出しした。
「なんで『料理』でバフが付いているんですか!? いや、それ以前に何を普通に薬草で調理しているんですか!?」
「バフが付いているのは、『薬膳』スキルの効果ですね。薬草で調理しているのは、…………察して下さい」
「…………これがLUKの力か……」
「え?」
ぼそりと呟いたトンブクトゥの言葉を、自分の分を用意していて聞き逃してしまった。
「いえ、世界観察者にゼフュロスさんの話を少ししたのですが、その時、ゼフュロスさんはDEX特化ではなく、LUK特化なのではないか、との考察を頂きまして」
「はあ……? 良く分かりませんけど、自分が特別運が良いとは思いませんね」
僕はそう言ったのだが、トンブクトゥは、
「そんな事ありません。ポーションや他の製作物も軒並み品質が高いですし!」
「はあ……?」
熱弁した後、矯めつ眇めつお茶と珈琲を眺めながら飲むトンブクトゥを、少し面白く思いつつ、僕の方もお茶と珈琲を飲み比べながら、膝の上に剣状態のグレイを乗せ、その剣身を精油を含んだ布巾で綺麗に拭いていく。
「……良いですね。ワタクシはリアルでもコーヒー党なので、代替品でもコーヒーが飲めるのは嬉しいです」
トンブクトゥは珈琲が好みであるようだ。僕が飲んだ限りは、香りは好きなんだけど、味は苦くてそんなに好きじゃないな。比べてお茶はまろやかで苦味の奥に甘みを感じる。まあ、トンブクトゥは珈琲好きらしいから、今後は薬草の根が確保出来たら、お茶と珈琲半々で作っていこう。




