気軽に/身軽に
「そうなると、図書館通いも今後の行動に組み込まないとなあ」
「図書館通い?」
僕の発言が理解出来なかったのか、トンブクトゥは首を傾げて尋ねてくる。
「はい。とは言っても、今までの僕が入れたのは一般閲覧エリアまでなんで、これまでに得られた情報は一般流通している範囲に限りますけど」
「ああ、いや、別にそこが不思議だった訳ではなく……」
じゃあ、何が不思議だったのか? 僕が尋ね返す代わりに首を傾げると、観念したようにトンブクトゥは理由を説明した。
「NPC……、ああ、いや、ストレンジャーが図書館で情報を得ていた事に驚いたと言いますか……」
歯切れが悪いけど、言いたい事は理解出来た。けど、
「別に図書館は良く利用される場所ですよ? プレイヤーやストレンジャーだけでなく、シチズンの人も良く館内で本や、その日の新聞を読んでいたりします」
と僕にとっての当たり前を話せば、目を丸くするトンブクトゥ。
「確かに、図書館でシチズンが本を読んでいる光景は目にした事がありますし、新聞の情報を教えてくれるシチズンと、会話した事ありましたけど、…………あれ、本当に新聞を読んでいたんですね?」
「? はい。読まないと内容は分からないかと」
「ですよねえ〜。ははははは」
何か、笑いが硬いと言うか、笑顔だけど困惑しているように見える。
「図書館って面白いの?」
そんなトンブクトゥは関係ないとばかりに、クロリスが好奇心のある顔を覗かせてくる。
「僕が活用していたのは一般閲覧エリアだけど、様々な職業の就き方や、就いた場合、どんなスキルや魔法が修得習得獲得出来るのかとか、他にもこの世界の成り立ち、この街の詳細な地図、オススメの料理店や宿の情報、様々な地方での習俗、とある英雄の生涯を描いた冒険禄や、この世界ではない別の世界を描いた小説など、様々な本が閲覧出来るんだ」
「へえ、面白そうね!」
「うむ。実に興味深い」
「今すぐ行ってみたいのよ」
クロリスだけでなく、グレイも興味を持ってくれたようだ。
「でも冒険者……と言うか、プレイヤーやストレンジャーは図書館で出来るのは閲覧だけで、本を借りて持ち帰る事は出来ないんだ。それなのに人気の本やシリーズ本は、シチズンの人が借りていっちゃうから、続きが読みたくても、読めない事があるのが難点かなあ」
「思いっ切り図書館を活用していますね。はは」
あれ? 何かトンブクトゥに呆れられてる? 話詰まらなかったかな? まあ、プレイヤーさんは本屋で専門書を買うのが普通らしいからなあ。……トンブクトゥってプレイヤー? 雰囲気はプレイヤーっぽいんだよねえ。
「えっと、話の腰を折って申し訳ありませんけど、トンブクトゥって、プレイヤーですよね?」
「えっ!? ええ。そうですよ」
間違ってなかったか。
「そんな事はどうでも良いわ! 今すぐ図書館に行きましょう!」
「痛てて。クロリス耳を引っ張るなよ。グレイも地味に腰を締め付けるのやめてって」
どうやらふたりは図書館に興味が湧いたようで、僕を図書館へ向かわせようと急かしてくる。
「まずはギルドに行くのが先だから」
「ええ〜。図書館行ってからでも良いでしょう?」
「いやいや、大事なんだよ。どの職業に就いているかとか、その職業のギルドランクがどれくらいかで、一般閲覧エリア以外の本が、閲覧可能性になるんだ」
「ふ〜ん。じゃあ仕方ないわね」
「うむ」
「うん」
どうやら理解してくれたらしい。
「じゃあ、まずは近場の芸術家ギルドに向かおう」
「え?」
『??』
「ほえ?」
三者が、鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔となり、それが面白くて少し笑ってしまった。
「錬金術師ギルドにも後で行くけど、先にもう1つの就ける職業を獲得しておきたくてね」
「戦闘力に難ありの錬金術師を選ぶと言うので、もう片方は戦闘系の戦士ギルド、兵士ギルド、魔術師ギルドのどれかから選ぶと思っていましたが、芸術家ギルドと言う事は、【吟遊詩人】や【音楽家】、【画家】などの、支援職に就くつもりですか? 確かに、おふたりの攻撃力を鑑みれば、それも一考に含まれますが」
流石にトンブクトゥもここら辺の情報には詳しいらしい。でも、
「いや、支援職を選ぶ気はありません。折角ふたりが僕の意向を支持してくれているみたいなので、ここは僕の好きに職業を選ばせて貰おうかと思って」
と答えれば、トンブクトゥも考え込む。芸術家ギルドにどのような職があったか思い出そうとしているようで、暫く黙考した後、顔を上げて、これが正解かな? と言う答えを口にする。
「もしや【踊り子】ですか? あれは支援職系統ですが、【踊り子】なら身体を動かす職なので、兼業や副職業に入れておけば、戦闘力の向上も望めますから」
「惜しいけど違います」
僕が違うと首を左右に振れば、正解を外してがっくりと肩を落とすトンブクトゥ。何だかんだ、トンブクトゥもリアクションがオーバーなところがあるなあ。
「じゃあ、何になる気?」
僕の周りを回りながら尋ねてきたクロリスに、それが可愛らしくて、「何だと思う?」なんて意地悪な返答をしたくなるが、そんな事をすればクロリスの不興を買って、何をされるか分からないな。ここは素直に答えよう。
「【軽業師】だよ」
「成程!」
「…………」
『…………』
トンブクトゥは納得してくれたが、クロリスとグレイはだんまりだ。昨日、ギルマスとの会話で僕は、自分がまるで道化だ。と嘆いていたからね。
「ふたりが言いたい事は分かるよ。だからこそ、僕が選ぶのは道化の道なんだよ。考えてもみなよ。道化と侮っていた相手が、自分たちよりも優秀な冒険者となったりしたら?」
僕が言いたい事、やりたい事がふたりに伝わったようで、ふたりともワクワクした顔をしだした。
「最高の意趣返しだろう?」
「ええ!」
『正しく』
ふたりの説得に成功した僕は、その足で芸術家ギルドへ向かうのだった。




