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エンカウント

「バカだと!?」


 僕の言葉が癇に触ったリーダーが、腰の剣を抜いて、僕へ向かって歩いてくる。


「おい。もう殺しちまうのかよ?」


「別に良いじゃねえか。ダンジョンで死んだって、帰還の魔法陣で生き返って戻れるんだ。あとは、こいつがもうダンジョンに潜りたくなくなるように、楽には殺さねえ」


 リーダーに触発されたのか、3人とも剣を抜き、僕へと迫ってくるのだが、僕はそれどころではない。僕をストレス発散で殺そうと、パーティに誘う冒険者は、この1年でいなかった訳じゃない。しかし、そう言う輩は往々にして知らないのだ。僕の『スキル』を。


 僕はこの3人から距離を取ろうと、すぐに走り出すが、二重のデバフがその足を鈍らせる。そんな俺が面白いのか、相手は汚い笑い声を上げながら、歩いて近付いてくる。気付いていないのか? 自分たちまでデバフ(・・・)を受けている事を。


「ギャハハッ!」


 と高笑いする3人は、謂わば宣伝塔だ。ダンジョンでバカ笑いなどすれば、そこへ向かってダンジョン内のモンスターが寄ってきて当然。今も、狼型のモンスターや豹のようなモンスターがこちらへ駆けて来ている。しかし俺を殺す事しか考えていない3人は、それに気付いていなかった。


 そして……。いつもであれば、このランクのモンスターを倒す事も、難なくやり遂げるのだろうが、今は僕のデバフで3人は動きが鈍くなっている。そんな3人はモンスターからしたら良い標的である。襲い来るモンスターたちに抵抗出来ず、5分と掛からず3人は光の塵となって、幾つかのアイテムを残して消えたのだった。


 最悪だ。3人が塵となった事じゃない。3人を塵にしたモンスターたちが、次の標的として、僕へ襲い掛かってきた事がだ。


 ダンジョンにはルールがある。1つ、転移陣でしかダンジョンへは転移出来ない。1つ、最低でも1匹、モンスターを倒さないと転移陣から帰還出来ない。1つ、死ぬとランダムでアイテムロストして、冒険者ギルドの死者専用帰還の魔法陣に死に戻る。


 僕にCランクダンジョンのモンスターを倒せる訳がない。つまり死に戻る以外に、僕がダンジョンから脱出する方法はない。ないのだが、


「がはっ!」


 豹のようなモンスターが、(まり)を転がすかのように俺を前足で弄ぶ。これがあるから、上位のダンジョンは嫌なんだ。このランクのモンスターなら、僕を殺す事なんて造作もない。でも、僕のような弱い生き物は、こいつらからしたら珍しいのだ。だから、弄ぶ。僕の身体を転がし、甘噛みし、僕が傷付いていく様をゲラゲラ笑うように、僕の身体を弄ぶのだ。


「このっ!」


 そんな目に遭わされるのが嫌で、僕は腰からナイフを取り出し、それを矢鱈目鱈に振り回すが、そんなものはひらりと軽々躱されてしまう。それでも僕は最後までナイフを振り回す。それは僕の【ザコボッチ】のスキル『頑張る』が、パッシブで常時発動するから。僕の身体はモンスターにされるがままに殺される結末を許さない。だから必死に生き汚く足掻く事となる。


 そしてそれが面白いかのように、Cランクのモンスターたちは僕を弄ぶのだ。いつまでも動く玩具を手に入れたかのように。


「もう! 煩いわよ! あんたたち!」


 そうして今日も、これまでと変わらない結末を迎えるはずだった。しかし今、そこへ割って入ってきた者がいた。


 その者は小さく、僕の手の平に乗る程の身長をした人型で、腰まで伸びた髪と瞳はアズライトのような藍色で、顔の造形は美しく、その背には金の意匠が施された、蜻蛉のような透き通った羽根を、2対4枚生やしている。着ているのは葉っぱと花びらで作られた、綺麗なドレス。その小人は、


「フェアリー……?」


「フェアリー? じゃないわよ! この容姿を見て、何も感じないの?」


 フェアリーは、己をフェアリーと規定された事が余程嫌だったのか、僕の周りを威嚇するようにぐるぐる回っている。


「フェアリー……じゃない? ……の?」


 僕は周りをうろちょろするフェアリーよりも、その周囲、豹や狼型のモンスターの方が、今にも襲って来ないか気になるのだが、それらはこのフェアリーが乱入してくるなり、まるで子猫か駄犬の如く、その凶暴さのなりをひそめてしまった。


「全く、私がのんびりお昼寝していたら、ギャーギャー騒ぎ出して、何事かと思えば、弱い者イジメ? あなたたち、随分と良いご身分ね?」


 怒り心頭のフェアリーに、後退るモンスターたち。こんな、ともすれば僕より弱そうフェアリーが、そんなに怖いのだろうか?


「人間! 手を出しなさい!」


「え? はい」


 有無を言わせぬフェアリーの圧力に、僕は思わず右手を差し出していた。すると、フェアリーが僕の中指にその手を添える。瞬間、眩い光がそこから発生し、僕は目を開けていられなくなり、目をキツく結ぶ。そうして数瞬の時が流れ、僕が恐る恐る目を開くと、


『フェアリーエンプレス、個体名、『クロリス』より仲間申請がきています。受け取りますか? YES/NO』


 との表示が、中空のウインドウに出された。先程の連中が、何かのマジックアイテムを使った強制参加とは違う、正式な仲間申請だ。そして死に戻ったさっきの3人は、既にパーティから外されていた。そう言うマジックアイテムだったのだろう。


「何しているのよ! 早く私をパーティへ入れなさい! 死にたいの!?」


 フェアリーエンプレス? のクロリスからの声に弾かれるように、僕はYESを押下してしまった。


「…………へえ。面白いスキル持っているじゃない。まあ、私にはぴったりね。強くなり過ぎて、戦う相手がいなくなっていたから」


 そう口にしたクロリスの顔は、獰猛な肉食獣が獲物を見付けたかのように、僕には凶悪に見えた。


「さあ、死になさい!」


 腹に響くクロリスの声が、周囲に木霊した瞬間、俺を囲い弄んでいたモンスターたちが、一斉に逃げ出す。しかしそれは叶わなかった。


波刃の緑嵐(ブレードストーム)


 それは、近くにいる僕だから聴こえるくらい小さな声。しかしその声が齎した結果は、甚大なものだった。


 僕たちの周囲を緑の嵐が吹き荒れ、それに触れたモンスターたちは、細切れにされるようにバラバラにされていく。風刃の嵐が、花畑を土ごと巻き上げ、そこから逃げ出す事叶わなかったモンスターたちが、光の塵となって消えていった。残ったのはモンスターの素材だけだ。


「うわあ〜〜」


 正直引いた。ダンジョン内では、死んだ者は人間もモンスターも光の塵になるとは言え、それまでの過程があるのだ。毛皮が、肉が、骨が、内臓が、バラバラになるその過程は、見ていて気持ちの良いものではなかった。


「ふっふっふ〜ん。私のお昼寝を邪魔した罪は重いのよ」


 それをなしたクロリスは、腰に手を当てふんぞり返っている。


「さ、行くわよ人間!」


 そして僕の方を振り返る。


「行く? どこへ?」


 訳が分からず尋ねると、


「勿論! ここのボスを倒すのよ! 今の私はヤル気よ!」


 言ってシャドーボクシングをするクロリス。


「え? 僕のスキルを分かって言っている?」


 理解出来ずに再度尋ねると、


「分かっているわよ。弱くなるんでしょ? それくらいのハンデがないと、ここのボスなんて相手にならないわ」


 と再度ふんぞり返るのだった。


 その姿に嫌な予感がして、僕が自分のステータスをウインドウに表示させると、


『お荷物Lv10ext』:【ザコボッチ】の称号持ちが仲間にいる場合、パーティの仲間全員の全ステータスに55%のデバフ、獲得経験値が55%減らされる。


『空回りLv10ext』:【「ザコボッチ】の称号持ちが1人でない場合、【ザコボッチ】の称号持ちは全ステータス37%のデバフ、獲得経験値が37%減らされる。


『頑張るLv16』:【ザコボッチ】称号持ちが1人で行動した場合、獲得経験値に0.17%上乗せされる。


 と出ている。先程の嵐は凄かったからなあ。それにここはCランクダンジョン。そりゃあレベルも上がるだろう。そしてそこから分かったのは、『お荷物』と『空回り』はレベル10が上限なのだろうと言う事。レベルの後ろにext(エクステンション)と付いているのが気になるが。


 それに対して『頑張る』の上限は分からない。けど、クロリスと一緒に行動するなら意味がない。僕は両者に不利益しか振り撒かないスキル持ちだと言うのに、何故クロリスはあんなにヤル気、いや、殺る気なのだろうか? まだパーティ解消すれば、本来の実力を発揮出来るのに。


「ふっふっふ〜ん。ボッコボコにしてあげるわ!」


 本当に何故?



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