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0と1の世界でブラックシープ共は夢に溺れる  作者: 西順
第一章 異分子の台頭
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寝起きの顔

 目が覚めると、見知った天井だった。宿屋の物置部屋の天井。ああ、僕はダンジョンからこのエイトシティに戻ってきたんだなあ。と変なところで実感する。


「ふあ〜あ」


 あくびをしながら、ハンモックから下りる。僕の頭の上で眠っていたクロリスは、僕が起き上がった事で眠っていた位置からずり落ちるように、ハンモックの真ん中に潜ってしまった。


「おはよう、マスター」


「目覚められたか、主殿」


「うん、おはよう」


 グレイと寝起きの挨拶を交わし、顔を洗う為に部屋の出入り口に向かう。物置部屋の窓はカーテンが掛けられ暗くはあるが、そこから淡い陽光が漏れて差し込んでくるので、真っ暗闇と言う訳でもなく、部屋内を歩くのには支障ない。


 ✕ ✕ ✕ ✕ ✕


 洗面所で顔を洗い、鏡で自分の顔を改めて認識する。顔は中性的で整っており、髪は灰色にところどころエメラルドグリーンが星のように散らばった緑灰色。眼は両眼ともヒマワリのような黃オレンジ色をしている。それだけだ。髪と眼に少し特徴があるだけで、外を出歩けば良く見掛ける顔。着ている物だって普通の布の服だ。つまり何の特徴もない姿形だ。ウィンザードが、僕と言うアバターを作るに当たり、どれだけ適当に作ったかが窺えた。


「おはよう、ゼフ。…………何? 自分の顔、綺麗……。とか思っちゃっているの?」


「おはよう、クロリス。そんな訳ないだろう。街で良く見掛ける顔だと、改めて思っただけだよ」


 寝起きの開口一番がそれって、どうなんだい? クロリスさんや?


「ふ〜ん。何でも、おシャムール様と同じ世界からこちらへ遊びに来るプレイヤーの多くは、シャムランドでの顔と違って、ブサイクなのが多いらしいわよ?」


「へえ、そうなんだ」


 なんて会話をしながら、3人で食堂へ向かう。


「おはようございます」


「あら、おはよう。もう起きて大丈夫?」


 食堂のキッチンから声を掛けてきたのは、シューシさんの奥さんのダーラさん。基本的にこの2人に娘のシナイさんの3人で宿屋を営んでおり、冒険者ギルドには、この宿屋の手伝いが常設クエストとして張り出されているが、人気はないので、僕の手伝いでもありがたがってくれる。僕はギルドを通さず個人で受けているから、支払われるのはお金じゃなく、宿泊代として、物置部屋に泊まれる権利だけど。


「はい。昨日はお騒がせしました」


「何を言っているんだい。騒がせたのは、性質(たち)の悪い冒険者だろう? トム……、じゃなかった、ゼフが謝る事じゃないよ。朝食、食べていくんだろ?」


「ありがとうございます」


 ダーラさんの優しさが身に沁みる。いや、シューシさんもシナイさんも優しいんだけどね。


 朝食(夜のないこの世界では、寝起きに食べる食事をそう呼ぶ)を食べる為に、食堂の隅の席に座ると、食堂がいつもより少し騒がしい。


「昨日の今日だからねえ。泊まっていた客は、騒動の事知っているよ。あんな悲鳴を聞かされたら誰だって、何事!? ってこっちに問い合わせてくるよ」


 多少ぶっきらぼうにそう言いながら、シナイさんが朝食が載ったプレートを持ってきてくれた。


「ですよねえ」


「ま、ゼフが気にする事じゃないよ」


 気不味そうにする僕に、そう声を掛けて、シナイさんは他の席へも朝食を運んでいく。僕の視線はそれに伴い、自然と周囲の宿泊客に目が行くが、僕が視線を向けると、皆視線を逸らす。ここの客はシチズンが殆どみたいで、シチズンからしたら、死ぬかも知れない面倒事には近寄らないに越した事はないのだろう。


 僕は視線を朝食のプレートへ移し、BLTサンドと目玉焼きにソーセージ2本、それにミルクと言う、いつものプレートを食していく。


「レベル1のストレンジャーでも、まともな朝食を出してくれるのね」


 感心するクロリスだけど、


「この後キッチンで手伝いをする。って言う前提があるから、出してくれているんだよ」


「成程」


 と委細理解したクロリスだった。


 ✕ ✕ ✕ ✕ ✕


 朝食を食べた後、キッチンで食事の下拵えをしたり、皿洗いしたりと、いつも通りの日常を過ごし、今日も今日とて冒険者ギルドへ向かう。


「ゼフが料理出来る理由が分かったわ」


 理解が早くて助かる。って思えば良いのだろうか?


「ああ、まあ。1年くらいあの宿にはお世話になっているしね。しかもレベルが上がって、『料理複製』が出来る事がバレちゃったし、更にこき使われる未来が見える」


「楽しようとするからよ」


 ここのところ、時短の為に『料理複製』でばかり料理をしていた影響で、今日も当たり前のように『料理複製』してしまったのだ。シチズンは基本的にダンジョンに潜らないからか、レベルが上がり辛いらしく、宿屋の3人は『料理複製』のスキルを持っていなかった。思い返せば、いつもちゃんと調理していたもんなあ。それで僕の『料理複製』がバレたので、なら今後も……。と請われるのは当然か。でも必要とされるのは悪くない気分だった。冒険者として手隙の時に。との条件で、今後も宿屋の食堂で調理するように約束させられてしまった。


「しかし、昨日の今日で、冒険者ギルドに行くのはどうなのだ?」


 グレイ(男)は僕が冒険者ギルドに行くのを、少し不安に思っているようだ。まあ、昨日寝込みを襲われたのだ。厄介が降り掛かってくるのは想像に難くない。


「う〜ん。でも、昨日はギルマスと話しただけで、疲れて基礎レベルを標準レベルに上げるのを、すっかり忘れていたから」


「うむむ。それは確かに。今後の冒険者活動に直結する故、行かねばならない事は理解した」


 納得してくれたようだ。


「ふん。マスターにちょっかい掛ける他の冒険者なんて、あたちがなます切りにしてやるのよ」


 グレイ(女)は、触れる者全てを傷付ける年齢らしい。


「それをダンジョンの外でやると、モンスターでも官憲に連れて行かれるから、大人しくしていなさい」


 とクロリスが窘める。珍しいな。こっちも戦闘狂なはずなのに。と思考を巡らせ、


「もしかしてクロリス、官憲に連行された事ある?」


 これにギクリと肩を竦めるクロリス。……あるんだ。


「あ、ははは。昔ちょっとねえ。今は節度を弁えているわよ」


 ジーッと見詰める僕たちの視線に耐えられなくなったのか、


「さあ、冒険者ギルドが待っているわ! いざ征かん! 冒険者ギルド!」


 と話題を逸らすクロリスだった。


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