道化の嘆き(前編)
「最先端ランクのユニークモンスターは、ランダムで魔王になるんだ」
ギルマスにもう1度言われた。聞き取れなかった訳じゃなくて、理解が追い付かなかっただけなんだけど。
「え? それって、クロリスかグレイのどちらかが、次の魔王になるって事です……か?」
自分で口にしていても意味分からないけど。
「おふたりと決まった訳じゃない。第三の最先端ランクユニークモンスターが、この地方に存在しないとは言えないからな。が、可能性は低い」
「第三の最先端ランクユニークモンスターはいないと?」
僕の問いに眉根を寄せるギルマス。
「前回、『百魔王侵攻』に対抗する為に、地方中の冒険者が、魔王候補を探し回ったが、侵攻前に見付かったのは、1地方に1から2体だった」
ああ、成程。ここにその2体が揃っている訳か。ギルマスは腕を組みながら、厄介な事になったと瞑目する。それはそうだろう。どこに行ったか分からなかった僕が、魔王候補2体を仲間にして戻ってきたのだ。どのように対応するべきか、冒険者ギルドとしても困るだろう。
━━魔王。記憶に新しいのは、半年前に行われた『百魔王侵攻』だ。このシャムランドには、100の地方があり、その中に村、町、街、都市、大都市がある。その100ある各地方全てに魔王が出現した。これが『百魔王侵攻』だ。因みに僕はレベル1だったので、これに参戦出来なかった。
半年前の『百魔王侵攻』では、出現した100体の魔王は全て討伐されたのだが、他の冒険者の話では、今後は年に1回のペースで魔王が出現するのではないか。と噂されている。
「でも、それって噂話でしょう? 10年後かも知れませんし、100年後かも知れない」
僕の発言に苦味とともに瞑目したまま眉根を寄せるギルマス。
「いや、上の方針で、プレイヤーを飽きさせない為に、今後は1年に1度、『百魔王侵攻』を開催するらしくてな。それに備えて行動するように言われているんだ」
「はあ……?」
確定事項なのか? 魔王と冒険者ギルドって、裏で繋がっているのか?
「でも僕は、少なくともそれを望んでいませんけど?」
僕がそう口にすると、ギルマスはミリー嬢と顔を見合わせ、それからクロリスとグレイに視線を向ける。
「ゼフにそれを説明するのは、冒険者ギルドのギルドマスターであるあなたの役目でしょう?」
クロリスの言葉に、喉を詰まらせるギルマス。周囲の反応から、余程僕に言い難い何かを、僕以外の皆は共有しているようだ。
「大丈夫よ。ゼフは『意思』も『意志』も強いから。真実を聞かされても、自ら消滅を選ぶような事はしないわ」
「信用、しておられるのですね」
「ええ」
「無論だ」
「当然よ」
三者の言に、覚悟を決めたのか、ギルマスは改めて僕に向き直る。
「ゼフ、お前は人間じゃない」
「…………」
ギルマスは何を言っているのかな? ここにきて冗談? あれか? 僕の気持ちを和らげる為に気遣ってくれているのかな?
「あの、そう言う冗談は結構ですので、本題を話して貰えますか?」
「冗談じゃない」
冗談じゃない? いや? いやいやいや? おかしい。それはおかしいだろう。
「僕は人間だから1人2人と数え、クロリスやグレイはモンスターだから、1体2体と数えると、クロリスが言っていましたよ」
この僕の発言のどこを思ってそのような顔になったのか、明らかにギルマスもミリー嬢も、僕に同情の視線を送ってくる。
「そうだな。言い方を間違えた。俺も、お前も、蒼炎の翼なんかの冒険者も、皆カテゴリーは人間だ」
「はあ……? カテゴリー?」
「ああ。だが、この三者は、そのまま3つのカテゴリーに細分化される」
お、おお? 人間の中に、カテゴリーが存在する?
「それは冒険者としてのランクとか、職業の違いとは違うんですか?」
「違うな。もっと根本的なものだ」
「根本的?」
僕が疑問を呈すると、ギルマスはここで一区切りしてソファに深く座り直し、もう1度僕の目を見て話し始めた。
「この世界、シャムランドには、3つのカテゴリーの人間が存在する。プレイヤー、ストレンジャー、シチズンの3つだ」
プレイヤー、ストレンジャー、シチズン、ねえ。僕は首を傾げながら、ギルマスに話の先を促す。
「この3つのカテゴリーだが、実際は2つに分類される。プレイヤーとそれ以外だ」
「プレイヤーとそれ以外って、随分と雑な分け方じゃないですか? ねえクロリス」
と横のクロリスに同意を求めて視線を向けるも、その目は、ギルマスの言葉が間違っていない。と物語るように真剣だった。
「どう言う事ですか?」
再度ギルマスに話の先を促す。
「このシャムランドと言う世界はな、プレイヤーが楽しく冒険する為に創られた世界なんだよ」
んん? 『プレイヤーが楽しく冒険する為に創られた世界』? そのカテゴリー分けだと、ストレンジャーやシチズンだけでなく、モンスターまでが、プレイヤーとそれ以外に分けられる事になる。そんなの、
「まるで僕たちが道化みたいじゃないですか」
この僕の発言に、部屋は静まり返る。それが、僕の発言が間違っていない事を肯定していた。
「嘘だ!」




