心は闘争を望む
「フッ……、フフフ、フフッ、ククク、クアッカッカッカッ!! 面白い! 何と可笑しな話よ! 生命持つ者よ! 益々気に入ったぞ! その身体、某が頂戴しよう!」
震えていたと思ったら、武者震いだった。そして僕の身体が欲しいと言われても、全力で拒否する。
「この身体も命も、『僕』のものだ。誰にも渡さない。勿論、お前にもだ!」
僕にしては強い語気で、スケルトングラッジスイーパーを牽制する。
「いいや、頂く!」
スケルトングラッジスイーパーの蛇腹剣が、舞台の床に突っ込んだと思ったら、その剣先が地面を伝って、僕の真下に現れた。それを僕はギリギリで躱すも、身体の前面を、肉を抉るように縦一文字に斬り裂かれた。
今までにない攻撃。ここでパターン変化してくるのか。僕は『ヒール』で傷を回復させながら、これまで以上に気を引き締めるように頭に今の攻撃を叩き込む。
✕ ✕ ✕ ✕ ✕
「カッカッカッ!!」
高笑いを発するスケルトングラッジスイーパーの攻撃は、これまで以上に読めなくなってきていた。
「ハァッ!!」
また地面から来た不意打ちをバックステップで躱すも、それでスイーパーの攻撃は止まらず、宙へ浮いた剣先が、ぐるりと弧を描いて、今度は真上から攻撃してくる。それもバックステップで躱せば、次は下から、その次は上から、と次々と攻撃が連続して襲って来る。
真下や真上からの攻撃は、『見切り』でも視界を広く取らないと軌道が読めず、何度か攻撃食らっているが、そのお陰で、軌道の予測が出来るようになってきていた。
「ここおっ!!」
上下からの連続攻撃に対して、僕はタイミングを合わせて、剣を横薙ぎに振るう。ギィンッ! と言う金属の擦過音が舞台に響き、僕の攻撃で弾かれたスイーパーの蛇腹剣が、攻撃に失敗した蛇蝎の如く、主の元へ帰っていき、剣の形を成す。
「カッカッカッ!! その反応! 素晴らしい! 素晴らしいぞ! ではこれではどうだ?」
スイーパーは蛇腹剣を身体の後ろに持っていくと、そのままこちらへ走ってきた。何だ!? と剣を水平にして身構えると、スケルトンの身体を隠れ蓑にしての、出所の分からない八方からの斬撃が繰り出された。
相手が骸骨だから、その骨の隙間から少し軌道が見れたので、初見でも対処出来たが、人間の身体でこれをやられたら、初撃は食らっていたかも知れない。
「やるな! ならばこれはどうだ!?」
スイーパーは、背後からの連撃では俺の防御を崩せないと考えたのか、今度は蛇腹剣を前に持ち突きの姿勢となる。
そこから繰り出されたのは、蛇腹剣の剣身の関節を捻りながら繰り出される回転突き。その威力は凄まじく、何とか剣の鍔で受け止めるも、そのまま最下層の壁まで押し込まれてしまった。それと同時に鍔が破壊された。
「カッカッカッ!! 楽しいなあ。これか……? これが生の実感か? これが生の悦びか? 素晴らしいぞ! 某の内から、得も言えぬ情動が湧き出てくる!! カッカッカッカッカッカッ!!」
また先程と同じ突きをしてきたので、今度は横っ飛びで何とか逃れる。振り返り、突きが繰り出された場所を確認すれば、高威力の何かが貫通した跡が残されていた。あれが直撃したら、俺の身体じゃ耐えられないな。
しかし、と剣に目を向ければ、鍔は破壊され、剣身も蛇腹剣の攻撃を弾き続けた結果、いつ壊れてもおかしくない状態に見える。ここで剣をなくしたら、クロリスから、予備を受け取るより先に、本当にスケルトングラッジスイーパーに押し込まれて死ぬな。なら!
「次でお前を倒す」
「カッカッカッ!! 良い! 良いぞ、その殺気! 心地良い! もっとだ! もっと某に生を感じさせてくれ!」
クロリスに負けず劣らぬ戦闘狂丸出しのスイーパー。そんなスイーパーに向けて最後の攻撃を加えるべく、剣に周囲からMPを吸収させながら走り出したその時、
「グルルルルアアアアアアッ!!」
クロリスが最下層の入り口でアンデッドの侵攻を押し留めていたのを嫌った、どこぞのアンデッドか、階段からこの最下層に飛び降りてきて、僕とスイーパーの間に陣取る。それは4本ある手全てで剣を持ったグールであった。
「くうっ!」
思わず眉間にシワが寄る。僕は既に戦闘態勢に入っており、攻撃を中断出来ないところに入っていたからだ。もう、最後の攻撃をこいつにぶつけるしかない。
「『スラッシュダブルクロス』!! 『スラッシュクロス』!! 『一文字斬り』!! 『三段突き』!! 『怨念瀑布』ううっ!!』
最初の『スラッシュダブルクロス』でグールこ4本の腕を斬り落とし、『スラッシュクロス』で腹に、『一文字斬り』と『三段突き』で追撃し、『怨念瀑布』でグールの身体を木っ端微塵にした。
これによって邪魔者は排除出来た。が、こちらが先に邪魔者へ手を出した事で、僕はスイーパーに対して大きな隙を晒してしまい、硬直した姿勢のまま、スイーパーへ視線だけを向ければ、こちらへ向かって、あの突きを繰り出すスケルトングラッジスイーパーの姿が、僕には凄くゆっくり動いて見えた。
じわじわと僕の命を刈り取ろうと、正しく突き出されたその突きに対して、僕はそれを見続ける事しか出来ず、「ああ、ここで戦闘終了か」と心の奥底で侘しさが顔を覗かせた気がした。それに反応して、『頑張る』が、まだ何か出来ないかと、脳みそを働かせているのが分かるが、硬直した身体で出来る事などないと言う結論に至り、僕は目を閉じた。
ギャギイインンッ!! と金属の擦過音が鳴り響いたのは、そのすぐ後であった。耳元で聞こえたその音に驚いて目を開くと、僕が握っていた剣が、その剣身を砕けさせながら、スイーパーの突きを僕から逸らしていた。
何が起きたのか、僕には理解出来なかった。が、闘いは終わっていない。それだけは素早く理解した僕は、スイーパーへ向けて駆け出した。
先程までより身体が軽い? 視界に入る簡易ステータスを見れば、僕のレベルが50/50となっている。先程のグールを倒した事で、レベルが上限に達したのだ。そして表示される新たなスキル。
『闘争本能』:MPを捧げ、一時的に闘争本能を呼び覚ます。『闘争本能』使用時間中、全ステータスに+100%。1秒毎に1MP消費。
『ラッシュアワー』:60連撃を敵に叩き込む。クールタイム1時間。
面白い!
「うああああああああっっ!!!!」
僕は『闘争本能』を使い、全ステータスを底上げしてスイーパーに肉薄すると、『ラッシュアワー』をスイーパーに叩き込む。もう、これが、これこそが本当に最後の攻撃だ。頼む! 倒れろ! 倒れてくれ! そう願いながら、僕は一心不乱に砕けた剣を振り回し続けた。
「はあっ、はあっ、はあっ……」
僕は賭けに負けた。蛇腹剣で自身の周囲を覆い、己の身を守ったスケルトングラッジスイーパー。その蛇腹剣もボロボロだが、僕の剣はスイーパー本体まで通らなかった。剣が砕けていなければ、突き技も絡められたが、砕けた剣ではそれも無理だった。なので己の全力を叩き付け、それでも全力で己を守ったスケルトングラッジスイーパーの守りを破れなかった。
僕が技後硬直とMP枯渇に陥り、棒立ちとなったのを見て、スイーパーが、蛇腹剣を剣状態に戻し、上段から僕の命を刈り取ろうと振り下ろす。
「だと思ったよ」
僕はそれをブリッジさながらに身体を逸らして躱しながら、両足を蹴り、スイーパーの股の間を抜けて、スイーパーの背後に回ると、無理矢理身体を反転させて、スイーパーの背後を攻撃しよう砕けた剣を振るうも、
「で、あろうよ」
とスイーパーもまた、1歩前に出て、僕の剣を躱した。これに僕は愕然となり、敗北の2文字が頭を過ぎった時、僕の手から、剣がまるで自ら飛び出したかのようにすっぽ抜け、スケルトングラッジスイーパーの背骨に当たった。
偶然の一撃。だが、それが致命の一撃だった。スケルトングラッジスイーパーは、立っているのもやっとだったらしく、この一撃で、砕けて骨片となったのだった。




