表記揺れ
『空回り』の表記を直しました。
「ふっ!」
スイーパーが伸長させてきた蛇腹剣の剣先を僕が払うと、それにタイミングを合わせるように、スイーパー本体がこちらへ肉薄し、同時に剣状態に戻った蛇腹剣を上段に構え、袈裟斬りで僕へ攻撃してきた。
しかし『見切り』でその行動を予測していた僕は、スイーパーの袈裟斬りを躱しつつ、スイーパーの膝に一撃入れながら、スイーパーの後ろへ回り込むと、『バックスタブ』で更に一撃入れようとするも、蛇腹剣が蛇蝎の如く伸長し、グニャリと曲がり、背後からの僕の攻撃を弾く。
「くっ!」
蛇腹剣はそのまま背後の僕を攻撃してくるので、ステップで2歩3歩と距離を取り、また剣を水平に構える。
それに対してゆっくりとこちらを振り返るスイーパーに対して、今度はこちらから攻撃を仕掛ける。
「はあっ!!」
気合いとともにスイーパーへ肉薄しながら、剣にはMPを周囲から吸収するように念じ、『スラッシュダブルクロス』、『三段突き』、『スラッシュクロス』、『スタブ』とアーツチェインで繋げ、最後に『怨霊自念の剣』固有アーツ『怨念瀑布』を、最大値までMPを溜めた状態で放つも、
「カッカッカッ!!」
蛇腹剣を伸長させて、自身の周囲に張り巡らせた防御技で、その全てを弾き返されてしまう。が、
「分かっていたよ」
ここまでの攻撃は布石。『怨念瀑布』で視界が悪くなったところを狙って、スイーパーへ近付くと、『念翔突』を飛ばして、蛇腹剣の隙間からスイーパーへ一撃当てる。そしてすぐにその場から退避する。
「おのれッ!!」
怒り心頭のスイーパーが、所構わず周囲を蛇腹剣で打ち据える。スイーパーは自身の蛇腹剣の攻防一体の技術に絶対の自信を持っているらしく、それを抜けて攻撃を当てられると、あのように暴れまくるのだ。
「やってくれるな! 流石は『怨霊蠱毒の壺』をここまで踏破してきた強者よ! きっと外の世界では、名のある武者であった事だろう!」
外からやって来た自身を脅かす者の登場が嬉しいのか、それとも憎らしいのか、蛇腹剣をこちらへ突き付けながら、語るスケルトングラッジスイーパー。だが残念。
「お前が今相手にしている者は、外で最弱の称号を与えられた、最弱の冒険者だ」
「………………え? 嘘?」
何か今、スケルトングラッジスイーパーの素が出たな。いや、今それは関係ない。
「本当だ。しかもその最弱称号のスキルのせいで、本来の実力の8%しか出せてないから、超弱い」
「……………………いや、いやいやいや、それはないだろう!? 某がこの地の底で、どれだけの年月怨霊どもと闘ってきたと思う。どれだけの怨念を蓄えてきたと思う。この力、少なくとも新人冒険者が対等に闘える力量とは到底思えん! いや、嘘だよね?」
「そうだな。新人の枠組みをそれまでの冒険者業の年月で表すのか、レベルて表すのか、意見の割れるところだろうが、少なくとも、この地に足を踏み入れた時、僕のレベルは基礎と【冒険者】を足して32レベルだった。そして今、基礎と【冒険者】のレベルが49。足して98だ」
「レベルがたったの98ぃっ!?」
僕のレベルを知り、スケルトングラッジスイーパーは、思わずクロリスの方へ視線を向ける。これに対して、上からやって来るアンデッドたちの対処に追われているクロリスは、煩わしそうにしながらも、首肯で返す。
「そ、そんな……」
思わずその場にへたり込むスケルトングラッジスイーパー。そりゃあ、未だ発見者ゼロのダンジョンで闘い続け、経験値を蓄え続けてきたボスが、ぽっと出の最弱冒険者と、死闘を繰り広げているなんて、何かの間違いと思い込みたいだろう。しかし事実だ。
「ただし、1つ訂正があるわ」
そこへクロリスから鈴のような声が飛んでくる。それで僕もスイーパーもそちらへ顔を向ける。
「ゼフ、『空回り』の説明文を読み上げなさい」
「今?」
「そうよ」
そうか。必要なのか?
「……ええ、『空回りLv10ext』は、【ザコボッチ】の称号持ちが1人でない場合、【ザコボッチ】の称号持ちは全ステータスへ37%のデバフ、獲得経験値が37%減らされる。だね。今はクロリスといるから、全ステータスが37%減少しているはず。これに『お荷物』の55%も追加されるから、全ステータス92%減だよ」
この説明に愕然とするスイーパー。
「そうね。本来であれば92%減でしょうけど、『空回り』は、【ザコボッチ】の称号持ちが1人であれば発動しない」
「だから、クロリスと一緒にいるから……」
「私はモンスター。だからその数え方は『1体』、または『1匹』よ。そう考えると、ゼフは今も『1人』だから、『空回り』による37%減はないはず。でなければ、この『怨霊蠱毒の壺』の底まで来れなかったはずよ。ステータスをちゃんと確認してみた?」
クロリスにそのように説明されて、改めてステータスを確認する。僕の場合、HPMPにSTR、AGI、VIT、DEX、MND、LUKの横に、(−〇〇%)の表記がなされる。
今まではほぼ固定で(−10%)となっており、時々、僕をボコしたい連中が、僕を偽りの仲間に引き入れた時に(−20%)と表記されるくらいだった。
しかし今はどうだろう。確かにクロリスの指摘通り、『空回り』の分は減っておらず、『お荷物』の(−55%)だけと、……なっていない?
「クロリス! ステータスは(−32%)になっている!」
「はあっ!?」
これにはクロリスも変な声を上げてしまったが、「ああ」とすぐに何かに思い至ったらしく、冷静にアンデッドたちを処していく。
「多分それ、『孤高』でステータスが1.5倍されているから、その影響ね」
成程、それなら納得だ。クロリスが仲間になってから、すぐに『お荷物』と『空回り』は上限に達してしまったので、その後、正確な確認をしていなかった。『孤高』も同様に、クロリスが仲間にいるから関係ないと決め付けていた。だけど実際はどうやら、僕は恥ずかしい勘違いをしていただけらしい。
「ごめんなさい。僕が間違っていました」
僕は非を認めて、スケルトングラッジスイーパーに頭を下げる。
「だからどうした!? 結局貴様が本来の能力以下の力で闘っていた事実は覆らんだろうが!」
まあ、スケルトングラッジスイーパーの言っている事は間違っていない。
「そこは本人のやる気が、プレイスキルを磨く方向に傾いていて、その方向にステータスが上昇、これに伴い獲得スキルもそれに寄っていたからなのが大きいわね」
とはクロリスの言。
「……つまり、某との圧倒的レベル差を、此奴はそのプレイスキルでもって、某と比肩する土俵にまで持ってきたと?」
「そう言う事よ」
スケルトングラッジスイーパーは、クロリスの淡々とした答えにその身を震わせた。まるで自身の今までの歩みが全否定され、それが許せないと全身で語るように、スケルトングラッジスイーパーはわなわなと震えていた。




