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0と1の世界でブラックシープ共は夢に溺れる  作者: 西順
第一章 異分子の台頭
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最底辺の称号

「はあ……、はあ……、はあ……」


 左右は石壁に閉ざされ、僕の前には恐ろしき青いスライム。両手で握るナイフは震え、それでも僕は勇気を振り絞り、そのナイフでスライムへと立ち向かった。


 ✕ ✕ ✕ ✕ ✕


「お帰り〜」


 冒険者ギルドの受付をしているミリー嬢が、ダンジョンで死に戻った僕を、感慨なく迎えてくれた。


「…………ただいま戻りました」


 そうやって帰還の魔法陣から起き上がる僕を、他の冒険者たちが笑う。恥ずかしさで逃げ出したいが、それをすればもっと笑われるのは、これまでの経験で分かっているので、僕はなんて事ないフリをして、ギルドの食堂のカウンター(の隅っこ)へ腰を下ろした。


「お帰り、トム」


 食堂のマスターが、僕の前に水を差し出してくれた。ダンジョンに潜った冒険者に対しては、水がタダで配られるからだ。僕はそれを一気に呷り、半分を飲み干す。


「ぷはっ」


「またスライムに負けたのか?」


 水を飲んで気を落ち着けた僕に、ダンディなマスターが声を掛けてきた。


「ええ、まあ」


 何とか返事をするも、僕の声も手も震えていた。最弱のスライム1匹倒せないザコの自分が情けなくて、これ以上話をすると涙が出そうになってくる。それを察して、マスターはそれ以上言葉を継げる事はしなかった。


『おおおおっ!!』


 そんな会話にもならない会話をマスターと交わしたすぐ後に、この冒険者ギルドと直結しているダンジョンから、どうやらパーティが帰還したらしい。


 帰ってきたパーティを囲うように人垣が出来て姿を確認出来ないが、


「蒼炎の翼だ!」


「蒼炎の翼が、Aランクダンジョンの『亜竜の巣窟』から帰ってきたぞ!」


 どうやら帰ってきたのは、蒼炎の翼だったらしい。僕は恥ずかしくて、人垣から顔を背け俯いてしまった。


「何階まで行けたんだ?」


「まさか、『亜竜の巣窟』をクリアしたなんて?」


 興奮する人垣の中心から、爽やかな男の声が聴こえる。


「いえ、10階のボスまでは倒したんですけど、それ以上は手持ちの回復アイテムが厳しくなったので、そこで引き返してきました」


 リーダーで【剣聖】の称号持ちのウィンザードの声だ。


「マジかっ!? 10階とは言え、Aランクダンジョンのボスを倒したのかよ!?」


 それに更に興奮する人垣の野次馬たち。


「まあね〜。楽勝楽勝〜」


「楽勝じゃなかったでしょ。これ以上は無理だって判断したから、戻ってきたんじゃない」


「俺の防御力があれば、11階の偵察くらいは出来た」


「楽勝」と口にしたのは【拳帝】の称号を持つエマで、それを諌めたのが【賢者】のシェリル。もう少し行けたと口にしたのが【衛王】のルガート。全員僕の幼馴染で、大きくなったら、同じパーティで頑張ろう。と誓い合った仲だった。それも15歳の時、この世界、シャムランドの創造神、シャムール様が称号を下さった時に破綻したけど。


 この世界シャムランドでは、15歳で大人と認められ、創造神であるシャムール様から『称号』を授与の儀式が行われる。その称号によって、使えるスキルが変わってくるので、その後の人生を大きく左右するものだ。


 蒼炎の翼の4人は、この10年、いや、50年でも授与された者がいないと言われる超上級ランクの称号で、対する僕の称号は、…………称号は、【ザコボッチ】と言う、最低ランクの中でもほぼ見られない、最底辺の称号だった。


 それでも、最底辺でもスキルが有能なら、4人に付いていく事も出来ただろうが、僕が【ザコボッチ】の称号で獲得したスキルは、


『お荷物Lv1』:【ザコボッチ】の称号持ちが仲間にいる場合、パーティの仲間全員の全ステータスに10%のデバフ、獲得経験値が10%減らされる。


『空回りLv1』:【『ザコボッチ】の称号持ちが1人でない場合、【ザコボッチ】の称号持ちは全ステータス10%のデバフ、獲得経験値が10%減らされる。


 と言う、とてもじゃないが、一緒にダンジョン探索など出来ないスキルであった。唯一の望みも、


『頑張るLv1』:【ザコボッチ】の称号持ちが1人で行動した場合、獲得経験値に0.01%上乗せされる。


 と言う、悲しくなる程どうでも良いスキルだった。4人と決別する事になったのは当然の帰結である。


 それから1年。蒼炎の翼はこの冒険者ギルドで最高のパーティと呼ばれるようになり、既にABCDEFの6ランクあるダンジョンで、最高難度のAランクダンジョンに挑戦している程。それに対して、僕は未だにFランクダンジョンの第1階層に出てくる、最弱のスライムにも負けてしまう程の弱さだ。この冒険者ギルドだけでなく、このエイトシティからしてもお荷物だ。


 それなら冒険者を辞めて、受付や食堂、または街で働けば良いのではないか? と思うだろうが、僕のスキルがそれを許さない。『お荷物』も『空回り』も、ダンジョンだけでなく、普通の職業でもデバフとなるので、どこかに所属、仲間となった瞬間に、そのパーティやグループ、団体は、僕のデバフの対象なのだ。なので僕はどこにも所属出来ない。因みに冒険者ギルドでは、名義こそギルド所属となっているが、個人事業主なので、どうにか抜け穴的にパス出来ている。


『おおおおっ!!』


 また歓声が上がる。どうしても気になってしまうので、ちらりと見れば、ギルドの素材受取所に、どっさりと亜竜(ワイバーン)の素材が山盛りとなっている。4人ともそもそも『アイテムボックス』のスキル持ちのうえ、大量に入れられるアイテムボックスを持っているので、帰還すればいつもああなる。


「うっ」


 不意に【賢者】のシェリルと目が合ってしまい、気不味くなって目を逸らしてしまった。向こうからの可哀想な者を見る視線に耐えられなかったからだ。


「マスター、ごちそうさまでした!」


 僕は努めて明るく振る舞い、また最弱のFランクダンジョンに挑む。いったいこの1年で何度目だろうか。


 ✕ ✕ ✕ ✕ ✕


「おい。いつになったらこの街から出て行くんだよ」


「バーカ。最底辺でも生活を保障してくれるエイトシティから出ていける訳ないだろ」


「ギャハハッ、違えねえ!」


 後ろから僕を嘲笑う声が聴こえるが、そんなのはいつもの事だ。僕は笑い声を聴きながら、ダンジョンへ続く転移陣に乗った。


「へっ?」


 思わず変な声が出てしまった。いつもであれば、どこまでも続く石壁の通路のダンジョンに転移するはずなのに、今自分がいるのは、花畑がどこまでも続く、広いフィールドだった。


「ギャハハッ! 気付かねえでやんの!」


 後ろから僕を嘲笑う声に振り返ると、男3人が俺を指差して爆笑している。どうやらこの男たちの仕業らしい。


「やったなあ。お前じゃ一生掛かっても来れない、Cランクダンジョンだせ!」


 パーティのリーダーらしい、どう見ても盗賊にしか見えない男がそんな事を宣う。


「へえっ? だってパーティになってないと、一緒のダンジョンには転移されないはず……」


「だから、俺たちがお前を俺たちのパーティに入れてやったんだよ」


「なんてバカな事を……」


 恐らく何かのマジックアイテムで僕をパーティに強制参加させたのだろうが、なんて愚かな事をしたんだ。


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