『5』時にハムエッグは嫌だ。 Want to know the nonsense story,won't you?
さて、僕こと西園寺洋介の人生は概ねつまらないものだったと言っても差し支えないだろう。
極めて、つまらないものだった。けれども僕はそれでも良いと考えている。
それでも良かったのかもしれない。
けれど、今は…。
「暑い…溶けちゃうよぉ…」
東京都大田区南雪谷…おんぼろアパート・徒然荘。その二階の廊下で、僕ともう一人、トラオア・フロイント・アミークスは空を眺めていた。
冷蔵庫にストックしていたアイス群は、全て何者かに平らげられていた。
「アミー…よく言えるよ…あんなにアイス食べといて…」
「暑いもん…暑いから仕方ないもん…」
うだる様な暑さ。やや蜃気楼のように揺れる空間。
陽炎を見る。
「セミの鳴き声って、最初はずっとうるさく感じて、でもずうっと聞いていると、それが『普通』になって、耳から流される。セミが居る時も、居ない時も、結局同じなのかな…」
何気なく僕は呟いた。
アミーは言う。
「そうかもね…」
「でもさ、セミが居るのが『普通』って、何だか嬉しくない?」
「冬には居なくなっちゃうんだから…」
あれから。
セラフィムが居なくなって、清水祥子が消えて、この世から『神』が居なくなって。
僕らの世界には、夏が訪れた。
「アミー、今度はアイス、何味が良い?」
「チョコ」
「好きだね」
「だって、皆と食べるのは、チョコって決まってるんだから」
「…そうだね」
沈黙も重い。
「おなかすいた」
「今何時かわかる?十三時だよ。昼飯を食べたのは?」
「…十二時半」
「三十分しか経って無いよね?」
「おなかすいた」
「反芻しても駄目だよ」
「私のおなかはブラックホールなのです」
「それは認めるけれど、だからって食わせないよ」
「うー!ケチ、西園寺洋介が働けばいい話なんだ!」
「僕が働く?」
「金欠学生のくせして、バイトしろー!」
「単位が危ないんだよ!僕はこれ以上未提出のレポートを増やすわけには!」
「関係ないよ!働け『無職』!」
「言ったな『ニート天使』、こうなったら喧嘩だ!喧嘩」
「おう、仲良しお二人さん。今日も今日とて喧嘩か?飽きないなァ」
階段の方から声がする。家主、絶空独尊。
僕とアミーに、緊張感が走った。
「絶空さん、今月の家賃は…もう払いました…けど…」
「ん?ああ。くれるってんなら貰うが、今日はそんな要件じゃねえんだ」
そして、何やら梱包された荷物を差し出す。
「差出人不明の荷物がてめえらに届いてる。中身がなんだか知らねえが、くれてやるよ」
ポンと投げられ、僕はそれをキャッチする。
「じゃ、続きでもやってろよ。俺はパチンコでも打ってくる」
そう言って、絶空独尊は…その場に深くしゃがみこんで…。
跳ねた。はるかな跳躍は、翼でも生えていない限り、絶対に到達できない高度まで飛んで…。
姿を見失った。
絶空独尊は、『大天使』アリエルさんによれば…すべてのイレギュラー。
『人類の上振れよ。全ての器官が、全てを凌駕するほどに完璧な、人間の中の人間』との事だったけれど、やはり納得いく答えではない。あの人は一度『結界』も突破している…。
考えれば考える程、謎の多い人物だった。あれが同じ種族だとは、到底思えないのだけれど…?
「…なんの荷物だろ?」
「わからない、としか…」
そう言って、僕らは恐る恐る、その段ボールを開封した。
「…これって…」
中に入っていたのは、星形のサングラス。
なんの魅力も感じないデザインの…旅行で浮かれた観光客が、土産物屋で買っていくような、そんなサングラスが…。
「…!」
僕は思い出す。
静岡の、サービスエリア。
僕がアイスの販売機にお金を入れて。
『どれがいい?』
『チョコ!チョコ!チョコ!チョコ!』
アイスを食べながら、口元を汚すアミーと。
それを眺める、僕らの『執行人』。
『バカ!甘やかし過ぎだ、オイ!雑魚天使、礼も言えねェのか!』
彼が着けていた、星形のサングラス。
『あ、ありがとう』
アミーが礼を言ったのを見て、口元が緩んだあの瞬間も。
僕らの思い出に、確実に刻まれている。
「これ…!」
アミーはなんだか嬉しそうに笑う。
それを見て僕もつられて笑う。
「ははは…」
「はははははは!」
だっさいなぁ…このサングラス。
多分、アミーも思っただろう。何故、こんなモノを送り付けてきたのか。
けれども今は、それも面白かった。
ひとしきり笑って、僕らはまた、空を眺める。
「…青いね」
「…そうだね…」
あの春、僕らが旅したこの『世界』。
僕が体験した、全ての『出会い』。
そして、僕らが経た、全ての『別れ』。
きっと全部を、忘れない。
「『大悪魔』!」
裏の空き地から聞こえてきたのは、そんな声。
「僕はあなたを『刈り取り』に来た!敵討ちだ」
「名乗るなら、悪霊討ちの『権天使』ソマートン!」
さて。
僕が最後に語るなら。
「アミー、行こう」
「うん…そうだね」
それはきっと『普通』の事を、ただ淡々と話すだけ。
誰にとっても当然の、ただの『普通』を貫くだけ。
「私は『天』から拒まれた、癒しの慈悲は悪意と成った!」
「『堕天使』トラオア・フロイント・アミークス!」
「僕は『普通』の『大悪魔』、サタンを冠した『普通』の学生」
「ただし異名は『神殺し』」
「西園寺洋介!」
『神』すら消えた、この世界で。
どんな祈りが届くのか?
だから、僕は祈らない。
西園寺洋介の、『普通』の人生は。
自分の力で、切り拓く!
「さあ!」
「極めて『普通』に戦おう!」
タケダです。
フォルダの整理をしていて、少し前に頑張って書いた小説が出てきました。
体力があるほうだったんでしょう。思い切りよく書き出して、14万文字を超える長編になりました。
どこにも公開されず、誰にも読まれなかった作品ですが、それもむなしいし、悲しいので。
もしもここまで丁寧に読んでもらえた方が居たのなら、本当に嬉しいです。
媒体上、どうせこれを読む人はいないだろうとタカを括って、誤字脱字の推敲もロクに終わっていませんが、それでも、少しでもこの文章が誰かの目に触れたのなら、最高です!
アミーちゃん、セラフィムくん、西園寺は、あなたの中で生き続けてくれるでしょうか。




