『4』体の骸。 A man who wants to die is like a man who is already dead. (8)
「えー、皆さんに、とても悲しいお知らせがあります。静かに、聞いてください」
その言葉を引き金に、僕の見ている風景は『学校』へと、変化を遂げた。
「まず、三年の…園崎…カエデさんが、殺されました」
「そして、同日…同じく三年の…安坂コウジさんが、自死しました」
「この件について、何か知っている事があれば、先生に報告してください…」
先輩の机の上に置かれた花束。
花瓶。
「西園寺、本当に何も知らないんだな?」
「お前と、あの二人。仲良かったみたいじゃないか。本当に何も知らないのか?」
「先生はな、考えたくないが…コウジが、カエデを殺したんだって思うぞ…」
「そんなに怒るなよ…なら、教えてくれよ。なんでもいいから、先生に」
「特にお前は、そうだろ…『計画された…」
何も知らない。
何も知らないくせに…!
けれど、何も知らないのは…。
僕も、同じか…。
「よーすけー?今日もここ、居たんだ?」
「おう!よーすけ、俺に教えてくれ!この本、何が面白いんだ?」
「あーコウジ、またそういう事聞くー。どうせ感想文、書かせようとしてんでしょ」
「してねえよ!な、よーすけ!そんな事は置いといて、ちとこの感想文を…」
「書かせようとしてるじゃない!」
「あー!うっせえうっせえ!もういいや、今日はぱーっと遊ぼうぜ!カエデもさ!」
「えー?よーすけ、嫌がるよ、きっと」
「こいつ、照れ隠しが激しいんだよ!な?よーすけ!」
楽しかった、図書室の、日々。
そうだ、僕は…。
ここから動かなくても、良いんじゃないか?
ココに居ること、この日々が『普通』だったんだ。
もう、頑張ったじゃないか。
「まず、三年の…園崎…カエデさんが、殺されました」
「そして、同日…同じく三年の…安坂コウジさんが、自死しました」
反芻される。
もう、いっそ…殺してくれ。
重なる誰かの、別の記憶。
「…せっかくだしさ!天使さん、あだ名とか…考えない?」
「あだ名?」
「人間は、仲良くなったらあだ名で呼ぶんだよ…そうだな…うーん」
「わ、私のあだ名?考えたことも無かったよ」
「トラオア・フロイント・アミークス…トラオア…トラ…」
「トラちゃん!トラちゃんって呼んでも、いい?」
これは、アミーの…清水祥子との、記憶…か…。
僕の混沌とした、記憶の中に、流入する。
「うん、い、いーよ」
「やった!ところでさ、知ってた…?」
「な、なに…?」
「『アミクス』って…どこだっけ…どこかの言語で…友達って意味…らしいよ?」
「ふふ…」
「はは…」
「あはははは!」
続くのか…。
続けるのか…。
「私…嬉しかった。逃げようなんて言われるとは思わなくってさ」
「一瞬だけ、希望が見えたの。嘘でもいいから、すがりたかった…」
「だから、西園寺洋介…」
「お願いだから、目を覚まして…っ」
ぽつり、と。
僕の頬に、涙が落ちる感覚。
瞼が、開いた。
「…ここは…?」
「気づいた…?西園寺洋介、ここは…」
「祥子が作った、『苦しみ』の世界。私と、西園寺洋介と、二人の記憶が、じんわり混ざった世界。私達、選択を迫られてるの」
「選択…?」
「こんなにグロテスクな『世界』を、もう一度歩むか?って、祥子のメッセージ」
「祥子が無理やり覚醒させられた、不完全な『祝福』は…やっぱり優しかったの。私達に、最もつらかった記憶を鮮明に思い出させて。生きるか死ぬかを自由に決めさせる…祥子はそういう『祝福』を与えられた」
「…僕は…」
「私が、西園寺洋介の選択を…強制したりは、しないよ」
「洋介は、どうしたい?」
「…僕は…っ」
もう一度、僕は。
目を、醒ました。




