『4』体の骸。 A man who wants to die is like a man who is already dead. (6)
「何てことするんだ…!」
『生命の実』と『知恵の実』の両方を食した『新人類』。それはかつて、トラオア・フロイント・アミークスと生活を共にした。
清水祥子だ。
「やってしまった…!〈モン・サン=ミシェルの祈り〉の効果範囲は…あくまで『人外』だけで、『人類』…それもまだ見ぬ『新人類』なんて、設定できてないわ!」
「アミー!その子は『清水祥子』じゃあない!今すぐ逃げろ!」
然し。
その姿を見つめる彼女は、その場を動けずにいる。
『新人類』は、おもむろに口を開いた。
「久しぶりだね…トラちゃん。いや、トラオア・フロイント・アミークス」
「アミー!聞いちゃダメだ!」
「ひどいことをいう人が居るのね。私は『清水祥子』、そのものよ。ふふ、信じられないのかな?」
こちらに手をかざした『清水祥子』は、僕を近づけさせない。
物理的に、空間が壁となって僕を阻む。
『結界』だ。
「くぅ…ッ、やめてください!アミー!こっちに…!」
「まあ、でも、唯一私に変わったことがあるとするなら、そうだな…」
「ちょっとだけ、賢くなったとか?」
そう言って、清水祥子は…動かないアミーの首元に、そっと手を出して。
掴んだ。
「アミー!」
抵抗しないアミーを、僕はただ、眺めるだけ。
清水祥子は、すでに『人外』へと変貌している。
その力も、もはや人間のそれではなかった。
「う…っ…あ……………………」
「ふふ、私を騙して、私を殺して、私を助けず、何にもしなかったあなたが!」
「『天使』⁈ふざけないで!」
駄目だ、このままだと…。
アミーは無抵抗に、死を受け入れる…!
「…ごめん…ごめん…ね……う…ごめん…………………」
「アミー!駄目だ、君は悪くない!」
「ごめん…なさい………………………ごめん…ごめ…………ん」
僕の声が、届かない。
「こんなのっ…!」
「絶対…駄目だ!」
「『普通』じゃ、無い!」
『祝福』を発動させんと、僕は結界を強く叩くのに。
『普通』の確信を掴むような感覚が、全くない。まるで全く別の糸を手繰り寄せる様な感覚。
やられた…。
この結界は、清水祥子の発動したものではない…!
対象を選択できなければ、僕は『イメージ』が掴めない...!
「あんたのせいで…全部あんたのせいだ!」
違う…。
「ご……めん…………ご…………め………………」
違う…。
「あんたも、世界も、全部!」
「全部、なくなっちゃえば良いんだ!」
違う…。違うんだ…。
刹那。
僕の脳裏に、すべてが走った。
感情が、すべてとなって、僕の脳をほとばしり、駆け抜ける。
『地獄を…解放せよ…サタン…』
聞こえる声は、おどろおどろしい、僕を取り込むような、低く鈍い、『声』。
けれども僕は今、どんな手段であれ。
それが例え『普通』で無くても。
彼女を守ると、心に決めた。
「は…は……やってやる…」
「やってやるよ……」
「やりあいましょうよ、『新人類』…」
僕はなんだか、笑みを溢さずには居られなかった。
『普通』じゃない?
そんなこと、知らねえよ…はは。
僕は両の手を結んで、ただ、唱える。
「…我を過ぐれば憂ひの都あり、我を過ぐれば永遠の苦患あり、我を過ぐれば滅亡の民あり。義は尊きわが造り主を動かし、聖なる威力、比類なき智慧、第一の愛、我を造れり」
それを聞いたアリエルは、信じられないといった顔をして、こちらに言った。
「アンタ!それだけは絶対ダメだ!今すぐ、今すぐやめろっ!」
戻るわけがない。
戻れるはずがない。
「…よ…………すけ…………………………だ…め……………………」
「永遠の物のほか物として我より先に造られしは無し、然して我永遠に立つ」
ダンテ・アリギエーリ、神曲。
「汝等こゝに入るもの一切の望みを棄てよ」
「『地獄門』」
僕の背後から、ギシギシと…。
扉の開く、音がする。
「………………………………………………来い」
「ベルフェゴールッ!」




