『4』体の骸。 A man who wants to die is like a man who is already dead. (5)
「今のではっきりしたわね。『神』はこの結界を容易に突破できる。つまり『詰み』って事よ。もう無理、アタシ死ぬんだわ」
悲壮感たっぷりに『大天使』アリエルはそんな事を言う。
「少し考えてみたんだけれど、『神』が結界を突破できたのは分かるんだけれど、じゃあどうして、さっき僕らを殺さなかったんだろう?そこに…メリットは無いよね?」
落ち着きを取り戻して、冷静に、僕は『普通』に疑問を呈す。
「『神』は、西園寺洋介の『祝福』を知ってると見て良いと思う。相手の『祝福』を一つ封じる、それを知っていて接触したなら」
「僕の『祝福』の『無駄撃ち』を狙ったのか…?」
狡猾な手段だ、僕は思う。
怒りに任せて、僕が『祝福』を発動させる事で、『神』が持つ『切り札』への抵抗手段を無くそうとしたのか。
「…アミーの抑止がなかったら、多分僕は…発動させていた…」
「ふん、救われたわね…だとすれば、攻撃が始まるならここからよ。私達にできる備えは、分からないけれど…とにかく急いだほうがいいのは確かね」
「あと…まだ『詰み』ってワケじゃないと思う。どんな理由があっても、今私達が生きてるって事は、きっとこの『結界』で、できないことがあるのは確かだと思う」
「なら、僕らは『普通』に」
「諦めたりは、できないわけだ」
ただ、僕にはどうしても気になる点が、一つあった。
「結界の解除を狙っていた…『四大天使』は」
「三人の『四大天使』は、今はあの『人間』と戦っている…だから、詠唱するには今しかないって、さっきから言ってるじゃない。それだけの事よ、どうしたの?」
「『四大天使』なのに、三人なのは、どうして?」
流れる沈黙。
特に誰かが気になっていた訳でもない疑問だったみたいで、その返答は誰も持っていなかった。
「…言われてみれば、そうだけど…」
「私は気にならなかったな、そんなもんかな…って。西園寺洋介は、何か引っ掛かる?」
「四大天使には、どんな名前の天使が居るか、わかる?」
「ミカエル・ガブリエル・ラファエル、そして…」
「『ルシフェル』、この四人だと記憶しているけれど。何が気になるのよ、そこまで」
僕には『確証』なんてものは無かったけれど、その『名前』から発想する考えは、多分『普通』だ。
「『ルシフェル』ってさ、人間界の伝承においては…『堕天使』を指すんだよ。割と一般的な話で、神から追放を宣言された『天使』の名前なんだ…偶然かな」
「とは言っても、彼が四大天使だったのは間違いがないのよ…人類がどんな伝承を残したかなんて、知らないけどさ」
「ここに『ルシフェル』の姿はあった?」
「いや、アタシが見た限り…ここには来てないハズ」
「なら。僕の『普通』の推論はこうだ。『ルシフェル』が『神』に成ったんだよ」
「唐突だね、西園寺洋介…」
「けどまあ、だとしたら…分かり易いと思うんだ。何らかの裏切りで『神』の座を奪った…みたいな、そういう話だとすれば、本当に考えやすい、それだけの話なんだけれど」
そして、再び。
僕らのもとに、声が聞こえる。
「ふふふ…八割は正解」
「ど、どこにいる⁈」
「どこにでも居るし、どこにでも居ない。けどまあ、今は『方舟』の修理で手一杯なんだ。君達の相手は、ひどく残念だが…叶わない」
「だったら早く帰ってくださいよ!僕らは時間を『普通』に正すだけだ!」
「面白いことを言うね、僕の正体を見破った、その聡明な頭脳で考えてみな。ここで君達を見逃す『意味』を教えてくれよ」
ここで僕等を見逃す理由は、全くと言って良いほどに見つからない。
「ふふふ…君達の相手は、今回は、僕じゃあない」
「さて、僕の実験に付き合ってもらおうかァ?」
厭らしく、そんな物言いをする相手を、僕はとても『神』だなんだと敬う事は出来なかった。
「…実験?」
「ふふ…ふふふ!大体の顛末を語ろうか!これまでのさァ!答え合わせだ!」
轟く声は、僕らに恐怖心を増幅させる。
ただただ『怖い』。
震えるほどに、『怖い』!
「僕の目的はただ一つ。地位でも名誉でも権力でもない。『進化』なのさ。浅ましい、生きとし生けるもの全てが…より高次な存在へ、ノーマライズされること。それが全ての理想なのさ」
「第一段階。トラオア・フロイント・アミークスを利用した…人間の強制進化実験。『生命の実』を用いた高次生命体への進化は、失敗だった…面白かったね、あの話。君達も聞いたんだろ?彼女から」
恐怖と共に去来するのは、『怒り』。
明確に、僕らを挑発している。
「第二段階。採取した『知恵の実』から、更に多くの人間を対象にして…ここ日本で、新人類の『設計』を始めた。合計『二十七人』。その全てが『失敗』だった…くく…クク…ふふふふ」
その笑いが、徐々に堪えられなくなったのだろう。その恐ろしい、気味の悪い笑みを…僕は容易に想像することが出来た。
「そして、三度目の正直とは良く言ったものだ…!私はついに『創造』した、新しい『生命』、高次に進化した、新たな『人類』をっ!」
瞬間!
結界を突き破って突入する『何者か』が、僕達の前に顕れた。
「『セフィロトの樹』は、つまり生命なのさ。そんな生命に、例えば『知恵の実』を食わせたら、一体どうなっちゃうのかなァ!ふふふふふふ…ははあははははあはっはははあっははは!」
「…………祥子………………………!」




