『4』体の骸。 A man who wants to die is like a man who is already dead. (3)
遂に到達する。既に僕らは目前に目的地を控えていた。
『方舟』が致命的なダメージを受けている今、天使の大群は若干の統率を失っている。
「アミー!アリエルがいる場所まで、あとどのくらい⁈」
「も、もうすぐ!もう、一瞬だよ!」
このチャンスを、みすみす逃すわけにもいかず、僕は必死に前へ進む。
その時だった。
僕らのもとに文字通り『光』が射したのは。
「ふ、ふふふ、ふふふふふ…」
けれどもそれは、僕らに『希望』を指し示す、光などでは、ない。
「こ、これは…?」
「西園寺洋介、急いでっ!」
「もう、遅いのではないのかね…?『罪人』の諸君」
降臨する。
『神』の後光だ。
「不思議にも、私が差し向けた…『熾天使』を…『堕天』させただけでは無い。こうして、私達の生活を『破壊』せんとして『時間』すら、我々から奪おうというのか?『サタン』よ」
姿は見えないが、どこか遠くから声がする。
語りかける、
騙りかける。
光は『方舟』の方から射していた。つまり。
「あんなところに居るのか…『神』様は」
こらえきれない怒りは、言葉となって、僕の口から洩れた。
「嘘ばっかり、よくもまあペラペラと…!」
その直後、大きな声が、再び世界に轟いた。
「行け!私の子らよ!かの『大悪魔』の企てを、破壊せよ!」
その声と共に。
また、白い群れが。
恐ろしい勢力となって、こちらに押し寄せる。
「西園寺洋介!着いたよ!」
僕はそのスピードを緩め、スクータを停止させる。
後方を振り返ると、大群が、僕らに向かって押し寄せている。
「アミー、走ろう!」
見ると、確かにそこには『おかしな空間』があった。
『大天使』アリエルの姿が見える。そしてアリエルに向かって襲い掛かる天使が行く手を『空間』に阻まれていた。円形の壁があるかのように。
しかし…アリエルの場所までたどり着くのは容易では無さそうだ…。
「ど、どうしよう…西園寺洋介、あそこまで行くのに、こんな量の天使…私たちじゃ…戦えない!」
「落ち着こう、アミー。何か手はある、きっと『普通』に…」
僕らの視界の先には、大量の天使が居る。
『方舟』からも、更に大量の天使が押し寄せている。
考えろ。
考えろ!
「ダメだよ!西園寺洋介、このままじゃ…!」
「マズい…『普通』に負ける…」
僕の『祝福』がどうだ、スクータでどうだという話ではなく、ただ進めない。
目的地は目前なのに…!
押し寄せる天使の大群は、徐々に接近する。
どう、したら…!
瞬間、遥かな上空から。
その声は、轟いた。
「おいおいおいおい」
「おいおいおいおいおいおいおいおい」
「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい」
僕らをかき回す、『異常』の象徴にして。
世界すら敵に回す、『最強』たる『理不尽』の声。
携帯が震える、着信だ。そしてその、電話の主は。
「洋介君!久しいな!いやはや、君の『推理』にはシビれたぜ…『全国連続不審死事件』の全貌が、ここまで見えるなんてさぁ、思ってもみなかった!」
ニヤニヤとした笑いが、その姿を見ずとも僕には想像できた。
「ユタカ先輩…!昨日のメール、読んでくれたんですか!」
「ああ、全貌解明の連絡と『救難要請』、しかと受け取った。まあそんでも、頭を捻ったよ。君が置かれている状況、そしてそれを打開出来るだけの、切り札ね...」
僕は電話を取りながら、真正面に走り出した。
アミーの手を引きながら、僕らは進む。
「西園寺洋介⁈行けるの?」
「うん、僕らは…『普通』に進むだけでいい」
もう僕には、ここを突破できない未来など、一つも見えなかった。
「例えば、だ」
「洋介君の所に『警察』を差し向けたとして、君達の敵は止められただろうか?」
止められない。
「『自衛隊』の戦車は?」
止められない。
「『米軍』の核爆弾?」
止められない。
「そう、その全てが…アミーちゃんやセラフィムくんの様な…非現実の存在になど、対抗できない」
「けれど」
けれど、僕らは知っている。
その全てを凌駕する、たった一つの理不尽を。
「今、君らの前に…着地したかい?『最終兵器』は」
ドスンと音を立てて、はるか上空から。
生身の『人間』が、降ってきた。
「よお、お二人さん、元気にしてたかよ?」
絶空独尊は、そこに居た。
「お久しぶりです、絶空さん…行方不明って話でしたけど?」
「ん?ああ、そういやそうだったなぁ。何、ちょっと『断食』しててな?インダス川で沐浴してたんだ、悪ィな…心配かけちまってよ」
インダス川で断食しながら沐浴。
全部違う!
「あー、冗談だと思わないで欲しいんだけど…」
ユタカ先輩の声が聞こえる。
「その『最終兵器』を回収したのは、インダス川だ…そりゃ、僕の情報網に引っかからないわけだ」
逆に尋ねよう。
どうやってインダス川の情報網を見つけてきた?
「で、俺の仕事は…ユタカってヤローに言われた通りにやりゃあ良い訳かァ?」
「そ、そうです…って、もう目の前に!」
与太話に花を咲かせる暇もなく、僕らに押し寄せる『天使』の数々。
「ふん、たかが人間、一匹増えたところで、無力!」
「やるぞ!皆」
く、来る…。
「ああ?んだよ、せっかく話してんのによ」
言って、絶空は大群の方を向いて。
「帰れッ!」
ただ一言、『一喝』した。
瞬間、僕らの体はびりびりと震え、耳栓をしていないことを後悔する。
それどころじゃない。
海の波は激しくうねり、風が起き、周囲のものを、強く揺らす。
僕らが大きな被害を受けなかったのは、声を発するタイミングで、絶空さんが僕らの方を向いていなかったからだ。
目前の大群は、ばたばたと…地面に落ちた。
「俺の声ってよお…うるさいってぇ評判だぜ?」
「う-ッ、耳がじんじんするよお…」
同じ人間が、ここまで規格外の力を持っていると。
人体の構造から、疑ってしまう。
「ぼさっとしてねえで、行け!ピンチなんだろ?『世界』がよ」
「は、はい!」
「ピンチってのは、お互い様だ。俺も今月は金がやばい」
断食したのに?
「さ、行くんだ洋介君!あとは僕らに任せて、さ」
ユタカ先輩も、また上空で僕らのサポートに回っている。
「行こう、アミー!」




