『3』人の犯罪者を匿って。 There are no extenuating circumstances! (9)
「俺が一体お前らから離れて何をしていたか、そいつァ『コイツ』に説明してもらおうや」
言って、セラフィムは僕の携帯を掴んで、むしりとる。
「ちょ、ちょっと!」
「あー、俺だ、セラフィムだ…よし、音量上げるぞ」
おもむろに僕の携帯で誰かと連絡を取りあうセラフィム。ノイズと共に、相手の声が聞こえてくる。一体、誰だろう?
「おかしいわ、どうして私がこんなことに?何を間違ったの?」
上ずった様な高い声に、ややオペラ調の通る声。『大天使』、アリエル…。
「よし、アリエル。てめェと俺が、いったい何をしていたか…そいつをここで説明する。てめェの声は…この場にいる全員、つまり…西園寺洋介、トラオア・フロイント・アミークスに共有されている」
「ひイっ!」
その反応も無理は無い。スクータで彼女を思い切り撥ねた張本人が電話越しにいるのだから。
…訴訟とかされないよね?
「ま、待ちなさいよ、まだ伝えてなかったの?私がこんなに『命』張ってるのに?」
命を張っている?どういう事だろう?
「さて、俺達はお前ら本隊と離れて、一足先に向かッてたんだ…『西明石』によォ」
回想。僕らの旅の目的は、アミーが狂わせた『世界の時間軸』の調整…その儀式が遂行できる場所、東京から遠く離れた…兵庫県、明石市中崎一丁目。本初子午線の通る位置にして、日本の『時間』を象徴する地に向かうことだったのだけれど。
「先に到達してたんだ?」
「とは言っても、俺たちだけじャ元に戻すなんてできやしねェ。変更を加えた張本人が居ねェと話になんねェのさ」
成程、つまり…。
「そう、イヤーな予感がしたもんで、俺は『偵察』に向かッたんだよ。そんで…そいつが的中しちまッた」
セラフィムの語り口は淡々としているが、僕はその中に若干の焦りを見た。元『熾天使』ともあろう彼が動揺するとは、『普通』じゃあない。
「待ち構えてやがる」
「待ち構えてる?」
「俺達を待ち伏せしてやがッたんだ…明石市中崎一丁目、その海辺のランニングコースは…大量の天使で埋め尽くされてる、そいつもかなりの実力者集団だ」
「それは…また、どうしてだろう…?」
「どうしてもこうしても、クソガキの仮説が正しけりャ、これまでの行動は全部が『仕組まれた』って事だろう?俺達の行動を読み切ッてんなら、待ち伏せるほうが確実性は高いよなァ。てめェの仮説が無くッたッて、こうも冤罪を綺麗にかけてくるんなら、俺も不信感を覚えるのは当然だ」
中々どうして、卑怯な手を『神』は使ってくるなと感心したのも束の間。つまり僕らはピンチに陥っているという事に気づく。
このまま目的地に向かったところで『天使』の群れに捕縛されるのではなかろうか?
「そこでコイツの出番だッたッてワケさ、『名無し』よォ」
「失礼ね、私には『アリエル』って名前があるのよ…って、そんなの言ってる余裕、ないわよ!」
鬼気迫る様相を呈した声を発するアリエル。
セラフィムは自慢げにこちらを見て、ニヤリと笑う。
「覚えてるか?〈モン・サン=ミシェルの祈り〉。俺は『堕天』して出力が落ちちまッたが、未だ『大天使』として降臨するアリエルなら、そいつも容易い。そういう訳だから、敵陣のど真ん中にちッちャく『結界』を展開してもらッたッてワケ。これで俺達も儀式が可能だ」
「あのねえ!言っときますけど、既に遅いから⁈もう既に『四大天使』も降臨したのよ!私の〈モン・サン=ミシェルの祈り〉を解くために!」
「ま、待って待って、〈モン・ハン=ミゲルの祈り〉がどうしたって…?『普通』に聞いていたけれど、何が何だか分からないよ」
「けッ、これだから理解力のねェクソガキは困ッちまう」
さっきまでと言ってることがまるで違うけれど、ここは黙っておく。
「俺とお前が戦ッた時、周囲に人間がまるごと居なかッたのは覚えてるか?」
「そうだ、僕がどれだけ人を探しても、どこにも誰も居なかったね」
「あれは俺の術式が、その土地を『山』とした大衆意識を形成した…分かりやすく言えば、付近に人間を寄せ付けないよう街全体を『山』に偽装する結界を展開したからだ。その結界が〈モン・ハン=ミゲルの祈り〉…違ェ、〈モン・サン=ミシェルの祈り〉だ」
「つまり西園寺洋介。セラフィムはね、ぎゅうぎゅうに詰まってるスペースに空きを作るために、私たちしか入れない『壁』をつくってくれたんだよ」
アミーがこちらに分かり易く解説してくれる。あっ、この子…トイレから戻ったらその時話してたことを大まかに教えてくれるタイプだ。惚れそう。
「でもセラフィム、君は今や『堕天使』だろ?敵陣のど真ん中に突っ込むなんて『普通』無理だよ」
僕は心底『普通』の疑問を呈した。
「そこでコイツだよ」
僕の携帯をこちらに見せるセラフィム。
「こいつァ、まだ誰にも俺達に接触した事を知られてねェ訳だ。つまり、まさか俺達の味方だなんて誰も考えちゃいない」
「な、なりたくてなったワケじゃないわよ!爆弾仕込まれてんのよ!私の体!」
携帯越しに聞こえる、つんざく様な悲鳴に似た声。
「おい、口ごたえすんなら…今ここでてめェの体は『パァン』だぞ」
「ひイっ!」
脅し方悪魔だろ。お前ほんとに天使だったのか。
「そんで今、こいつがそのど真ん中で結界を展開してるワケだ…が、そいつも持ちそうにねェな」
そして、話はやや戻って。
「『四大天使』が私の術を破ろうって、三人もここに来ちゃったのよ!」
「そりャ、まずいッて話だが…」
『四大天使』、その強さは確実なものだろう。基本的に今僕の周りにいる『天界』の住人達は、人間界の伝承を大きく外れたりはしていない。熾天使が居て、階級が九つある。これも僕は『普通』に知っていた。なら、四大天使の実力は相当のものだろう。
「〈序列二位〉が三人…ね…」
そこでまた僕は気づいてしまう。
つまり『普通』の疑問に。
『四大天使』が、『三人』…?
けれども僕は、それを黙った。
「そもそも、時間軸を正すことを邪魔しようとするのって…何でかな?」
アミーの言葉にハッとする。確かに、向こうにとっても…時間軸のズレは不都合なのではなかろうか?
「クソガキの話にもあッたが…今の『神』が別人なんだとしたら、こいつァ都合がいい。つまり、不安定な時間軸の中で、自分が昔から神であッたと変更を加えられる」
「成程、この状況で歴史を変えてしまえば、不都合だって都合に変えられる…」
「ま、いずれにせよ、俺らは急がなくちャあなんねェッて事よ」
さて、僕の『普通』になった『普通』じゃない、ちょっとおかしな冒険も、とうとう終盤、そういう訳で。
「気合い入れていくか?『雑魚天使』に『クソガキ』ども」
「私の思い出も、あの日々も、全部を騙った神様に、全部返してもらおうよ」
「あ、アタシもう死ぬ!はやく!はやく来て!ヤバいって、やばいんですわって!」
最終決戦は、既に目前にある。
「よし、まずは」
「しっかり寝ないと、話にならない!」




