『3』人の犯罪者を匿って。 There are no extenuating circumstances! (8)
「成程な…だとしたら、俺の右手にも説明がつく、か…」
アミーは動転した様子で、落ち着きがない。
「祥子が…生きてる…?」
「期待はするな、雑魚天使よォ。言ったが、『生命の実』を喰らッた人間は『知恵』を持ッてかれて、俺らも見たような、あんな状態になッちまう訳だから、今もまだ…清水祥子はあの状態だ」
そう言われて、僕はアミーの記憶を再び辿る。
石化した、清水祥子。
「セラフィム、どうにかならないの?」
「なんでも俺に頼んじャねェよ…とは言え、俺も噂程度でしか聞いたことのない事が、目前で起きてやがッた。…『セフィロトの樹』…」
「『セフィロトの樹』?」
「永遠の命ッてのは、何も人間のカタチを保ッている必要はねェんだ。それが『樹』になッて、人間より更に上位の存在になッちまッても仕方ねェ」
そして、僕は再び事象を思い出す。
「清水祥子は『セフィロトの樹』になったとして、気になる事があるんだけれど」
「彼女の背中の巨大な『翼』…」
僕は持ってきた荷物の中から、ある一つの冊子を取り出した。
「…『連続不審死事件に関する調査書』…ッて、こんなもんがどうした?」
僕はそれを適当に開いて、見開きを読み上げ始めた。
「二十三年八月六日、午後二十二時十八分。兵庫県姫路市にある市営バス車庫に保管されていた、識別番号八四五九二号の車内。彫刻の様な姿をした、人型で翼の生えた異様な生物が居るとバス運転手より百十番入電。捜査員の立ち入りで現場に当該生物を確認後、所轄の機関による調査の結果、外皮はやや堅い石のようなものに覆われるも、内側に人体が存在し、人間である事が判明。尚、被害者の生体反応は無かった為、本件の被害者は死亡として処理された。一連の怪死事案と同様の状況」
パラパラとめくる。
「二十三年十二月十四日、午前八時十分。北海道札幌市にて公道上に許可のないオブジェの様なものがあり、交通が混乱していると運転中の会社員より百十番入電。これを退けた後、翼が生えているとの一報を受け一連の事案の関連性調査の為所轄の機関が介入。内側に人体が存在する事が判明し、一連の怪死事案と断定。尚、同様に被害者の生体反応は認められず、死亡として処理」
再びめくる。
「一連の事案に共通した異常な物体、これらは人体の外皮のみ何らかの要因によって石の様に固まる事によって引き起こされていると考えられる。外皮も人体組織の一部が変化している事が判明しており、同様に翼も人体組織の変化によってもたらされている事が分かっている」
「いずれにせよ、人類には到底不可能な事象の連続であり、当調査書を纏める立場としても、極めて不可解であるという結論に至らざるを得なかった。被害者の鎮魂を祈る」
それらを読み上げた後で、僕は呟く。
「全国連続不審死事件は、二十八人の犠牲者を出して、現在は鳴りを潜めている」
二十八人の犠牲者。
「神が、雑魚天使に告げた罪の内容は…二十八人の『殺害』…だッたが…」
「…偶然かな?」
「…違ェな、仕組まれてるぜ。今回の事件、黒幕は…分かッちャいたが、現状の『神』だ」
話は進んでいく。僕は自分の頭の回転が『普通』ではない事に気付いていたが、ここでリミッタなんかが機能するはずがない。
「この謎の怪死はその『神』の仕業だとして、どうやって?」
「翼を生やして死ぬッて現象は『代償』が物理的に顕現したに過ぎねェ。つまり『実』を食わされたのさ。『知恵の実』によって生命を奪われた。それが答えだろうよ」
「でも、アリエルさんなんかの話を聞いていると、まるでそれらの『実』は、とても貴重なモノであるかのように扱われているけれど、そんなに数はあるの?」
「『セフィロトの樹』は『実』をつける。『生命の実』と『知恵の実』は、クソガキの言うようにこれまで天界には一つずつしか存在しなかッたが、『樹』があるんなら話は別だ。いくらでも増やせるからなァ」
「…つまり、清水祥子は生きながらにして、『実』を作る為だけに存在させられている?」
「そういう事になるなァ」
惨い。
彼女を取り巻く状況は、僕も、セラフィムも、そしてアミーも知っている。
「…なんで…神様は…こんな事、するの…?」
根本的な『普通』の疑問に、僕はまた可能性を提示する。
「アミーは…本来、既に『執行』され、この世に居ない筈の存在だ。セラフィムだって、本来なら『執行』を終えて、神の下へ還っている筈。でも、その全てが失敗している」
「神は想定していない『普通』の人間にあらゆる物事をかき乱された」
「それは何故か」
「僕に『祝福』が宿ったから…だよね?」
「『普通』じゃないんだよ。アミーさえ殺してしまえば、『セフィロトの樹』を作り出した事だって闇に葬り去れる。パーフェクトゲームを成し遂げられるのに、敵に塩を送るなんて、どういう神経か、僕には全く分からなかった」
そこから導く推論を、『普通』に述べる。
「だから『普通』に考えた。『神』のくせして『悪魔』みたいだ…って」
僕も自分を疑いながら、こんな荒唐無稽な話を、大真面目にやってやる。
「これは可能性の話だけれど、今の『神』が『サタン』だって可能性はない?」
セラフィムはへたり込んで、頭を抱える。
「…また『入れ替わり』かよ…」
「厳密には違うけれどね。僕の前世が神だった訳じゃないだろうし。で、その可能性を考えると、今の『神』を破ってほしいって考える人が居てもおかしくない。この祝福に関しても合点がいく。今の『神』は『神』を騙った『誰か』だ…って、考えてる」
僕はもはや、自身にリミッタをかける事など、当の昔に諦めていた。
今はただ、アミーが向き合っている現実に、僕も目を向けたい。
「…てめェの洞察力には、正直驚いてる。所々に覚えてた違和感が、ココに来てから発散を繰り返してやがる。只者じャねェな、『西園寺洋介』」
「よしてよ、僕はただの『普通』の学生、西園寺洋介だよ。何時までも『普通』に、どこまでも『普通』に。そういう男だし、そういう『人間』さ」
そう言って、僕はそっと冊子を閉じた。




