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ノーマライズ・アナライズ  作者: タケダ
23/42

『3』人の犯罪者を匿って。 There are no extenuating circumstances! (4)


 流動する記憶。鼓動する真実。

 僕の視界から流れる情報は、徐々に姿を変えていった。


「ふむ、君は…この世界を、変えたいと言うのかね?」

「は、はい!」


 僕の目の前に現れたのは、老人の姿をした誰か。周囲を見渡すと、厳かな雰囲気のある柱、彫刻、さながら神殿の様な場所に、僕の意識はあった。


「持っていきなさい、この『実』を…」

「『実』…?」

「それは『知恵の実』と言ってね…。人間は一度『知恵の実』を喰らい、現在の人間のレベルの知恵を得た…代わりに、命を有限のものとすることになったんだ」


 今、僕が見ている視界は…過去の彼女のモノだ。とすると、この相手は…。


「で、でも『神』様?一度『知恵の実』を食した人間に、どうしてもう一度…同じものを食べさせようと言うんですか?」

「最上級の『知』を、人間に与えてみたい。ある一人が指導者となって立ち上がり、世界を変革させると…私は信じているんだ」


「見習い天使、『トラオア・フロイント・アミークス』。これから君は人間の中から『指導者』を探し、その存在たり得る者に」


「この『知恵の実』を、授けなさい」


 それが、僕こと西園寺洋介に流入してきた彼女の最も始まりの記憶。

 再び、世界は形を変える。


 そこは…学校?制服を着た学生たちがカバンを片手に次々に門を出ていく。そんな風景を低空で俯瞰しているように眺めている視界に変化した。


 ふと、そこで気づいたのは…ある女子生徒と目が合っているという事。ジっ…と、見上げる形でこちらを眺めていた。


「あの…」


 と、声をかけられている。視界の主、アミーもまたその事実に驚いている様だ。


「わ…私?」

「あっ、よかったぁ…言葉、聞こえるんですね」

「あ、あなた!私が…見えるの?」

「…?見えるも何も、そこに居るじゃないですか」

「へぇ!人間って不思議だね!」

 声をかけた女子生徒は、少し不思議そうに首を傾げている。僕も彼女の様な『普通』の人類側なので、とても気持ちは分かるのだけれど。

 アミーは喜んでいる。


「翼で…飛んでる…凄い」

「当たり前だよ!私、天使なんだから…って、まだ見習いだけど…」

「て、てんし?ですか?」

「名前!私は天使の『トラオア・アミークス』!あなたは?」

「わ、私…『清水祥子』…!」

「えへへ!よろしく、『祥子』!」


 それが、二番目の彼女の記憶。

 追憶する度、世界が変わる。今度は小さな、部屋の中。勉強机、本棚、ベッド。


 聞こえる声は、先の少女『清水祥子』の声だった。


「そうなんだ…良く分からないけど、天使さんはこの世界を変えたいんだね?」

「うん!誰かを救いたいって気持ちが神様にも認められて、『祝福』だって貰ったの!」

「『誰かを救いたい』、かあ…優しいね」

「祥子は夢とか、願い事とかって無いの?」

「私は…うーん…皆が正しくあれば、皆幸せじゃないかな…って、思うよ」


「皆正しく、できないの?」

「人間って、そんなに頭が良くないの…。分かっていても、出来ないことってあるんだよ」

「そうなんだ?」


 僕は一瞬、清水祥子の顔に…黒い影を見た。どこか鬱屈とした感情が、彼女の言葉に見え隠れする。気のせいだと良いのだけれど。


「…せっかくだしさ!天使さん、あだ名とか…考えない?」

「あだ名?」

「人間は、仲良くなったらあだ名で呼ぶんだよ…そうだな…うーん」

「わ、私のあだ名?考えたことも無かったよ」

「トラオア・フロイント・アミークス…トラオア…トラ…」

「トラちゃん!トラちゃんって呼んでも、いい?」

 その真っすぐな目に、アミーも、その視点を共有する僕までたじろぐ。


「えへへ、なんだか、恥ずかしいね」

 なんて言って、笑いあう声が楽しげで、聞いているこっちまで可笑しかった。

 ガールズ・トークを盗み聞きするようで、何だかヤバい事をしている気分になるけれど、会話の内容はなんとも微笑ましい、『普通』の少女たちの会話だ。


 清水祥子の黒い感情が、僕の気のせいだと思えるくらい。


 再び記憶は姿を変える。

 今度の記憶もまた同じ場所だったけれど、清水祥子の姿が無い。

 部屋のドアが開く音。


「…トラちゃん」

 声が聞こえる方を向く。

「…祥子…!」

「今日も、言い返せなかった」

 その姿に、僕は困惑する。

 清水祥子のセーラー服は、白と紺色だけではなくなっていた。配色に不相応なピンク色や黄色、まるで…白いキャンバスに、絵の具をぶちまけたみたいな。

 『普通』でない姿に、たまらずアミーは言う。


「誰が『また』、こんな事したのよ!」

「良いんだって、トラちゃん、良いんだよ…」

 『また』。つまり、以前にもこんな事があったのだろうか。


 清水祥子の髪もまた、以前の様に整ったつやのある形をしていない。誰かにかき回されたかのように乱れ、腕をよく見ると、そこには傷。


 学生の間で起きるソレを僕は知っている。『いじめ』だろう。


「何が良いの⁈そんなになって、祥子は悔しくないの⁈」

「違うよ。皆…まだ子供なの。だから、正しい事が分からない。だから、仕方ないの」


「仕方なくなんて…ないよ!そんなのおかしいよ!祥子は誰より真面目で、勉強も頑張って、私の事にも気を使って、部屋に住まわせてくれたり…知ってるよ、私…祥子のこの前の遅刻だって、お母さんの手伝いに必死になってお弁当作るの忘れてたんだよね?祥子が、祥子が優しいのは…誰より知ってるから…私、私…」


 視界がぼやける。アミーの視界を覆いつくしたのは、おそらく涙だろう。


「えへへ…トラちゃん、泣かないで?いい事だって、あったんだ…」


「私、この前…夢を聞かれたでしょ?」


「答えられなかったんだけど、私、見つけたよ」


「先生になって、みんなを正しく導くんだ」


「だから私、もっともっと」

「賢くならなくちゃ」

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