『3』人の犯罪者を匿って。 There are no extenuating circumstances! (3)
ホテルの自室の扉を開ける。
「カップ麺カップ麵カップ麺カップ麵カップ麵」
「っちょ…アミー、落ち着いて」
「おなかが減って、力が出ない…」
ケトルで既に湯を沸かして準備していたアミーは、僕が帰って早々にカップ麵をぶんどって湯を注いだ。食欲の権化め。
「ッたく、さすがの食い意地だなァ?『雑魚天使』」
そう言ってセラフィムは、大きくベッドに寝転がっている。
「セラフィム…いつの間に?」
「んァ?俺は俺の準備を終わらせたからここに来た、そんだけだ」
準備。来る何か。
僕は地獄から追い出され、気付けば元のエレベータの中だった。そこには制服姿の少女…ベルフェゴールはおらず、まるで最初から僕一人だけがそこに居たかのような感覚で。
邂逅した『悪魔』は僕に伝えた。
最終決戦。それはすぐそこまで来ているという実感が、僕に走る。
「もが、もがが」
アミーはカップ麺を物凄い勢いで食しては、そのカップの中身を既に平らげていた。
え、待ってもう三分経ったの?
そんなわけなくない?
「てめェは忙しねえなあ、雑魚天使よォ。その早食いスキルは一体どこで覚えて来たんだァ?」
「ふふん、私は南雪谷では『喰らう可憐』と呼ばれてたんだから」
僕が眠った一週間で何があった?
「んだとォ⁈まさかてめェ、あの『渦の啜る闇』を倒したッて伝説の早食いか!」
知らない知らない。
そんな熾烈なバトル、どこでやってた?
「でも、聞いてたよ。セラフィムも通じゃ噂の『マニア』だって。『柚子胡椒五リットルの狂気』って、セラフィムの事だよね?」
だっっさ。さっきまでの『喰らう可憐』、『渦を啜る闇』どこ行った?もうちょっと捻れよ。
「『七味七トン』なんてのもあッたなあ」
え、それはもうディスられてない?
「俺が店に入る度にザワついてた。多分ドン引きされてる」
自覚あったんかい!
「人間と味覚は…どうにも合わねェみたいでなァ…」
…ちょっと悲しんでる。同情するけど、柚子胡椒五リットルはドン引きかなぁ…。
なんだか懐かしい様な、そんな会話を交わしていると、時間だけが過ぎていった。
そんな休息の宴もたけなわに、セラフィムは話を始めた。
「さて、俺は『最後の準備』にやッて来た。備えあれば憂いなし、備えなければ憂いありだ」
「雑魚天使。てめェも覚悟は出来てんだろ?ここまで着いて来たッて事はよォ」
空気が変わって、僕はすっと背を正す。
「俺が居ねェ間に、ただの人間一人くらいなら、そのまま放置して逃げる事だッて出来た筈だ。事実、俺は隙を幾つも与えたが…てめェは逃げなかった」
「雑魚天使、改め『トラオア・フロイント・アミークス』。悪ィが教えてもらおうか?事の『顛末』を」
セラフィムの鋭い目は、かつての『執行人』としての、その審判を果たすに足る強いモノで、思わず僕は委縮する、けれど。
アミーはそれに動じず、また芯を持った姿をしていた。
「うん。私も覚悟を決めた、けど」
「ここで動じずに、あなた達に『伝える』事は出来ないと思う」
「だから、記憶の記録、あるいは、記録の記憶を…」
「二人には、そのまま伝えたい」
僕はアミーに向かってうなずく。
「アミー、僕も君の過去を背負う。さっきはありがとう」
セラフィムは怪訝な顔をして。
「…ちッ…俺には何もわかりャしねェが、そんでも雑魚天使が覚悟を決めるッて事は、それ相応のコトが、俺のいない間に起きたんだろうよ…」
なんて言った。僕には、それが可笑しくて。
「え?セラフィム…もしかして、ハブられて悔しがってる?」
「んァ⁈てめェ、ふざけた事ぬかしてんじャねェぞ!そんな訳ねェだろォが!クソガキ!」
「は…ははは!照れ隠しに必死だねっ…今度、ちゃんと話すよ…はははは!」
「よし、絶対ェ殺す、ここで今殺す、焼き殺す、滅却する!」
「ば、バカ!『普通』に死んじゃうって!マジここで死んだらさっきまでのしんみりがパァになる!」
「はい、そこまで!二人とも、座ってください」
アミーに制されて、僕らは大人しく床に座った。
「すんません」
「ごめんなさい」
謝罪を聞き入れたアミーが、再び話を始めた。
「私さ」
「旅の途中みんなで寄った、サービスエリアで食べたチョコのアイス、多分忘れない」
アミーは両手を前に出して、僕とセラフィムの額に掌を当てた。
「だからさ、二人とも…」
「全部終わったら、アイス食べに行こ?」
そして、アミーの願いに。
極めて、『普通』に僕らは答えた。
「いいか、腹ァ壊すからよォ」
「アイスクリームは、一つまでだね」




