表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノーマライズ・アナライズ  作者: タケダ
21/42

『3』人の犯罪者を匿って。 There are no extenuating circumstances! (2)


 駆け足で、これまでの顛末を。


 ガチでヤバかった。


 ちょっとしんみりした後に言うのもなんだけれど、我が愛しのプリマーちゃんのエンジンの調子が非常に悪く。突然スピードが落ちて、変な音がする。


 大阪府に入った辺りで高速を降りて、地元特有のオイル臭い(この匂いが大好き!)バイク屋に入った僕らは、それでも近畿地方に入れたことに安堵していた。


「あー、焼き付いとるわ」

「…焼き付いてます?」

「おん、やきついちょる。そんでも…おん、エンジンを丸々オーバーホールしちまえば大丈夫やろが、ワシにかかりゃこんなもん、明日の朝には直せるわ。たまたま同型が置いてあるさかいに、兄ちゃん、ラッキーやなあ。そんでも兄ちゃん、どないな無理させてんや?」

「いやあ…はは、ラッキーですねえ…」


 まさか言えない。

 謎の『大天使』から命からがら逃げる為、フルスロットルで走らせたうえに、無理やりウィリーで大事故を起こしたなんて、言えるわけがない。


 僕も訳が分からない。


 そんなこんなでバイク屋を出て、僕らは近くに今夜の宿を(人間認知されないアミーの料金をケチって)取ることにした。


 旅行の醍醐味といえば、それこそ『宿』だろう。普通のビジネスホテルで、これと言って注目するところが無いからこそ、売店で買うおやつ、カップ麺が最高にうまいのだ。


 鍵を開けて、中へ入る。

「うおお!そんなに広くない!というかむしろ狭いね!」

「当たり前だよ、一人部屋だしね」

「ケチらず二部屋取るべきだったね?西園寺洋介」


 よく考えたら無限に(ユタカ先輩の)お金はあるのだから、と僕の貧乏性を自省する。

 人の金は無限に使っても怒られないのだ。


「じゃ、僕は売店で飯でも買ってくるよ。待ってて」

 アミーもすっかり元の様子で、僕は少し安心する。

 何か彼女の心境に変化があったのなら、それはとても嬉しい事だ。


 けれども無理に強がっている様にも見えた。


 …僕を励まそうとしているんだろうけれど。


 切り替える。

 せっかくの贅沢だ。僕はここぞとばかりにお金を持ち出し、ビジネスホテルを出てコンビニへ向かおう、そう考えてエレベーターに乗り込んだ。

 その時。


「どうもー」

 隣に立っていた人が、突然僕に話しかけた。

「は、はあ、どうも」

 女子高生…だろうか?ビジネスホテルのエレベータにセーラー服の姿で立っている少女は、どこか場違いな雰囲気があったけれど、僕に話しかけるとは一体何事か?


「ふーん、なっさけない挨拶ねー。こんなのがあたしの『主様』とは、つくづく不幸だわ」

「は?」


 僕を指して『主様』と言ったこの少女は何者か。ようやっと気づく。

 『普通』じゃない。


 然し、手遅れ。少女は両の手を結んで何かを唱える。


 …詠唱だ!


「我を過ぐれば憂ひの都あり、我を過ぐれば永遠の苦患あり、我を過ぐれば滅亡の民あり。義は尊きわが造り主を動かし、聖なる威力、比類なき智慧、第一の愛、我を造れり」


 密室と化したエレベータからの脱出を試みるが、非力な僕には何も出来ない。


「か、勘弁して!」


「永遠の物のほか物として我より先に造られしは無し、然して我永遠に立つ」


 僕の脳が情報を処理する。ダンテ・アリギエーリ、神曲。


「汝等こゝに入るもの一切の望みを棄てよ」

「開け、『地獄門』」


 僕は確かに、エレベータの中に居た。

 確かに中に居たのにも関わらず、そこは一瞬にして風景を変えて。


 血みどろの池、生臭いような空気、煉獄の炎、空を飛ぶ人間の様な姿をした『何か』。


 そこは確かに、地獄だった。


「ようこそー。ここが『地獄』、あなたがこれから生きるところよ」


「な、何が起きたんです!」

「何って…あなたの居た現世と地獄を接続したのよ。手間はかかっちゃったけど、あたしにすれば上出来よ?」


 訳の分からない理由で胸を張っている。怖い。

 怖いとか言う次元じゃない。真後ろで人間が串刺しなのに、それを前にセーラー服の女の子が、

「いやー、今年の人間はしぶといわねー。こうも悪人の意地が悪くなったのには、なーんか理由がありそうなんだけどなー」

 とか何とか言って、「えい」と首をちょんぱしてトドメを刺している。


 狂気だ。


「あ、自己紹介。あたしの名前は『ベルフェゴール』。忠実なるサタン様の『しもべ』にございます…って、あんたにへりくだるのは何かしゃくだわ」


 サタンとは、僕の事だろうか?


 『大天使』は言っていた、回想。


『大悪魔サタン?『堕天』した天使二人なんて、足手まといにしかならないわよ?もし本気なら、悪魔を従わせないと』


「べ、ベルフェゴール…さん?あなたは、その…『悪魔』ですか?」

 僕は訊ねる。

「んー。まあ、そうだよ。あたしは悪魔、ベルフェゴール」

「そんな…ベルフェゴールさん…が、何故僕を、こんな所に…?」

「決まってんじゃん。あたしがあんたに『隷属』するって意思表示よ」


 隷属…?


 駄目だ、エロい事考えるな、西園寺洋介、ダメだ、ダメすぎる!


「エロい事考えた?」

「か、かかかかかかかか、考えてないです」

「お望みとあらば?」

 スカートをペラリと捲るベルフェゴール。僕はすっと視界を逸らした。

「やめてください、ベルフェゴールさん…。僕は、あいにく…その、『隷属』とか、そういうのは分かんなくて…」

 かかか、と小さく笑うベルフェゴール。


「いや、あたしがあんた…『サタン』様をお守りしないと、地獄でも示しがつかないって言うかさあ、そもそもあんた、あの『堕天使』二人組だけでしょ?今の仲間」


 仲間。トラオア・フロイント・アミークス、そしてセラフィム。


「死ぬよ?あんな雑魚二人抱えてたら。人間が勝手にくたばる分には構わないけど、『サタン』様に死なれちゃあたしらが困る」

 そう言われて、僕は動揺した。


 死ぬ?


「来るんだよ、あんたにとっての『最終決戦』が」


 最終決戦。


「あーまあ…いいよ。今のあんたにプレゼント、『悪魔の力』が欲しくなったらあたしを呼んで?必ずあたしがそこに行く」

「ちょ、どういうことですか」

「あたしは魔界、そして地獄の君主。その力であんたを助ける。熾天使セラフィムとは『一件』で折り合いが悪いからあんまり会わせないでくれると助かる」

「『一件』?」

「殺しあったのよ。あたしが負けたけど、あいつも相当効いたはずよ。クソっ、思い出したらイライラしてきた、あの拗音カタカナヤロー…」


 …悪い人じゃあ無さそうなのは、何故だろう?

 『悪魔』なのに。


「さて、最後に忠告」


「あたしが渡した悪魔の力、あんたは使う『権利』がある。いつでも使えばいい」


「けれどもそれは『サタン』様として。『西園寺洋介』ではないわ」


「悪魔の力を行使して」


「『普通』に過ごせるなんて、思わない事ね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ