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ノーマライズ・アナライズ  作者: タケダ
16/42

『2』個のリュックサックだと、足りないだろう? If you are going on a trip, a suitcase is a good idea. (4)


「俺の見立てが少しでも当たってんだとしたら、俺達はちィとばかし遠くに行くことになる」

 と、セラフィムは言った。どういう事?

「遠くって、セラフィム。一体どこに行こうとしてるんだ?」


「まず一つ、時間ッてのは…人間にとッて超えられない『絶対不可侵の領域』ッて事はわかるか?」


 わかるけれど、わからない。コイツは突然何を言い出したんだ?


「あー。つまりだな、俺たちが戦った時、アミーはトンデモねェ事をやらかしたんだ、そいつァ『時の絶対隷従』ッてなァ」

 僕はおぼろげな記憶をたどった。ああ、確か…巨大な隕石が僕らに降り注いだ時、彼女はそれを防ごうとして、なにやら呪文を詠唱した?エロイム・エッサイム…みたいな。

 それで確か…。


「そう、時間を止めちゃったんだよ」

 とアミー。


「要は『絶対不可侵の時間』に手ェ出しちまッたんだ、この雑魚天使…。このまま放置してると、この世界で暮らす人間は不安定な世界線の中でふと未来が視えちまッたり、過去の姿が視えちまッたり、やべー事になッちまう。最悪…人類が戦争をおッぱじめる可能性だッてある」


「えへへ…」


 愛くるしい笑顔でごまかせるワケがなかった。世界を滅ぼしかねない行動の代償が『てへぺろ』で許されるハズも無い。

「時間軸のズレッてのは、実はとんでもねェ所業なんだ。『起きた事』が『起きなかった事』になったり、ある一点の歴史が変化しちまッたり、もしかすると地球そのものが消滅するかもしれねェ」

 原理はわからなかったけれど、恐ろしく重大な、恐怖の所業をああも簡単に行えるとは、流石の天使と言うか、天の使いと言うのか。


「追及はしねェよ、部外者を守ろうとした結果なワケだから」

 と言ってセラフィムはこちらを睨みつける。マジで厄介者扱いじゃん。

「ともあれ、狂った時間軸は現世の『ある場所』でしか元には戻せねえ、しかもソイツは神の使いにしか出来ねェ所業だ」


「セラフィム、だとしたら…それはどこ?」

 僕は疑問をぶつける。

「兵庫県、明石市中崎一丁目ッて…細かい住所じャわかる訳ねェか」

「ああ、納得。大蔵海岸のランニングコースかな?『本初子午線』と言えば、確かに『時間』に強い結びつきがあるかも知れないね」

 と、僕は言ってからその『異常』さに直ぐに気づく。


「よ、よくわかッたな?ガキ」

 若干の驚きを見せるセラフィム。


「い、いやあ…この前丁度レポートで、『普通』に調べる機会があったんだよ。本初子午線の通る位置…って」

 やってしまった…。あまりにブッ飛んだ空間に長く居すぎたせいか、『普通』の感覚がズレ始めていた。勿論、人にバレない程度のズレであれば構わないのだけれど…。


「ははは!『普通』住所で掴めるかい?そんなに細かい背景情報まで」

 言ったのはユタカ先輩。やはりニヤニヤとこちらを見つめて、嫌な詰め方をする。


「流石は洋介君、『計画された…」


「言えば、僕はいくら先輩だからって、許しませんよ」


 僕の、逆鱗に触れられれば。

 それは誰であろうと、同じだ。


「おっと…口が滑った。悪かったね、続けてくれ」

「は、はァ…?では、続きを…」


「日本の『時間』を決定すると象徴されている『本初子午線』で儀式を行えば、今の『不安定な時間軸』は修正できる…けど」

 アミーは言って、そこで止まった。


「そのタイミングで、俺達にも追手がかかる…だろ?その通りだ。俺たちは今、どこに居ても危険だ、誰かが必ず殺しに来る。そんな状況で俺達がやる仕事なのかッて、そう考えてんだな」

 セラフィムは動きを止めて、静かに呟いた。

「いいか、俺達はどうなッたッて構わねェが…俺達の不手際で現世の人類が被害を被るなんてなァ、絶対にあッちャいけないんだ」

 セラフィムの意識は、やはり根っからの神の使いそのものだった。自分たちは神に仕え、そして現世へ彩を保とうとするその姿は、真の天使だ。


「…だからこそ、西園寺洋介ッてイレギュラーも平等に救わなきャならねェんだ。コイツも立派な『被害者』だぜ、俺達の」

 そこで僕は思わず声を出した。


「そ、そんな風に思うのはやめてよ。僕だって、ただ目の前の彼女を助けたかった、それだけなんだよ」


「だから。そういう考えにさせられた、被害者なんだよ、クソガキ」


 沈黙。決して心地の良い沈黙では無かった。


 そしてそれを破るようにして、アミーは言う。

「やめようよ、二人とも…。今ので分かった?西園寺洋介」

「え、何が?」

「だからさ、私達はココから兵庫県まで行かないといけないの」


 そして、これ見よがしにアミーは背中を僕に向ける。


「翼、もがれちゃった」


「う、うん」


「空、飛べなくなっちゃった」


「は、はい」


 そしてアミーは上目遣いで僕を見る。

 ウルウルとした瞳で。


「…送ってもらえないかな?東京から、兵庫まで」


「うーーーーーーーーーっわ」

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