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ノーマライズ・アナライズ  作者: タケダ
12/42

『1』つ卵を砕いてしまえば、あとは簡単に。 Probably won't be able to eat it. (12)


 僕はまだ、生き残る希望を捨てちゃいない。


 僕はこの為に、時間を稼いでいた。震える左手の激痛を感じながら、腕時計を見る。

 二十三時十五分。


 東京都のパチンコ店は、条例により、午後二十三時以降の営業は、禁止されている。


 あの男が、帰ってくる。


「おいおいおいおい」

「おいおいおいおいおいおいおいおい」

「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい」


 首の音をポキポキと鳴らしながら。

 徒然荘大家にして、敵にすれば敗北必死、誰もが恐れ慄いた、絶望的な『最強』。


 絶空独尊。

 味方になれば、これ程までに頼もしい。


「ウチの近所が燃えてんだ。そんでも消防車の一台も来ねえ、携帯も繋がんねえ。そしたら馬鹿みたいにでっけえ叫び声がするもんだから、急いで来てみりゃ」

「なんだこのザマ!なっさけねえな、ボケ!」

「ぐフッ……ゥ」

 背中を踏まれる。痛みを超越した何かの感覚が体を走り、声も出ない。


 本当に味方か、この人は。


「そこの嬢ちゃんもボロボロで、血まみれだろ、てめえは教えてもらわなかったか?女にゃ傷一つ、男はつけさせちゃなんねえってよぉ」


 かなり時代錯誤な考えだけれど、訂正を促せる余裕もない。


「そんでも、守ろうとしたってえ状況はこの俺でも読める。褒めてやるよ」


「…次から…………次へと………………誰だッ!」

 セラフィムは明らかに困惑している。


「んなことはどうでもいいんだ、コスプレ放火魔野郎。テメエ、ウチの近所で何やらかしてくれてんのって話なんだが、わかるか?おい」

 セラフィムは『隕石』に指を向ける。


「……………てめェ……状況……わかッてんのか?……………『裁く』……ぞ……………」

 それに絶空は構わず続ける。


「どうせおめえだな?嬢ちゃんとウチの西園寺クンを可愛がってくれたのは、なあ?」


「だと……したら………何だ…………」


「女の子に手え上げた奴あ、ぶっ殺すってのが」

「ウチの家訓だ」


 そう言って絶空はセラフィムに近づいて行く。


 だんだんと。


 だんだんと。


「…てめェら………………まとめて………………死ねェ!」


 セラフィムはその手を振り下ろした。


 隕石は、巨大な隕石は、もう寸前に迫っている。

 迫ってくる隕石の風を感じる。

 温度も感じる。地面もグラグラと揺れている。

 いくらなんでもオーバーキルなサイズで、僕一人なら確実に、『普通』に死を悟っていたんだろう。


 けれども、この男は。


 『予想外』の最強だ。


 絶空は十メートル程の跳躍を見せる。迫る超巨大隕石に、一切の物怖じなく。


「だああああアアアアアアらあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 蹴りを一発。

 直後、隕石は爆発四散し。

 流星群となって、街に降りそそぐ。


「⁈⁈⁈⁈⁈⁈⁈⁈⁈⁈⁈⁈⁈⁈⁈⁈⁈⁈⁈⁈⁈⁈⁈⁈⁈⁈⁈⁈⁈⁈⁈⁈⁈⁈⁈⁈⁈⁈⁈」


 僕も、セラフィムも、言葉を失った。


 視界に映る、空のすべてを覆い隠す巨大な隕石を。

 蹴り一発で、砕いてしまった。


「次、おめーな。コスプレヤローよお」

「………ひ………………ひィ!」


 後退りして、飛び立とうとするセラフィムを見逃さず、絶空は瞬時にセラフィムの下に向かって、一直線に走り出し、その両翼をわしづかみにした。


「お………おかしい!おかしいおかしいおかしい!俺は、俺は正しい事をしただけなんだ!何も…!何もおかしなことはしてないんだ!頼む!」


「じゃ、言い訳は後で聞くわ」


 言って、セラフィムの正面を向く絶空。


「おら、食いしばれよ、歯」


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……………………ァ」


 セラフィムに、右ストレートをぶっ放す絶空。


 見事に顔面は百八十度回転し、セラフィムはその場に倒れ込んだ。


「は…はは…」


 さて。

 『普通』にやる事は済まして。『最強の天使』には…勝てなかったけれど。でも…。


 アミーは、守りきれたかもしれない。

 激痛に耐えかねて…意識が飛びそうだ。

 暗い。暗くなっていく。ふわふわと、自分が宙に浮かんでいるかのような感覚。


 けれども次に、僕の顔に、水の塊がポツリと降ってきたかのような感覚。

 ぽつり、ぽつりと。

 彼女の涙だった。


「……あ……ありが……とう……ありがとう……私を…助けて…くれて…………」


 一人の少女を、僕は。


 守りきったんだ。『普通』に…。


 打ち震える『普通』の喜びに、そのまま意識を失った…。

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