『1』つ卵を砕いてしまえば、あとは簡単に。 Probably won't be able to eat it. (10)
短い人生だった。アニメに換算すると二話くらいってところだろうか。
最期の一日は畳みかけるように『異常』だったけれど、まさか命日になるとは。
終わったのか。
あの後、件の天使に半狂乱になって飛び込んで、僕は炎に巻かれて死んだ。
ただの人間じゃ、歯が立たなかった。
じりじりと燃やされて、死んだ。
『堕天使』…トラオア・フロイント・アミークスは一体どうなったんだろう。
アミー。
結局大した話も出来なかった。
何だったんだろう、『人殺し』って…。
『人を一人、殺してしまったの…!』
反芻する声。
『何人も殺られてりゃア、報われねえよ…』
反芻される声。
噛み合っていない…。どこかで、何かがズレている…?
全国連続不審死事件…そして、『翼』…?
もう、どうでもいいか…。
何を考えても無駄だという事は明らかで。この世ならざる真っ暗な空間では、自分の声も、自分の輪郭も、なんだか分からなくなってくる。
暗闇に溶けて、消えていく。
死ぬって、こういう事なのか…?
…まだだ。
まだ、死にたくない。
死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。
死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。
『普通』をはみ出したまま、死ねるはずが無い。
僕が望んだことは、ただの『普通』。
『普通』の日常。『普通』に笑いあえる平和な日々。
根底のところで僕は結局利己主義だ。
誰にも邪魔されない、『普通』を。
僕はただ、強く願った。
『それをあなた以外の人間は、普通って言うのよ』
アタマが割れるように痛い。
刺激されるトラウマ。過去の記憶。どうして、今。
『君は異常だよ。だから彼女の痛みもわからない。痛みが分からなければ、彼女の悲しみも届かない。冷徹だよ。冷徹だし冷酷だね。どうしてそんなことが言えたんだい?君が〈計画された天才〉だから?人じゃないんだよ。人の心を知らないんだよ。知りすぎているが故の無知なんだよ。だから君はもう、人間に近づくな。少なくとも、普通を知るまでは、君は何者にも近づいてはならない』
苦痛。絶対に思い出したくないあの過去を、僕は否応なしに想起させられていた。
また『普通』を求めているから?
『あんたなんか嫌い。大嫌い』
『気持ちが悪い、気分が悪い、醜悪そのものだ、お前は』
『頼むから、生きることを拒否してくれ、肯定しないでくれ』
『存在を認知するだけで俺はお前に不快感を覚える』
『不和だね。君はこの世界から生み出された歪みそのものだ。歪だからこそ不和をもたらせる』
僕が悪いんだ。
今回も、あの時と同じだって言うのか。
僕をまた、殺そうとするのか。
暗闇に吞み込まれる。
だから僕は、『普通』になるんだ。今度こそ、『普通』になるんだ。
だから、僕を許してくれ。
僕が悪かったんだ…。
「私…嬉しかった。逃げようなんて言われるとは思わなくってさ」
「一瞬だけ、希望が見えたの。嘘でもいいから、すがりたかった…」
その声は。
紛れもない、アミーそのもので。
僕を光の元へ、一瞬で連れ戻した。
「あなたは、本当にどこまでも連れて行ってくれるかもって」
「私、期待してる」
僕は。
心の底から願った。
彼女と、彼女の『普通』を守るだけの。
力をください。




