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生徒会シリーズ

結末を決めるにはまだ早すぎる

作者: aoi


 1


 わたしは、彼に避けられている。


 言い争うような喧嘩はしていない。


 怒らせてもいない。触れてはいけない過去にも触れていない。


 強いて言えば先週の土曜日に一緒に図書館に行ったとき、わたしが作ったサンドイッチの中に彼の苦手な具を入れてしまったぐらいか……ツナが嫌いだなんて予想できるはずもない。


 わたしは彼の部活動が終わるまで、待ち伏せることにした。生徒会の日になれば、話せるかもしれないけれど、今どうしても話したいことがある。


 彼が部活動をしている武道場に行った。校舎から離れた位置に建っていて、1階建ての木造の建物だ。わたしは外で待っていた。


 竹刀同士が当たる音がした。ドンと足の踏み込みの音も聞こえてくる。


 腕時計を見ると、時刻は16時30分頃。陽が落ち始めて、少し暗くなってきた。吹く風が冷たかった。


 溜息をつきながら少し待っていると、部活動を終えた生徒たちが出てきた。


 赤佐君はいなかった。


 2


 武道場から去っていく生徒の1人を引き止めて聞いた。


「赤佐君、どこにいるかわかる?」


 昼休みに図書室で彼を見かけた。同級生の友人たちと話していたので話しかけられなかった。いたのだから部活にも来ているはず。


「赤佐なら、保健室にいると思いますよ」


 引き止めた生徒によると、部活動中にケガをしてしまったらしい。わたしはそれを聞いてまっすぐ保健室へ向かった。


 昇降口から校舎の中に入って1階に保健室はある。わたしは、昇降口から入って最短ルートで保健室に行った。


「失礼します」と言って木の引き戸を開けると保健室の先生しかいなかった。


「はい」保健室の先生の声色は優しかった。丸いメガネをかけて髪をおろしていて白衣を着ている。


「あの……」わたしはどう言おうか考えた。「部活動中にケガをした生徒が来ませんでしたか?」


「あぁ彼ね……」保健室の先生は思い出すように言った。「武道場に戻ったわよ。道着のままだから制服を取りに行くとかで」


「わかりました。ありがとうございます」わたしは軽くお辞儀をして保健室を辞去し、武道場へ戻った。


 わたしは武道場へ行きながら考えた。入れ違ったのか、わたしが最初に武道場に行ったときにはもう彼はケガをして保健室にいた。でも、わたしが保健室に行くと彼はいなかった。


 どこですれ違ったんだ?武道場から保健室まで行く道のりは他にもあるのか?わたしの知らない道のりが。剣道部にしか知らない秘密の道が。


 気付けばわたしは駆け足になっていた。息を上げながら武道場に着くと、電気が点いていた。


 顧問の先生だろうか。男性の先生が1人立っていた。後片付けを終えてそろそろ帰ろうかという雰囲気だった。


 「あの……赤佐君は」わたしは力のない声で聞いた。


「赤佐?赤佐ならもう帰ったぞ」あっさりとした軽い返事だった。


 わたしはその言葉に溜息をつくことしか出来なかった。


 3


 わたしは武道場を出た。武道場の出口を背にして、その場でしゃがみこんだ。


 溜息を大きく吐いたその時だった。


「いたたたた」聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきた。


 わたしは勢いよく振り返ると、赤佐君がいた。


 彼は驚いた表情でわたしを見ていた。


「どこにいたの?」


「トイレに」赤佐君はトイレの方を指さしながら言った。


 わたしは力の抜けた溜息をしたあと、彼に近付いた。


「もしかして、保健室から出たあともトイレに行ってた?」


「はい。道着のままだと駄目だと思ってすぐに武道場に戻りました」


 入れ違いというか、すれ違いと言うか……の理由が分かった気がした。


 わたしが保健室に着いたときに、赤佐君は校舎の(,,,)トイレにいた。


 わたしが保健室の先生に聞いている間に赤佐君は校舎のトイレから出て武道場へ行った。制服に着替えて武道場のトイレに行った。


 先生はそれを帰ったと勘違いしたというわけだったんだ。何か力が抜けてしまった。


「ケガは大丈夫なの?」


「はい。大した事ないです。明日になれば治るだろうって」


「良かった」


「どうしたんですか。会長が大丈夫じゃなさそうですよ」


「わたしはいいの」わたしは手を振った。


 4


 辺りはもうすっかり暗くなっている。話は明日でもいいかなと思ったが、暗い道は危ないと赤佐君が街灯が立っている明るい道まで一緒に行くと言ってくれた。


 彼に避けられている原因をわたしは知っている。あの話題に触れたからだ。次期生徒会について。


 わたしは次期生徒会長に赤佐君を推薦しようと、彼に相談をした。生徒会長になってくれないかと。


 推薦といっても立候補者の名前に横で小さく〇〇が推薦!って書く程度なんだけれど。彼にその話題を振ると黙り込んで、次に口を開く頃には別の話題を話そうとする。


 わたしは隣に歩いている赤佐君に切り出した。


「ねぇ、赤佐君」わたしは上目遣いで彼を見た。「次期生徒会なんだけど生徒会長に……」


「俺はなりませんよ」赤佐君は遮った。「俺はあなたになれない」


「わたしになれないってどういう意味?」


 赤佐君はわたしの顔をしばらく見てから話し始めた。


「俺は会長のようにうまく出来ません」


 赤佐君はそれ以上何も言わなかった。


 街頭が多く立っている明るい道に出ると、赤佐君は「それでは、また明日」と言って別れた。


「うん。それじゃまた明日」彼はすでに背中を向けて歩き始めていた。わたしの声は届かない。


 彼が別れた先の道はとても暗かった。


 5


 翌日、わたしが学校に着くと、校門の前に赤佐君がいた。誰かを待っているのか。目が合うと会釈してきたので頷いて、彼に近づく。


 合流して一緒に校門を通ったときに、赤佐君が言った。

「昨日はすいませんでした。素っ気ない態度で」


「いや、いいの」わたしは作り笑いをした。


「俺は……」赤佐君は言った。「やっぱり会長のように立派な生徒会長にはなれません」


「……わかった」


「俺は嫌なんです」


「何が?」


「もう、生徒会でなくなることが。生徒会は俺にとって凄く居心地が良かったんです。会長から次期生徒会について聞いた時、何かが崩れる音がしたんです」


「それだったらまた、生徒会に立候補すれば……」


「会長がいる生徒会がいいんです」


 わたしは何も言い返せなかった。心臓がドキドキしてきた。


「いや、別に変な意味では」赤佐君が慌てた様子で言った。


「わかってる。大丈夫」


 わたしは何を言っているんだ。何が大丈夫なんだ。


 そうこうしていると、昇降口に着いてしまった。


「それじゃ、また放課後」わたしは足早に下駄箱の方に行った。


「はい」


 彼の返事を背中で受け止めながら靴を脱いで上履きに履き替える。


 あれは告白だったのか?その真意を聞くまで結末を決めるにはまだ早すぎるのかもしれない。

こんにちは、aoiです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

ミステリー要素が低めですが、思いついたので書いてみました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 二人共魅力的です!! [一言] 緑さんじゃないけど、私も「会長がいる生徒会がいい」の下りでドキドキしました。
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