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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

愛猫ムギ

作者: 朝比奈 架音

 私の名前は(つむぎ)

 この春から大学に進学して一人暮らしをしています。

 これは、数日前に私が経験したお話です。



 あなたはペットを飼っていたことがありますか?

 私は、子供の頃に猫を飼っていました。

 名前はムギ。

 一人っ子だった私は、まるで弟ができたみたいにどこに行くのも何をするのも一緒でした。


 ムギは狩りが得意で、雀を捕まえては玄関前に置き。

 ネズミを捕まえては玄関前に置いていました。

 その度にお母さんが悲鳴を上げていたけれど、ムギは褒めてほしそうな顔をしていました。

 きっと、私にいいところを見せたかったのでしょう。

 だから私は、お母さんに隠れてこっそりムギを褒めていました。


 本当に頼りになる猫で、野良犬に襲われたときも私を守ってくれました。

 その時の怪我が原因で、ムギは命を落としたのだけれど……。


 やりたいことだって、まだまだいっぱいあったでしょうに。


「きっと、これからもムギはお前を守ってくれるよ」


 お父さんはそう言っていました。

 その言葉で、私はまた泣いちゃいました。


 生まれ変わりでもいい。

 またムギが私のところに来てくれたら、今度は好きなことをいっぱいしてあげたい。

 記念日だって、ちゃんとお祝いしてあげたい。


 逢いたいよ、ムギ……。




「遅くなっちゃった」


 シトシトと雨が降る暗い夜道を私は歩いていました。

 バイトの帰り道です。

 今日に限って次のシフトの子が熱を出してお休みで。

 私は、その次のシフトの子が来るまで延長することになっちゃったのでした。


 そいうえば、ムギが亡くなった夜もこんな雨が降っていました。


「……あ」


 ふと私の足が止まりました。

 目の前には大きな森林公園があります。

 ここを通り抜ければアパートへの近道です。


「どうしようかな……」


 あまり明かりのない公園。

 普段なら絶対に通らないところですが……。

 濡れたくない一心が勝って、私は近道をすることにしました。


「怖いけど、一気に走り抜けちゃえば大丈夫」


 私は一生懸命走ります。

 公園の出口が見えてきました。

 思わず、ホッと口から息が漏れました。


 その瞬間、私を襲う強い衝撃。

 それが、見たこともない男の人だと気付くのに時間はかかりませんでした。

 抵抗してもダメ。

 私は茂みに連れ込まれて、頬にナイフを当てられました。


「へへへ……。こんなところ、騒いだって誰も来やしねぇよ!」


 ピタピタとナイフで頬を叩きながら男は言います。

 そのナイフの冷たさと恐怖とで、私の目からは涙が溢れていました。


 助けて、誰か助けて!


 そのとき、お父さんの言葉が蘇りました。


『きっと、これからもムギはお前を守ってくれるよ』


「助けてムギ!!」


 私が叫んだ瞬間、茂みから何かが飛び出してきて男に襲い掛かりました。

 激しい唸り声と男の怒声、そして悲鳴。

 私は一秒でも早く逃げ出したくて、後ろも振り返らずに走り出しました。


 カンカンカン。

 アパートの階段を駆け上がり、部屋の扉を開けて転がるように部屋に入ります。

 急いで扉に鍵をかけて、そこで緊張の糸が切れました。

 私は扉に背を預けると、ずるずると擦るようにしてその場に座り込みました。



 どれくらいそうしていたのでしょう?

 ふと音が聞こえてきました。


 これは……何かを引きずる音?

 それは、だんだんと近付いてくるように思えます。


 ゴンゴンと固いものをぶつけるようにして階段を上がり……。

 そして、音は私の部屋の前で止まりました。


「ニャァア……」


 猫の鳴き声が聞こえます。

 私は、その声に聞き覚えがありました。


「……ムギ!?」


 間違いありません、それはムギの声でした。


 ムギは死んだはず?

 そうですね、私が子供の頃に亡くなっています。

 でも、そのときの私にはどうでも良かったのです。

 恐怖と悲しさでいっぱいだった胸の中に染み渡る懐かしい声。


「ムギ!」


 私はドアノブに手を駆けました。


 ピチャ……。

 ドアの隙間から流れてきた赤い液体が私の足を濡らしたけれど、そんなこと気になりませんでした。




 ほら、見てください。

 これが玄関前に置いてあったんです。


 え、これが何かって?

 頭ですよ。

 私を襲った男で間違いありません。


 引きずってきたときに千切れちゃったのかな?

 首から下は無くなっちゃってたけど、そんなこと大した問題じゃないですよね?


 あの子、昔からほんと狩りが得意だったから。

 最近は毎晩、玄関前に獲物を置いてってくれるんですよ。


 え、なんでそんな話するのかって?

 私、決めていたんです。


 あの子がまた私のところに来てくれたら、好きなことをいっぱいさせてあげようって。

 そして、記念すべき10人目の獲物の方には、ちゃんとお話しようって。


 特別ですよ?

 ふふふ、良かったですね……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] サクッと読める長さながらも、予想を裏切る展開がありました。 ホラーと言う事で、怖さや不気味さも尻上がりに増えて行きますので、5分ほどで読了できる長さの中でしっかりと楽しめました。 [気にな…
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