歌え!吟遊詩人
『吟遊詩人、、だと!?』
昔やったゲームで酒場に行くと歌を歌っている、美人の歌手のことだ、と進藤は思った。ポロン、ポロンと切なげなフレーズを奏でながら、意味ありげな歌を歌うあの吟遊詩人か。
『なんか、本当にRPGの世界みたいだな、、』
リュウカがやってくる。
『進藤さーん!私夜シフト入ってないので、ハイネさんのライブ、一緒に聴きましょうよー!』
リュウカは両腕をブンブン振り回して、ニコニコしながら進藤を誘ってきた。
『ん、、まあ、いいよ。』
と無愛想な感じで答える。
『わーい!じゃあ、ちょっとおめかししますね!後、ハイネさん!というわけなので進藤さんが潰れて起きれなくなるのだけは避けてくださいね!お酒はほどほどに!』
『へいへい、リュウカにそう言われちゃあね。』
『じゃあまた後で!』
リュウカはキッチンに戻った。
『やった!進藤さんとデートね!ふふふ。』
頭から音符が出てるようにご機嫌である。
『しっかし、リュウカの趣味もよくわからんなあ。』
ハイネはシンドウの顔を見る。
ちょっと天然パーマであるが、まあ顔は悪くない。無愛想だけど、なんだかんだこの飲み会にもリュウカの誘いも拒否せずのっかる。
『なあ、お前さん、結構ノーが言えず無理しちゃうタイプか?』
進藤は冷や水をかけられたように、ハッとした。
確かにノーは言わない。がまんして、がまんして結局しんどくなってしまう。そうやって、学生の頃は不登校になったこともある。あのブラック企業でもそうだった、、売り上げを上げていた俺が部署異動になったのも、、、、。
顔を上げるとドーンと目の前にハイネの顔があった。
進藤はぽっと顔が赤くなる。
いや、この飲み会も、リュウカとのデートもこれは単なる美人との時間を楽しみたいからだ。だって今日は久々に気持ちが上向きだ。
『いや、今日はハイネと飲みたかったし。無理してねえよ、』
顔を赤くしながら、ちょっと上目遣いでハイネに言った。
ハイネに雷が落ちたような衝撃を受けた。
私はいろんな男にくどかれたし、ハイネさんと飲みたいっすー、みたいな下心丸出し男は結構いたけど、、、え!なになに!?ちょっとツンデレ風だし、顔赤くしてるし、上目遣いだし。なんか瞳も綺麗だし。え、え、え!キャー!なんかめっちゃかわいい、萌える!悶える!このまま持ち帰ってしまいたい!
ハイネはわなわなと震えながら進藤の奇襲にやられていた。しかし、手練れの吟遊詩人だ。ここで堕ちるわけにはいかない!いつもの豪快キャラフルスロットルだ!
『なんだ、進藤!よしよしもっと飲め!』
ガシっと腕で頭を掴み、酒をすすめる。
『お、おいハイネ、当たってる。。近いよ、、。』
『おいおいなんだ?ハイネさんにお近づきになって嬉しいのかあ?このこの。』
『う、嬉しくなんかないから。ハイネが楽しそうで良い笑い顔だからさ。後、なんかいい匂いが。』
普通に異性にいい匂いと言われたら、少し気持ち悪いと思うのが定石だ。後職場なら、セクハラだ。しかしながら、ツンデレと別に悪い気がしないプラス、笑顔を褒められてハイネはノックアウトだった。だが、みんなの吟遊詩人!ここは抑えながら、告げる。
『ライブ、絶対見てくれよな、、』
ぽっと顔を赤くして、ハイネは飲み会の中心に戻っていった。
♦︎
ライブの時間になった。
『進藤さん、お待たせ。』
リュウカだ。ニットにベレー帽、ヒラヒラとした丈の長めのブラウンのスカート。
『お、おう。』
『似合いますかー!進藤さん。というか似合うね、くらい言わないと女の子に失礼ですよー!』
リュウカは明るい。
『に、似合うんじゃないか。』
進藤は無愛想だ。
『まあ、今日はこのくらいにしてあげますよ!』
『そんなことより、この酒場急にミラーボールとか怪しげなステージライトが出てきたんだが。吟遊詩人のライブだよな?』
そう、なんだか、まるで、、、
『セイイエーい!エビバディハンズアップ!』
ハイネの掛け声で、酒場が沸き立つ。
ズンズンドンドン、ズンズンドンドン、、、
なぜかステージにはハイネがヘッドホンをし、DJセットを触りながら、音楽はEDMなのだった。