3.見つめる存在
カメの歩みより遅いですがようやく投稿出来ました!
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです!
厳かな気配と清潔感を感じられる白の中にある空間。普通よりも幅広く大きな通路。
大理石を用いたかのようなつるつるとして綺麗な床に、壁は何かの彫刻が彫られているようでとても手間が掛かっているようにも見える。
そのヒンヤリとした静寂の中を、スッ…スッ…と布の擦れる音だけが伝わる。
そのままスーッと過ぎっていく姿が一つ。
その姿が入っていく場所もまた、似た雰囲気を感じれる。
そこには家具など一切無く、出入口以外の扉も窓も無い…体育館の二倍よりも広く大きな部屋だろうか。にも関わらず、空気の通りは良いらしい。その場に居れば少し肌寒く感じるだろう。
その部屋の真ん中辺りと思われる場所にポツンと置かれている物が一つ。
大きな部屋を圧迫する程の存在感を放つのは、台座の上に置かれた人を映せる程大きく丸い鏡。
縁には煌びやかな金の装飾が施されていて、その輝きは見た人を魅了してしまう程だろう。
その鏡は水鏡の力があるらしく、何処かの森の風景を映し出している。
スッ…スッ…と静かに歩きながら先程この部屋に入って来た老人らしき人物が鏡の前へと辿り着き、鏡に映る人間をじっくりと眺めている女性らしき人物に声を掛ける。
「あの子はどうじゃ?」
「あぁ、やはり来たんですね。今のところ心体はゆっくりと慣れていっているようなので…大丈夫そうですわ」
「そりゃぁ気になるのだから来るに決まっとるじゃろう?うんうん、良かった良かった…して、ふむ…ちとあの木の実は…食べ過ぎじゃないかのぉ?」
「確かに食べ過ぎな気もしますが…あの子なら大丈夫でしょう。下手に力を暴走させる事もないでしょうし、何よりしっかりと身体の中を巡り始めていますわ」
「そうじゃのぉ…お腹を下さんか、その方が心配じゃの…」
「…それは……さすがに…」
無いとも言いきれないのか少しばかり不安がよぎったらしく、そのまま黙ってしまう女性らしき人。
しばらく無言で鏡に映る人間を眺める二人の顔は穏やかでとてもホッとしているかのようだった。
「ほうほう…今度はあの子らに出会うか、本当に運の強い子じゃのぉ」
「妖精の子達もしっかりと導いてくれるようですね。やはり安心しますわ」
それからまた無言のまま鏡を見つめる二人。
ふと女性らしき人が今思い出したかのようにニコッと笑いながらもう一人へと話し掛けた。
「それにしても本当に気にかけて…優しいですね?」
「ほっほっほ、あの子は…特別じゃからのぉ」
穏やかに笑いながら返答しようとした所へ大きな鏡の裏にでも休んでいたのか、キュッと足音を立て静かな空間では驚くくらいわざとらしく大きめな声で話に割ってはいる者が一人。
「いつもお世話になってたもんね〜!気にかけちゃうよねぇ〜ボクにも優しくしてくれたらなぁ〜いいなぁ〜って思うんだけど〜」
何やら騒がしく言い始めた者に対して途中で遮るようにボソッと一言。
「ふむ、この後の仕事は増やそうかのぉ」
「ちょ、ちょっと待って!この前も増やしたじゃないか!ちゃんと終わらせてるし、これ以上増やされたらボク休めないじゃん!それにボクだってあの子の事は確認したいんだよ!?」
言動は子供っぽいが青年らしき人物は仕事を増やされるのは嫌だと主張するようにブンブンと首を横に振り駄々っ子のようにいーやーだーと騒いでいる。
「ほっほっほ、サボるくらいにはあの子の事を気にかけるんじゃなぁ…ほぉれ、行け行け」
「もうっ!ボクはね、サボってなんかないもん!休んでたんだよーっだ!ふんっ」
老人らしき人が手でしっしっと追い払うようにするせいか、今度は増やさないでよ!?と捨てゼリフ?を吐きつつ拗ねた様子でカツカツカツッと盛大に足音を立てながら部屋から去って行く青年らしき人。
それを笑いながら見送る者と呆れながら見送る者。
「……相も変わらず、嵐のようですね」
「ほっほっほ、元気なもんじゃのぉ」
「私あまり騒がしいのは好きじゃありませんから。」
「そうかそうか…ふむ、わしはおいとまするかの。あの子の事は任せたからのぉ」
仲裁にも入らないという事はこれが日常茶飯事なのだろう。
ヒラヒラと手を振りながらそう言い残してまた静かに去って行く姿を見送りつつ、もう一人はじっ…と鏡を見つめている。