十六話
夏、それは形容しがたい暑さに見舞われる季節。
しかしこの地域は海に近く、低い建物が乱立しているお陰で暑さは軽減されている。
しかし暑いものは暑く、俺は扇風機の前で涼んでいた。
夏休み、それはみんながはしゃいだ気持ちになれるのがこの季節。
うちの学校にいるガリ勉くんもはしゃぎながら志望校を目指すため日々勉強しているのだろう。
しかし俺は夏休みの課題を七月中に終わらせてしまったためやることがない。
健全な高校生はバイトでもしたりしているのだろうが、田舎なためコンビニも近くなく、電車で片道30分という道のりを超えなければならない。
その前に学校はバイト禁止なのだが。
寝転びながら俺は惚ける。
葵とはいつ会えるだろうか…
葵は携帯というのを持っていない。
そうなれば連絡を取り合う手段は、手紙か直接会いに行くかなのだが、どっちも恥ずかしい、そんな訳の分からない理由で連絡が取れずにいた。
仕方がないだろう。
だって、生まれて初めての恋なんだから。
男が男に恋をする、そんなの俺でもおかしいと分かっている。
しかし、好きという気持ちには変わりはない。
なんだろうか、愛しい、愛しいのだ。
毎日葵の顔が脳裏にちらつく。
その度に俺は顔を真っ赤にし枕に顔を埋めるのだ。
しかし、これはおそらく叶わない恋だとも気づいていた。
葵は普通に女の子が好きっていうのもある。
俺が今告白したって引かれるだけだ。
そんなことを考えると胸が苦しくなっていって、悲しくなる。
ダメだな、少し外の空気を吸おう。
休日の過ごし方は俺は本を読んで過ごしていたのだが、それすらも出来ないほど考え込んでいた。
ーーーー
自転車を走らせ、海岸に着く。
ここは人もまずいない俺のお気に入りの場所だ。
昔からよく悩んでいた時はここに来て深呼吸をする、そうすると気持ちが普通に深呼吸するより倍、落ち着くのだ。
海が光に反射し、少し眩しい。
波の音が優しい音色を奏で、俺の心を癒していく。
ここに来て正解だった。
あのまま考え込んでいたら嫌なことばかり思い浮かべていただろう。
「…佐藤くん」
「ん?」
苗字で俺を呼ぶのは二人いる、長谷川さんか紅だ。
そしてこの声は…
いつもはすぐ分かるが、一瞬俺は誰かと困惑してしまった。
それほど考え込んでいたのだろう。
「紅?」
「ああ、やっぱり佐藤くんね」
「なんか用か」
「何?知り合いがいても話しかけちゃいけないの?」
「…すまん」
紅が少し不機嫌になるのを感じた。
殴られた後あってなかったので、少し怖い。
「で?なんでそこで黄昏てたの?」
「…かっこつけだ」
本当のこと言うのはかなり恥ずかしい。
俺は心の中で思ったことを、そっとしまい、適当に口に出た言葉を言う。
「ええ…」
引かれた。
「引くなよ」
「引くわよ」
だろうな、好きでもない男がいきなりカッコつけ始めたのだ、気持ち悪いだろう。
「はあ…悩みがあれば言えばいいのに…じゃあね」
「ん?どこ行くんだ?」
「葵くんとお買い物」
俺はその言葉にドキリとする。
……やはり、葵は女の子が普通に好きなのだということに気付かされた。
俺は紅の背中を見送る。
…この恋は実らない。
だったら俺のすべきことは何だろう。
決まっている、この気持ちは隠し通して葵の親友で居続けるのだ。
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