十四話
さあ、待ちに待った今日。
葵の家にお邪魔することになった俺は少しじゃなく、すっごいそわそわしていた。
大丈夫だ俺…ただ、友達の家に遊びに行くだけだろ?
うんうん、大丈夫大丈夫、と俺自身に言い聞かせる。
こうでもしないと、発狂するからね。
「いつ見てもすっげぇ家だな」
俺は目を細めて上を見る。
そこには葵の豪邸がそびえ立っていた。
油断すると口が開いちゃいそうだ。
「ふう…よ、よし…鳴らすぞ…」
緊張で震える人差し指でインターホンを押す。
すると、ピンポーンという音の後に女性の声が聞こえた。
『はーい』
「あ、葵くんの友達の佐藤貴明です!」
『ふふふ、緊張してるの丸わかりよ』
女の人の声はすごく優しい声だ。
葵のお母さんなのだろうか。
『今、葵を玄関に向かわせるからちょっと待ってね』
「は、はい、ありがとうございます」
『あ、それと…今の葵の姿を見てあまり驚かないであげてね?』
「は…い?』
今の姿?
なんなのだろうか、俺が葵に対して大げさに驚くということはあまりない筈だ。
そりゃ、タンクトップとかで出てきたら驚くかもだが。
俺はありもしない想像をして笑う。
そして、タンクトップという予想は普通に外れ、予想もしなかった出来事が起こった。
「い、いらっしゃっい」
恥ずかしそうに顔を赤らめ、ドアを開ける少女。
白いワンピースに綺麗な銀髪をポニーテールにされている女の子。
最初は葵の妹かなんかが出てきたのかと思った。
しかしこれは間違いなく葵だ。
「…話っていうのはこれのことです…」
顔を一層赤らめる葵。
俺の目の前にいたのは、間違いなく葵だ。
しかし、学校でも見ない顔に俺は…
「可愛い…」
つい、心に思っていたことを吐き出してしまったのだ。
「え!?」
葵が顔を上げ俺の顔を見る。
こう見ると、なんというか女にしか見えないし、そこらの女より美人だ。
「あ、はは、俺はそういうのに偏見はないんだ」
事実俺は可愛い葵を思いっきり愛でたい気持ちに襲われる。
きちんと理性を保たなければ、大変なことになるだろう。
って、大変なことってなんだよ!?
ダメだよ!?相手は男の子ダヨ!?
理性ってなんだよ!?
そう脳内漫才を繰り広げる。
しかし実際、葵の姿を見て思ったことは…
「いや、普通にウチの女子よりレベルが高い」
「ああ、そうなんだ、嬉しいな…」
葵は横を向いて俺と視線を合わせようとはしない、まあこんな姿を見せるのはすごく勇気のあることだし、普通に尊敬する。
「貴明くんには僕の趣味を知っておいて欲しかったんだ、でもよかった、もしかして引かれちゃうのかもって思ってたよ」
「まあびっくりはしたけどな」
「ふふ、ごめんね」
笑う葵を見ると、俺の心は晴れやかな気分になった。
行動を一つ起こそう。
「なあ、まだ時間あるし海見に行かないか?」
「あ、じゃあ着替えてくるね」
俺は一旦戻ろうとした葵の手首を掴む。
「いやこのままだ」
「へっ?」
「行こう」
そのまま俺はどこからどう見ても可憐な少女にしか見えない葵と手を繋ぎながら、すぐ近くにある海を見に行った。
ーーーー
「もお!」
「ごめんって」
そのまま海を見に行き堪能した俺たちは、家に戻る。
葵の部屋に通され、葵と二人で勉強しながら談笑していた。
葵はさっきの行動で怒ってはいたが普通に楽しんでいたので、オーケーだろう。
それでも悪いことはしたと反省はする。
「そういやここなんだが」
「どこ?」
「ああ、これ、っ…」
俺が分からない問題に指差し質問すると、葵は俺に近づいてくる。
いや勉強を教えるためだからね!いい匂いがするから鼻呼吸を意識とかしてないからね!
そして、こう前のめりで近づいて来られると、葵はワンピースだから胸のポッチが…。
いや、男だからセーフだよ!?当たり前じゃん!
ダメだ…体が熱くなってくる…
「そういえば暑いねー」
葵が服をつまみ、パタパタと仰ぐ。
その体制が、またスカートから綺麗な太ももが見えちゃってるからもう大変。
えらいこっちゃ。
俺は断固として見ない。
さっきちらっと見ちゃったけど、もう見ない!
「あ、僕ジュース持ってくるね」
「あ、ああすまんな」
葵が部屋から出る。
その瞬間俺は思いっきり息を吐き、倒れこむ。
緊張というか、なんというか、こう…言い表せないような複雑な感情になる。
俺はなんだ。
昔っから女子にああいう風に近づかれても、ドキドキしないはずだったんだ。
なんなんだこの感情。
しかし、俺の中で一種の答えは出ていた。
俺はその答えを全力で却下する。
男同士でそんなこと…
「おまたせー」
葵が扉を開ける、俺はすぐに起き上がろうとした。
その瞬間ーーー
「うわ!」
「おい!」
葵が部屋の中にあった本につまずき、俺の上に倒れこむ。
当然衣服はジュースで濡れ、俺たちは急いで起き上がろうとしたが…
「ひゃっ!」
葵が思いっきり顔を赤くし胸を隠す。
さっきちらっと見えてしまったのだが、さっき見た綺麗なピンクの…。
そしてこの体制。
俺が下で寝て、葵が俺に跨っている体制だ。
俺たちは、一瞬時が止まったかのようにピタリと動かなくなる。
その時俺は、ある手の違和感に気づいた。
この柔らかい物体はなんだ。
俺は抜け出すために動かす。
「ひんっ///」
葵が、ビクンと体を動かし、こっちに倒れこむ。
俺は、倒れてきた葵の肩を優しく掴み、おそるおそる手の方を見る。
俺の手は…
葵の股へと入っていた。
ーー
ーーー
ーーーー
「うあああ!」
俺は、パニックになりながらも葵を優しく抱きかかえ、俺の横へ降ろす。
やべえ、やべぇやべぇ!
なにがどうとかそんな話じゃねー!
「あ、葵!?」
葵はまだぐったりしたままだ。
ぴっちりとワンピースは張り付き、色々透けている。
「一旦深呼吸だ…」
すーーーーーー。
はーーーーーー。
すーーーーーー。
はーーーーーー。
…ふう、少しは落ち着きを取り戻したと言える。
しかし、葵は顔を赤らめてもじもじしている。
「ご、ごめんなさい」
「いや、気にするな…」
この後復活した葵と掃除して、すっごく気まずかったのは聞くまでもない。
明日学校でどんな顔して会えばいいんだ。
書いててすっごく恥ずかしかったのはいい思い出です。
誤字とかがありましたら感想の方でお願いします。