興廃の序章
十字に見える閃光を見ながら胸を締め付けられる。
「マードック!セレナ!戦線を離脱しろ!」
立ち止まる事を決して許してはくれない戦場でインカムに叫ぶ。
「…、はいっ!」
詰まるような声が返って来たのは一機だけ
もう一機は、通信アンテナが壊れているようで右腕を上げるのみだった。
故郷サヤナーグ
第15次入植地であり、巨大惑星サヤナーグをくり抜く形で作られたコロニーで総人口約7億人の住処であった残骸の中を三機は縫うように進んで行く。
バックパックの推進エネルギーだけを使い生命維持装置以外の熱源を限りなく無くす為だ。
緊急通信のアラームが鳴った
「ツバサ大尉、皇室艦のドッグまで推進エネルギーが持ちそうにありません…。此処で敵を待ち伏せしますので御武運を。」
セレナからの緊急通信は死地に向う言付けであった。
「よせ!アンカーを私の機体に飛ばせ!」
つい大きな声で怒鳴ってしまった。
此方からアンカーをセレナの機体に飛ばし胴体部分に引っ掛ける。
「全機アンカーを互いの機体に括り付けろ。」
三機の推進エネルギーであれば機密ドッグまでたどり着けるはずだ…、もし無理ならば機体の再起動と共にシグナルを出し味方か敵が来るのを祈るだけであるが。
少しの衝撃と共に二機からアンカーが飛んで来る。
しっかりと機体のフックに取り付け自分の機体のアンカーを巻き取ると三機の塊を作る。
「多段噴射で加速後は軌道修正以外エネルギーを使うなよ。」
そう告げながらバックパックの噴射を行う。
この速度なら慣性に従ってもそこまで遅れないだろう。
残骸に当たらなければな…
ピピピピッ
「ツバサ大尉、目標を捕捉しました。」
接触通信の方は生きていたマードックから連絡が入る。
「マードック、此方も確認した。
各機エネルギー残量報告!」
「こっちは、フルバーストで持って1分ですね。」
「こちらは、フルバーストも出来そうにありません。」
マードックとセレナから報告が入る。
「了解、マードックを先頭に俺とセレナの順番でアンカー繋ぎ変えるぞ。
マードック、フルバーストで目標に接近後隊列の最後尾に回れ残りは俺が引っ張る。セレナは俺の残量が無くなり次第ドッグ入り口までの調整を頼むその頃には向こうからお迎えがくるさ。」
軽いトーンで伝えると目標に進む。
「お疲れ様です。グロリア大尉!」
皇室専用艦スメラギに着くとすぐさま護衛隊の隊員から敬礼を受ける。
「特務遊撃部隊所属、ツバサ・グロリア大尉です。
この度の戦とタイトウ・サカキバラ元帥の遺言をお伝えしに恥ずかしながら帰還いたしました!」
返礼をし用件をお伝えする。
「はっ!ティア皇女もお呼びですので此方へ。」
既に伝令はおこなっていたが皇女まで乗っていらっしゃるとは…。
無言のまま隊員に着いて行く。
「失礼します!グロリア大尉をお連れしました!」
艦内とは思えない豪華な木の扉の前で隊員は伝えるとゆっくりと扉が開く。
「お待ちしておりました。ティア・サヤナーグ第3皇女です。グロリア大尉無事の帰還心より喜び申し上げます。」
白の儀礼服に身を包む少女は、儚げな印象を受ける。
「はっ!皇女様には格別のご配慮有難く存じあげます!」
最敬礼と共に返答を返すがこれで無頼派無いのだろうか…
「よい、グロリア大尉
早速だが戦況を聞きたい。この場を知られぬ為通信機器は最短通信のみで行って来たがそれも等に切れてしまっておるのでな。」
白髪の年配者が声を掛けてくる。
その人こそサヤナーグ皇国の生きる伝説とまで言わしめたオルガ・マクロ様であった。
「はい、オルガ様本国サヤナーグは陥落致しました。
元帥であらせられるタイトウ様より遺言を賜りました。」
度肝を抜かれる思いを抑えながらお伝えする。
「そうか、落ちたか…、して遺言とは?」
オルガ様は優しい声で先をせかす。
「この身、帝国に差し出す事良しとせず。
ヴァルハラの宮殿で待つ皇王のもと故郷サヤナーグと共に逝くと…。
故郷サヤナーグの最後の灯火を確認しております。」
伝えながら震える手を力強く握りしめる。
「そうか…、希望はどした?」
その問いかけには万感の思いが詰まっている様であった。
「はい、希望は特務遊撃隊全隊で護衛し無事脱出しております。ご安心を。」
そう、その後部隊長である親父さんにここの存在を教えられ伝令に行かされたのである。
全隊を殿として…。
「うむ、希望が繋がるのならば悔いはない。
皇女様降伏いたしますかな?」
オルガ様は、髪と同じ白い髭を撫でながら皇女様に伝える。
「オルガ爺、それは出来ない!
私は…、私は父とこの国を奪った帝国に一矢報いたい!」
先ほどとは違い、心のこもった言葉を皇女様はオルガ様に伝えていた。
「ふむふむ、皇女様気持ちは私も同じです。
しかし残された兵力は微々たるもの辛い戦いにもなりましょう、そして結果も見えております。
それでもやりますかな?」
ゾクリと背中にくる重たい声でオルガ様は答える。
「ええ、例え負け戦だろうが私に着いて来てくれる者達がいるなら!」
椅子から立ち上がり伝える姿は亡き皇王を彷彿とさせる何を感じた。
「では、まずはこの戦域を離れテプラノ惑星群まで引きましょう。
辺境の地ではありますが、ゲリラ戦をするならばあそこが一番でしょうからな。」
豊かな口髭の中で微かに微笑むのが伝わってくる。
「特務遊撃隊、ツバサ・グロリア大尉お供いたします!」
故郷を奪われた痛みは皆同じ自然と言葉が出ていた。
それと、共に憎き帝国に最後の一矢を…。
「ええ、紅雲の隻眼に手伝って頂けるのは大変感謝いたします。」
少しあどけなさが残る笑みを私は忘れないだろう。