見参!炎魔奏士ブレイヴァー(3)
お待たせしました
Aqoursの2ndに行ってて、書く暇がありませんでした
ご了承ください
「そういえば、あなたはこの後どうするんですか」
休憩を終え、公園を後にしたホムラとマイカは街の裏道を並んで歩いていた。
「そういえば……宿とか考えてなかったな。マイカちゃん。ここら辺でいい宿はないかな?」
ふと、大事なことを思い出した。
今夜はどこで過ごすかだ。
汚い貧民街ならともかく流石にこの綺麗な街中で野宿はまずい。
それに今までずっとサバイバルをし続け、そろそろ柔らかい布団が恋しかった。
そのため、絶対に宿に泊まろうとホムラは決めていた。どんなに高い宿でも資金は有り余るほどあるため問題はなかった。
「宿はありますが……あったとしても国が管理しているところなので、違法入国者であるあなたが泊まろうとすれば……」
「それは……宿という名の牢屋に泊まることになるな」
ホムラにとって大誤算であった。
今まで旅して来た町や国には必ず宿があった。いや、それが当たり前だろう。
しかし、この国は基本的に外部の者は入国しない。
もし、入国する者が居たとしてもそれは国の許可を貰った者。
国が宿を管理をすることで、一つの関所としての役割を果たしている。ホムラのように前知識もなく違法入国した者には効果抜群の手だろう。
「いや……マジでやばいな」
「良かったら……私の家に泊まりませんか?」
「でも、迷惑じゃないか?」
「家には私しかいないし。それに、助けてもらったお礼をまだしてませんし」
確かにマイカの提案はホムラにとってまたとないチャンスだ。
このまま、宿が無いからと野宿するのは体にも良くなく、誰かに目をつけられれば怪しまれるのは必然。
「なら、お言葉に甘えて、お邪魔させてもらうよ」
それならとホムラはマイカの誘いに素直に乗る。
これで、やっと恩返しが出来るとマイカは安心する。
「うん?あれは」
「どうしてここに……」
歩いていると、二人の目の前に先程、学校でマイカを虐めていた金髪の少年がいた。
だが、腕をだらりと下げ、焦点の合わない虚ろな目で二人を見定めており、明らかに様子が可笑しかった。
「待って。どうも様子がおかしい」
異様な寒気を感じ、ホムラはマイカを自分の後ろに隠し、様子を伺う。
「あの……ホムラさん。なんか……すごく静かな気がします……」
ふと、マイカは周りを見回す。
真昼だというのに、周辺には誰一人、人がいない。
さらに話し声も風の音も、何も聞こえない。
聞こえるのは自分たちが発する声だけ。
当たり前がないという不穏な状況にマイカは不安を募らせる。
「うん。わかってる」
一方で、マイカとは反対にホムラは冷静であった。
気持ちが悪い程静かな空間。そして、怪しげな人間。
この二つが揃う瞬間は、決まってある異形が行動を始める時だった。
「ミ……ツケ……タ」
「え⁉︎な、何⁉︎」
突然、金髪の少年は黒い譜面に包まれる。
そして、中から現れたの金髪の少年ではなく、強靭な肉体を持った異形。
様々な色を塗り重ねられないような黒い肉体に歌を聴く耳を持たない異形。
「歌異人!」
「カイジン……?」
「俺達の敵だ!」
切羽詰まった様子でホムラはギターケースから剣を取り出し、剣先を歌異人に向ける。
一見、普通の剣だが、柄頭にはマイクがついていた。
「じゃあ、あの人は敵だったのですか!?」
あの対峙している異形がホムラの敵。
そうなると、金髪の少年は悪の組織のメンバーだったのかとマイカは思わざるを得ない。
そうなれば、自分はとんでもない相手に目をつけられていたのかと心底恐怖に怯える。
「歌異人は普通の人間に邪悪な魔音を聞かせることで、理性を飛ばし、洗脳し、怪人に変貌させる。だから、別にあいつは敵組織の一員じゃない。だからこそ、タチが悪い!」
グリップを強く握り、ホムラは燃え上がった炎のように激しい怒りを露わにする。
「罪の無い人間を操って、自分達は高みの見物。それが奴らの……この国の王がやっている悪事だ!」
「王様が⁉︎」
衝撃の事実がホムラの口からマイカに突きつけられる。
オルディアス王国の国王、オルディアス5世は国民の間では良王として有名だ。
その王が国民を異形に変えているなど受け入れ難く、マイカは動揺を隠せない。
「説明は後!今はこいつをどうにかしないと!」
動揺するマイカを余所目にホムラは歌異人に向け走り出す。
「うおぉぉ!」
「!!!!」
剣を振り、クモに一太刀を浴びせるが、その強靭な肉体には刃は通らず、弾かれてしまう。
「チッ!流石、奴らのお膝元。力も今までとは比べ物にならない!」
今まで戦ってきた歌異人は圧倒的に強さが違う。
そうなると生身の体で勝とうなどとは慢心に等しい。
それなら一か八かとホムラはある切り札を使おうと剣を地面に突き刺そうとするが、脇から現れたサラに止められる。
「待ちなさい!鍵がないのに纏えばホムラの体が!」
「わかってる!でも、多少は無茶しなくちゃ、救えないだろう!」
ホムラの使おうとした切り札にはある制約を満たさなければいけなかった。
ただ、使用するだけならばその制約は満たさなくてはいいものの、スペックは一割程しか出ず、また使用者への負荷が大きい。
そのため余程のことが無い限りは使用はしない。
「全く!泉の女神は切り札を使うのにさらに別の切り札を要求するなんて面倒だ!」
重い制約のある切り札に使い勝手が悪いとホムラは舌打ちをする。
苛立ちによって、たった一瞬、クモから視線を外してしまう。
その隙にクモは棒立ちになっているマイカに襲いかかる。
「きゃっ!」
「危ない!」
間一髪、ホムラはクモの攻撃を剣で受け止め、マイカを守ることは出来た。
しかし、クモの威力は凄まじく、ホムラはそのまま後方に飛ばされ、強く壁に叩きつけられる。
「ぐあぁっ!」
「ホムラ!」
壁に叩きつけられた勢いで内臓を損傷してしまい、ホムラは口から血を吐き、地面に倒れる。
「グググ」
クモは野放しにしておくと危険と判断したのか、マイカからホムラへと標的を変え、ゆっくりと迫る。
「万事休すか……」
剣を杖のように立て、ホムラは何とか立ち上がる。
しかし、その姿は頼りなく、無駄な足掻きにしか見えない。
「ホムラさん……」
死に迫られるホムラを心配そうに眺めながらマイカは拳を握りしめる。
自分は何も出来ない。魔音も魔奏も使えず、歌異人と戦うことも気を引くことすらも出来ない。
ただ、こうして恩人の死に行く姿を眺めるだけなのが、悔しかった。
「歌……」
確かにマイカは魔奏は奏でられない。
しかし、歌は歌えた。
そして、歌は魔奏になる。
しかし、自分なんかができるだろうか。
何も才能もない自分が難易度の高い、歌による魔奏が出来るはずがないと自分自身で決めつけていた。
「私は……私は!」
否。出来る出来ないの問題ではなかった。
やらなくてはならない。やらなくてはホムラが死ぬ。
死なせたくない。あの音楽が二度と聴けなくなるなんて嫌だ。
それならやるべきことは一つだ。
「歌……」
静かな空間に流れる一つの歌。マイカの口から発せられる美しく清らかな歌。
緊迫した状況でありながらもホムラはこの歌に聴き惚れていた。
何て綺麗な歌なのだろう。ずっと聴いていたいと自然と思うほどの魅力に満ちた歌。
その歌をホムラの握る剣の柄頭に付いているマイクが拾い、刀身を赤く光らせていた。
「これが……切り札……浄歌か!」
剣の様子、そしてこの歌の美しさでホムラは確信した。
これが求めていた切り札、浄歌であると。
「サラ!泉の女神に伝達を!奏甲を使う!」
「わかってるわ!」
これで鍵は揃った。このまたとないチャンスを無駄にするわけにはいかないとホムラとサラは咄嗟に切り札を使用しようと準備に取り掛かる。
「なんだい。音楽は嫌いじゃないのか」
剣を地面に突き刺し、ホムラはマイカの歌に聴き惚れていた。
一点の曇りもない澄んだ綺麗な歌。聴いているだけで心が洗われる歌は正に浄歌に相応しい。
「音楽が嫌い人が、綺麗な歌を歌えるわけがないじゃないか!」
マイカは口では音楽が嫌いだと言っていたが、心の奥底では愛していた。
この歌を聴けば自ずとわかることだ。
出なければこんな歌は歌えない。
歌は心を表すものだ。
「許可が下りたわ!さぁ、纏いなさい!ホムラ!」
「奏着!」
マイカの浄歌を剣につけられたマイクが拾う。拾われた浄歌は剣を伝い、地面に波紋状に広がり、泉が現れる。
そして、泉の中から赤い鎧が浮かび上がり、ホムラの周りを浮遊する。
鎧はホムラに装着され、一人の戦士となる。
「炎魔奏士ブレイヴァー!ここに参上!」
剣を構え、見得を切る。
紅の鎧には鳥の羽のような衣装が施され、仮面も何処と無く鳥のように見える。
これが炎魔奏士ブレイヴァー。
炎を操り、闇を斬る戦士。
「ハァ!」
マイカの歌をバックにブレイヴァーは鳥のように軽やかに跳び、クモに生身では通らなかった一太刀を浴びさせる。
「これならいける!」
勢いに乗ったホムラは一旦、バックステップでクモとの距離を離す。
すると、クモは口から糸を吐き、動きを止めようする。
しかし、粘着性の高いクモの糸はいとも容易く斬られる。
「こんな綺麗な歌!聴かないのは勿体無いな!」
「グオオオ!」
大きく振り被り、威力が増したクモの攻撃をブレイヴァーは片手で受け止める。
鎧を纏ったことにより、身体能力、攻撃力、防御力は比較的に上がっており、クモには遅れを取ることはなかった。
「いいか!音楽は耳で聴くだけじゃない!肌で感じるものでもあるんだ!」
ブレイヴァーはクモに肩に乗り、刃を突き刺す。
柄頭のマイクが歌を拾い、刃を伝ってクモの体内に歌を伝える。
伝った浄歌はクモの悪しき魔音を消滅させ、憑依者である金髪の少年もクモを分離させかけていた。
「分離しかけてるわ!今よ!」
好機と見たブレイヴァーはクモから離れると再び、剣を構える。
すると、剣に炎が渦状に纏われる。
そして、鎧の背面から轟音とともに炎が翼のように吹き出す。
「これで終曲だ!」
炎の翼をはためかせ、爆発的な加速でブレイヴァーは横一閃にクモを斬り抜ける。
必殺の技を受けたクモは炎に包まれる。
その炎は闇の魔音を浄化し、クモ歌異人を金髪の少年へと戻す。
「ハァハァ……」
クモが消滅したのを確認すると、ブレイヴァーは変身を解く。
すると、足元に再び湖は現れ、外れた鎧は湖の中に引き寄せられるように沈み、また湖は消える。
「苦戦したな……」
ブレイヴァーから元の姿へと戻ったホムラは、雪崩のように押し寄せる疲労に膝をつく。
「大丈夫ですか!」
慌てて、マイカはホムラの元へと駆け寄る。
「うん……。それより綺麗な歌声じゃないか。戦闘中だったけと惚れ惚れしちゃったよ……」
「それは……」
ホムラに褒められ、マイカは照れて、顔を赤らめる。
歌を褒められたのはかれこれ10年振りだ。
「そんなことより!あなた、何で浄歌を歌えるわけ⁉︎」
二人のいい雰囲気を壊すようにサラが間に入ってマイカに問い詰める。
「じょうか?」
「悪に溺れてた人間を正しき道へと戻す浄の歌。それが浄歌。そして、俺たち奏士にとって、切り札である奏甲を召喚するための鍵よ」
「そして、その浄歌を歌えるのは心から歌を愛している者」
「歌を愛してる?」
「だから、俺は嬉しかったよ。君が浄歌を歌えたってことは」
自分が歌を愛している。
全く実感などなかった。
だからこそだろう。
既に愛していたから。愛することが当たり前だったから、実感などなかったのだ。
「そんなお世辞はいいわ!あなた!私達と一緒に戦いなさい!」
「戦う……」
「言っておくけど拒否権はないわ。あなたがいないと私達はまともに戦えないんだから」
サラの有無を言わせない強気な態度にマイカをたじろいでしまう。
自分は戦いに参加しているつもりはなかった。ただ、後ろで歌を歌っているだけ。
しかし、その歌がホムラの力の一部になっているとなる。
そうなると、歌異人は力の一部であるマイカを狙うことだってある。
そうすれば死ぬことだってある。
段々と押し寄せる波のように死という恐怖がマイカに襲いかかり、体が震えてしまう。
「サラ!その辺にしておけ!これ以上はかわいそうだ!」
「でも!」
「重要性はわかってるさ」
サラの横暴な態度、そして、マイカの怯える様子を見て、ホムラは止めに入る。
確かにサラの言っていることは正しい。
浄歌が無ければ、これから先、戦うことなど出来はしない。
しかし、歌うのは戦闘経験もないただの可憐な少女。
ましてや押し付けられ、覚悟もなく戦いの渦中に巻き込まれれば、呆気なく死ぬのは目に見えていた。
歌い手は使い捨ての鍵ではない。人間だ。
それを無理矢理、戦いを強いるのはあまりにも残酷過ぎる。
「ごめんねマイカちゃん。でも、俺達は君の力が必要なんだ。だけど、無理は強いらない。君自身が決めて欲しい」
「そんなこと言われても!私は……」
「わかってる。よくわからないよね。だから、すぐに答えは出さなくていい。ゆっくりでいいから」
ホムラはマイカの頭を撫でながら、優しく語りかける。
落ち着いてきたマイカはゆっくりと自分に問いかける。
自分はどうしたいのか。
いつ命を落とす状況に身を通じながらもホムラの側にいるか。
ただ、周りに馬鹿にされながらいつもの日常を送り続けるか。
「私は……」
はっきり言うとマイカの答えは決まっていた。
しかし、死が一歩を踏み出す足を掴んで離さない。
結局、答えを言い出せずに二人は金髪の少年を道の端に置いて、帰路を再び歩み始めたのだった。
クモを倒し、一時的な平和が訪れる
だが、戦いはそんな簡単に終わらない
だけど、腹が減っては戦はできない
次回 守るべきモノ(1)
光あるところに闇がある