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見参!炎魔奏士ブレイヴァー(2)

金髪の少年から逃走した後、二人は国の外れにある噴水のあふ公園に辿り着き、暫しの休憩を取った。

まだ、足の震えが止まらず、上手く立てないマイカは公園のベンチに座っていた。


「はい、どうぞ」


「べ、別に良いです。そんなの……悪いですから」


「遠慮しなくていいよ。それに、ここで素直に受け取らない方が、このジュースが無駄になるのだけど」


「そ、それじゃあ……ありがとうございます」


ホムラは近くの商店で買ったフルーツジュースをマイカに差し出す。

見ず知らずの相手にここまで介抱されて良いものかとマイカは引け目を感じ、一回は差し出されたジュースを受け取らないと拒否する。

しかし、ホムラのいやらしい説得に気の弱いマイカは負け、渋々ジュースを受け取ることになった。


「あ、あの貴方は何者なんですか?」


一体、無関係な自分にここまで関わろうとするホムラが気になって仕方がない。

甘く、酸味のあるフルーツジュースを喉に通しながら、マイカは彼に話しかける。


「俺はホムラ。ホムラ・ウィンドバーグ。宜しくね……えっと……」


「マイカです。宇多見マイカです」


「マイカちゃんか。よろしくね」


ホムラ・ウィンドバーグ。このオルディアス王国ではなかなか聞かない名字にマイカは不信感を抱く。


「あ、ここに居たのね。ホムラ」


マイカが恩人であるホムラに不信感を抱いて始めた頃。ホムラの背後からサンタクロースのように袋を担いだサラが現れる。


「え!?あ、あの……その子は!?」


「こいつはサラ。火の妖精さ」


「妖精って、そんなの架空の存在じゃ……」


「まぁ、そう思われてもしょうがないわ。妖精は滅多に人前に出ないからね。こうやって人前出るどころかホムラと一緒に旅をしている私は珍しい例ね」


マイカの腰を抜かす反応にサラはそう思われても仕方がないとばかりに呆れた様子を見せる。

マイカにとって妖精とは所詮、おとぎ話に出てくる架空の存在だと思っていた。

しかし、その架空の存在が今、目の前にいる。それも謎の人物ーーホムラと一緒に。

ますます、ホムラへの疑念が強まる。


「サラ。どうだった?」


「バッチリよ。これで当分はこの街に滞在出来るわ」


「よし。助かった」


驚くマイカの側でサラは袋からある物を出す。

黄金に輝く三角形のバッジ。オルディアス王国の国民の証である国章。

これがなくてはオルディアスに住む権利がなく、同時にこの国に縛られ続ける呪いとなる。


「それは!やっぱり、貴方はこの街に住人じゃないんですか?」


「あぁ、ただの旅人さ」


「旅人って!この街は商人以外の部外者は立ち入れない筈ですが!」


「わかってるよ。まぁ、俺は所謂、違法入国者だ」


ホムラは悪びれる様子もなく、寧ろ悪戯を宣言する子供のように無邪気に笑う。

国章は生まれた時に配られる物だ。基本的に外部の者が正規の手段で手に入れることは不可能だ。


「違法入国って!唯一の正門は門番が居るうえにここは高い壁に囲まれていて、簡単には入れない筈じゃ!」


「そうだね。確かにそんな強固な設備は簡単には破れない。でもね、強固な設備にだって隙は出来る。特に人が管理するならなおさらね」


マイカの目の前で人差し指を振り、得意げな表情を浮かべる。


「油断は大きな隙を作る。俺たちはその隙に付け込んだだけだ。隙を見せた見回りが悪い」


ホムラはよくわからない男だった。為すこと

赤の他人であるマイカを助けたこと。妖精と一緒に行動していること。あまりにも謎が多い。

そして、わざわざ危険を犯してまでこの国に入国したのかがマイカにとって一番の謎だった。


「貴方は……何者なんですか?」


「言ったろ?俺はただの旅人さ。まぁ、付け加えるなら、音楽で世界を救う奏者かな?」


マイカの真面目な質問に対し、ホムラは冗談のように軽い調子で答える。

しかし、目は真っ直ぐで曇りもなく、嘘を言っているようには見えなかった。


「すみません。助けて貰ったのは大変、感謝しているのですが……正直言って、私は貴方のことが信用できません」


「ありゃま」


だからこそ、マイカは完全にホムラを信用することが出来なかった。

見るからに表情と思っているであろう心情が噛み合っていないのだ。

本当の姿を見せなように仮面を被り、自分を偽る道化師のように見えた。


「でも……恩人である貴方を疑いたくありません。だから、二つ聞いていいですか」


だが、そんな怪しい相手でも自分を助けてくれた相手には変わりない。

助けてくれた相手をどうしても信用したい。それがマイカのホムラに対する一つの礼儀である。

そして、信用するには少しでも相手のことを知る必要があった。


「構わないさ」


「一つ目はこの国に来た理由です」


「この国を邪悪から解放するためだ」


「邪悪?」


「おかしいと思わないのか?この国の……歪さに」


「それは……」


オルディアス王国は所謂、鎖国をとっており、他国との関わりを持たない極めて閉鎖的な国だ。商人以外は基本的に外部の人間は入国を禁止しし、そして、内部の人間が外部に出国することも禁止している。

そうなると結婚は結果的に国民同士ですることになる。

そして、生まれた言葉が『オルディアスの国民はオルディアスで生まれ、外の世界を知らずにオルディアスで死ぬ』だ。


「俺はそんな国を正したいと思っている」


「正すって……そもそもこの国はそんなに間違っているようには……」


マイカはホムラの言っていることがわからなかった。確かにオルディアスは閉鎖的な国で、自由に国外に出れないのは不便だと思うところもある。

しかし、噂で聞くとオルディアスは他国に比べて身分の格差はない。食料不足も娯楽不足もない。

住んでみればそこまで悪い国ではない。むしろ、住めば都と言える。

そんな国を正すことなどあるのだろうか。

マイカの疑問に満ちた目にホムラはやはりと言った表情を見せる。


「まぁ……そうだよね。普通はそんな反応するよね」


マイカはホムラと違って、生まれた時からこの国についてはよく知っている。

オルディアス王国の実情と裏の話を人伝に聞いただけのホムラとは思い入れも愛国心も違う。

そんな国民に自分の話が理解される筈がなかった。


「今の話は忘れてくれ。まぁ、忘れなくてもいいけど、他の人には広めないでくれ。面倒なことになる」


自分の話を理解してもらうのは無理だとホムラは諦める。


「……わかりました。二つ目です。あの時、何で私を助けたんですか?」


「だって、君が助けを呼んだじゃないか」


「え?私が⁉︎」


マイカは目を丸くし、唖然とする。

マイカは一言も助けを呼んではいなかった。そのはずなのだが、ホムラにとっては助けを呼んでいたようなのである。

事実の食い違いにマイカは困惑する。


「俺も風に乗った声を聞いて来たから細かいところはわからないけど……君は止めてとか言ってたようだからさ」


「風に乗った声って……」


「ホムラは音に関する能力が高いの。遠い所からでも音が聞こえたり、声とか音を聞いただけで、その相手の感情とか、何考えているのかが見えたりするの」


常人には理解できない能力に混乱しているマイカを見兼ねて、サラが説明に入る。

ホムラは感受性が高いあまり、音に込められた思いや感情を読み取れることができる。

それは人間だけでなく、犬や猫などの動植物や風や水などの自然に関するものも該当する。


「特に君の声はとても冷たく感じたから、わかりやすかったよ。あれは……泣いてたよね?」


金髪の少年に襲われていた時、確かに小さな声で助けを求めていた。

近くにいた金髪の少年にも聞こえないような小さな声だ。

よく、遠くにいたホムラに聞こえたと思った。


「……仕方がないんです。私は……何も出来ないから」


「虐められてもかい?」


「だって、私は全く魔奏を奏でられない。魔楽器だって使えない。貴方やあの金髪の人なんかよりもずっと劣ってて……」


マイカには誰よりも強い劣等感があった。普通ならば扱える魔音も魔奏も全く扱えないのだ。

そのおかげで学校では馬鹿にされ、腫れ物扱い。

この閉鎖的なオルディアス王国でもその噂は簡単に広まり、町を歩けば、嘲笑が周りから聞こえてくる。

周りから蔑まれてもマイカを助ける者はいない。

魔音さえなければ。音楽さえなければ自分はこんな苦しい思いをしなかったと、いつしかマイカは音楽を憎んでいた。


「君は音楽は好き?」


「……嫌いです」


「そうか。俺は好きだな」


一方、ホムラは音楽が好きであった。

否。好きという言葉では足らず、愛しているという方が正しいだろう。


「音楽っていうか、音そのものが好きだな。木々の音や波の音は人々を心地よくしてくれる。音楽は人々を楽しませ、時には感動させてくれる」


「違います。音は……そんな優しいものじゃないです」


ホムラの音楽への熱意は誰もが認めるほどは大きいものだ。

だが、マイカは納得がいっていなかった。

確かに音楽は人々を癒してくれることもある。

しかし、ホムラの言っていることはあまりにも綺麗事過ぎて、信用出来なかった。


「確かに君にとってはそうかもしれない。現に魔音と魔奏は兵器に変わっている。……俺はそれが許せない」


マイカの音楽への意見をホムラは否定しない。それは紛れもない事実だからだ。

ホムラが戦っている敵組織も魔音を悪事に利用している。

また、敵組織を追い、世界を旅してきたホムラは魔音が戦争の兵器として扱われてきた現実を幾度となく目の当たりにしてきた。


「音は誰かを傷つけるためにあるんじゃない。他人とのコミュニケーションを取るために。安らぎや感動を与えるものなんだ」


だからこそだ。ホムラは魔音を、音楽は兵器でも暴力でもないと思っていた。


「それに、魔音だって使い方によれば誰かを救える手立てにもなる。要は使い手によるんだよ」


すると、魔音の一つの可能性を見せるため、ホムラはギターケースからギターを取り出す。

そして、手慣れな手付きで音楽を奏で始める。


「綺麗……」


ギターの弦が弾かれる度に響く、激しい音楽。

ホムラの口から紡がれる思いの込められた歌。

それはマイカの心に槍のように貫き、シルクの布のように優しく包み込む。

ホムラが奏で、歌う音楽はマイカにとって何よりも美しいものに感じられた。

思わず目を奪われるほど輝く宝石よりも。

色鮮やかな色を持つ花よりも。

ホムラの目に見えない音楽は何よりも輝き、そして鮮やかに色付いていた。


「お上手ですね」


「へへ。お褒めいただきありがとう」


ホムラの音楽が鳴り止むと同時に、マイカの大きな拍手が鳴り始める。

本当に感動して、自然と出てしまった拍手はいつ以来か。

マイカの記憶では五歳頃に母が聞かせてくれたあの歌以来であった。


「魔音は魔力の入れ方を一段下げるというか、弱めれば、ただの魅力に成り下がる。でも、その魅力はただの音よりも人の心に響くし、重みだって違う」


「そうなんですか?初めて聞きました」


「それはそうだね。この話は俺の恩人の受け売りだからね」


すると、ホムラは懐かしむように微笑んだ。

おそらく、その恩人のことでも思い出していたのだろう。

その笑みが言い方は悪いが異様に人間らしく見えた。


「私も貴方のように奏でられれば……もっと音楽を愛せられたのかな」


ホムラの音楽を聞き、少し羨ましく思えた。

なんとも楽しそうに奏でるのが見てても、微笑ましかった。

自分もこのように音楽を愛してみたかった。

武力としての音楽ではなく、魅力としての音楽を奏でたいと思った。


「別に音楽は奏でるだけじゃない。歌うことだって、立派な音楽さ」


「歌うこと……」


ギターをケースにしまいながら、マイカに一つの可能性を提示する。


「君は声が綺麗だ。まるで雪解け水のように不純物がなく、透明に澄んでいる。きっと、君は歌うことがよく似合うはず」


「歌……」


マイカにとって、歌はとても大切な思い出であった。

幼い頃は両親からよく歌を教わり、一緒に歌っていた。

あの頃は楽しかった。ただ純粋に音楽を楽しんでいた。

しかし、両親が死んで10年前。さらに魔奏が使えないことがわかり、周りから迫害されてから、マイカは心を閉ざした10年前からマイカは歌うのを辞めた。

否、正確には歌えなくなったのだ。

心を閉ざした結果、心を乗せる歌が歌えなくなったのだ。


「私は……今は歌えない……」


だが、ホムラに会ったことで。ホムラの奏でる音楽を聴いたことで少しだけ、歌いたいと思った。

そして、いつかホムラと一緒にセッションしたいと思ったのだった。


♢♢♢


「畜生!あの野郎!俺をコケにしやがって!」


金髪の少年は子供のように怒りを撒き散らしながら、裏道を歩いていた。

ホムラ達が逃げ去った後、金髪の少年は惨めな思いをさせられた。


「おお、どうしたのかな。大分、お怒りの様子で」


怒る金髪の少年の前に黒いローブを纏った謎の少年がいた。

見るからに怪しく、金髪の少年は何者だろうとまじまじと見る。

しかし、フードを被っているため、顔をよく見えず、ただ黒いローブによって強調された異様に白い肌しかわからない。


「お前は?」


「通りすがりの音楽家だよ。そんなことより、そんなたこ焼きみたいな酷い顔して」


「うるせぇ。知らない奴にボコボコにされたんだよ」


「ふ〜ん。それで腹が立っていると」


怒りで酷い面構えとなっている金髪の少年を謎の少年は小馬鹿にするように笑う。

一見、ただの無邪気な青年にしか見えない。

しかし、それは化けの皮を被っているに過ぎないとは金髪の少年は気づきもしやい。


「ねぇ。できることなら復讐したいと思わないか?」


「それはしてぇがよ!あいつはとんでもなく強くてな!」


「なら、僕が強くしてあげるよ」


「は?」


「僕の魔奏は強化系なんだ。それを君に聞かせれば、今より数倍も強くなるよ」


「本当か!それならすぐにでも頼むぜ!」


「あぁ。喜んで」


これはまたとないチャンスだ。これであの訳の分からない男に仕返しが出来ると金髪の少年は何も考えず、すぐに提案に乗ってしまう。


「あぁ。愚かな人だ」


自分にしか聞こえない声量で金髪の少年を愚弄する。

何も考えない馬鹿は騙しやすい。

普通ならば、見返りを聞かれたり、警戒されるのが常で、適当な御託を並べて、説得するするのが謎の少年のやり方だ。

しかし、金髪の少年に関しては不審がらず、素直に力を求めた。

人は心の奥底で力を求めている。

他人を力で支配する武力。他人を蹴落とす権力。他人の心を奪う魅力。そして、魔力。

金髪の少年は余りにも力に対してあまりのも素直過ぎる。

その人間臭さを愚かと思いながらも不敵な笑みを浮かべ、謎の少年はバイオリンを奏で始める。


「ぐっあぁぁぁぁぁ!」


細い弦から響く聞き惚れるような綺麗な音色。

しかし、金髪の少年はその音を聴いた瞬間、頭を抑え、苦しみ始める。


「それじゃあ、後は頼むよ」


闇の魔奏が効いたと見た、謎の少年は演奏を辞め、闇の中へと消えていった。

闇の魔奏を聴かされた金髪の少年は次第に落ち着いていく。

まるで、手綱を握られた馬のように。


「が……あ……」


焦点の合わない虚ろな目を動かし、意味不明な言動をしながら、おぼつかない足取りで金髪の少年は何処かへ向かっていった。


ホムラとマイカに襲いかかる敵、クモ歌異人

その圧倒的な力にホムラでも手を出せない

だが、切り札は常に勇気ある者のところにくる!

戦え、ホムラ!切り札を使い、クモを倒せ!



次回 見参!炎魔奏士ブレイヴァー(3)


闇を斬れ!ブレイヴァー!

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