遊園地〜ミラクル〜
石橋がフられた事は秘密となり、4人だけしか知らなかった。茜は約束通り詮索はせず、残念だったね。と杉山にメールを送っただけだった。当の石橋は長い片思いからの決死の告白では無かった為か、それ程ダメージを受けていたわけではなく、2日もすれば何も変わっていない石橋に戻っていた。それでも、念のためにと杉山達は、それから3日くらいは様子を見る事になった。石橋はそんな2人に気付き、気にしないでくれ等と言ったが、友達がフられるという経験が無かった2人はどうしていいか分からず、なんとなく落ち着きのない時期になってしまった。石橋よりも2人の方が正常になるのに時間がかかってしまった。必要以上に気遣いをしてしまう性格だった。
それから2週間が経ち、5月の連休に、杉山は茜と遊園地に行く事にした。前日に茜は試合があったが、久々の遊園地とあって、テンションが高かった。
杉山は絶叫系が苦手だった。昔から事あるごとに、わざわざ怖い思いをするなんて馬鹿げてる!と言い、友達に怖がりだのビビりマンだのと言われても、絶対に乗らなかった。
「ねぇねぇ、超ミラクル大回転に乗らない?」ニコニコと茜は溢れそうな笑みで言った。
「・・・俺はいいよ。遠慮しておくよ。」ジェットコースターを見て、笑顔をひきつらせて言った。杉山が今まで断ってきた物とは次元が違うものに見えた。下から見てるだけで気持ちが悪くなりそうだった。
「えぇ!?あれに乗る為に来たんじゃないの?もしかして、こういうの怖いの?」
「い・・・いや。怖くは無いんだけど、こういう系の乗り物から楽しみを見出せないというか、乗ろうと思わないからさ。」杉山は無理やり笑ったが、自分でも上手く笑えたかわからなかった。
「乗ってみようよ!乗れば、楽しさを見出せるかもしれないから!ね!」
「あ、ちょっ!」
グイグイと杉山の腕を引っ張って超ミラクル大回転に向かっていく。かなりの長蛇の列が出来ていて、その1番後ろに並んだが、すぐに後ろに列が伸びていった。断って逃げる事も出来たが、彼女と初めての遊園地でカッコ悪いのは嫌だと思い覚悟して並んだ。それから、しばらく歩いてから、階段をのぼり始めた。徐々に上がっていく階段。遊園地を全て見れるんじゃないかと思えるほど登った。何度も何度もコースターは発着を繰り返し、その数だけ大きな悲鳴が聞こえてきた。たまに茜が杉山に話しかけたが、適当な相槌を杉山は繰り返すだけだった。
なぜ、はじめに乗る乗り物がこれなのか。お化け屋敷やコーヒーカップ等の、恋人同士を楽しませるような物があるにもかかわらず、なぜ、ココにいるのだろうとそればかりを杉山は考え、100%後悔していた。順番は次だ。もう目の前に超ミラクル大回転が来る。ミラクルが起こって、気が付けば地面に立っているという事は無いだろうかと僅かに杉山は考えたが、あっさりと、順番が回ってきた。ミラクルは微塵も可能性を見せなかった。
前から順番に座っていき、2人は3列目に乗り込んだ。レバーが下り、カタカタカタと斜め上に上がっていく。ものすごい高さになった。茜も喋らなくなり、表情が硬くなっていた。
「ネーミングの意味がわからないよね・・・。」並び始めてから、杉山が初めて喋った。
「え?」表情を変えずに茜は横を見た。
「超ミラクル大回転って、何がミラ・・・」杉山が極度の恐怖の中、無理に茜を気遣って喋っている途中に角度が変わった。前の人と空しか見えなかったのに、その視界の中に突如、遠くのビルが見えた。さらに角度は変わった。え?と杉山が思った瞬間に何のためらいも無く落ちた。
「何がミラクルなんだー!!!」杉山は叫んだ。猛スピードで走り、グルグル回転をする。文字通りの大回転だった。何が何だかわからない。上を向いているのか、右なのか左なのか。茜はキャーキャーと悲鳴をあげていたが、杉山は初めの叫び以外は無言だった。杉山が初めて乗った絶叫系の乗り物は、こういった乗り物が得意な人間でも恐怖に陥るほどの物だった。ものすごい数を大回転し、ついに最後の直線になり、ゆっくりとゴールに着いた。レバーが上がり、みんな乗物から出た。乗客は口々に、怖かっただの、震えてるだのと言った。茜の手を持ちながらボーッと放心状態の杉山も出て、階段をゆっくりと降りた。
「怖かった〜。杉山君は楽しかった?」少し出た涙を拭きながら茜は言った。
「・・・。」杉山は何も言わずに、何も無い空間を見ていた。
「杉山くん?」茜が顔を覗き込んだ。
「あ。」杉山の目の焦点が合った。同時に茜とも目が合った。
「ミラクルだ。」気が付けば地面に立っていた。




