茜とユメ〜告白2〜
石橋は明らかに寝不足の顔で登校してきた。目の下のクマも、いつもと何か違う顔色も、昨夜の戦いを象徴していた。
「なぁ、杉山・・・。あいつ、やばくないか?」加藤が石橋を見ながら言った。
「うん・・・。」昨日の段階で自分の気持ちを整理出来ていなかった杉山をさらにかき乱す出来事だった。2人は駆け寄った。
「おい。お前そんなになるくらい言葉を考えたのか?」加藤が言う。
「・・・。いや。」首を横に振り、ゆっくり石橋は答えた。
「じゃあ、どうしてそんな顔なんだよ?」
「家に帰ってから、リラックスした環境で考えようとして、夕食を早く食べて、風呂も入って完璧にしたんだ。そして、夜の10時くらいにはもう言う事は出来てたんだよ。」重そうな瞼をこすりながら石橋は小さな声で言った。
「でも、お前明らかに寝不足な顔じゃん。」
「・・・シミュレーションをしてたんだ。どんな感じで言おうかとか、こう言われたら、こう切り返そうとか。そしたら、2時になってて、やばいと思って寝ようとしたんだけど、全然寝付けなくて、遠足の前の日みたいになっちゃって、4時くらいにやっと寝れたんだ。」気持ち悪い笑顔で石橋は言った。
「はは・・。」加藤は少しだけ笑ったが、石橋を見ていたら笑えなくなった。
「もうさ、今日の授業は全部寝れば?その顔じゃ、誰でもOKしてくれないぞ。」
「うん。そうする。また、授業のノートみせてね。」そう言って石橋は机に体を預けた。
それから石橋はほとんどの授業を眠って過ごした。杉山達は休憩時間の度に告白の仕方や場所などを予想する話をした。ユメは相変わらずいつも通りでみんなと笑っていた。
杉山は自分の気持ちが迷路から出られないのだと感じ、複雑な気持ちに蓋をするように努めた。しかし、ユメが視界に入る度に、笑い声が聞こえてくる度に、その蓋は容易く外されてしまった。仲のいい友達の告白というシチュエーションが杉山には辛かった。
学校では珍しく、杉山は茜にメールを送った。今日は友達が告白をするから、それを見守る為に一緒に帰れないかもという内容で、最後に、それが誰だとかは聞かないでくれと書いた。
すぐにわかったというメールが届き、杉山は早く終わればテニスコートに行くと返信した。
最後の授業まで石橋は眠り、顔はいつも通りくらいまで回復していた。
チャイムが鳴り、みんなが、教室を出て行く。ユメもカバンを持った。その時に石橋はユメに近づいた。
「あの、幸村・・さん・・・。ちょっと・・話したい事があるんだけど、い・・いいかな?」
「ん?いいけど・・・何?」キョトンとした顔で石橋を見ていた。
「まぁまぁ・・・。座って。」そう言って石橋はユメを席に座らせ、少し辺りを歩いた。
みんなが、教室から出ていくのを待っていた。それに気付いた杉山たちは教室を出て、廊下に座って、静かに待った。
「教室か・・・。」加藤は呟いた。体育館裏や、校舎裏を杉山達は予想していた。
石橋はユメの前に座った。背もたれを体の前側にくるように座り、その背もたれに両手を乗せる姿勢をとった。
「あの・・・。俺・・・君と初めて会った時に、好きになっちゃったんだ。」首筋を触りながら、キョロキョロ辺りを見ていた。全く石橋は落ち着きが無かった。
少し沈黙。
「短っ!」ちいさな声で加藤が言った。考え、シミュレーションをし、寝不足になったとは思えないセリフの短さだった。
「えっと、あの、私ね、好きな・・人がいるんだ。だから、ごめん・・・。」ユメは小さな声で言った。その声は優しく、やわらかな太陽の光に照らされたユメは本当に可愛く、少し石橋は見とれてしまっていた。
「あ・・ごめん・・・。あ、ありがとう、聞いてくれて。」ボーッとしていた自分に気付き、石橋は言った。石橋の告白はすぐに終わった。
その声を聞いて、もう出てくると察知し、杉山達は柱の陰に隠れた。
教室の後ろ側の扉が開き、バイバイという言葉が交わされて、ユメが出てきた。2人には気付かずに歩いて行った。ユメが見えなくなると杉山達は教室に入った。
石橋は窓の外を見ていた。
「石橋・・・。」加藤が呼んだ。すると、石橋はグッと伸びをして大きく溜息をついた。
「あー、ダメだった・・・。わかってたけど、考えてた言葉が全部飛んでしまってさ、殆ど、何も言えなかった・・・。あぁあ。せめて全部言いたかったなぁ。緊張しちゃったなぁ。」
頭の上で手を組んで言った。
何ともいえない空気が漂い、杉山達は言葉を発せなかった。
「でも・・・本当に可愛かった。2人は見れてないと思うけど、ごめんって幸村さんがいった時の顔がすっげー可愛かった。」沈黙を石橋が破る。
「あぁ。可愛かったなぁ・・・。」石橋は続けて言ったが、もう涙声だった。またしばらく沈黙した。さっきよりも少し長かった。
「ごめん、なんか・・泣いちゃったなぁ。もう・・帰ろう帰ろう。」振り返って袖で涙を拭いて、石橋は笑った。中途半端な笑顔だったが、杉山達が今まで見た中で1番カッコいいと思える石橋だった。
「よし!カラオケでも行こう!な!」加藤は駆け寄り、石橋の肩に腕を回して言った。
3人は駅へ向かって歩いた。加藤は石橋を元気付けようと、セリフが短かすぎだとか、また好きな子が出来るなどと言って励ました。杉山は茜にメールを送った。フられてしまったから、慰めるために一緒に先に帰るという内容だった。携帯をカバンに入れて少し歩いて杉山は、ユメが言った好きな人は誰だろうと考えていた。本当にいるのか、それとも、告白を断るための口実なのか。杉山は少し思案したが、すぐに考えても解るはずがないなと思い諦めた。とにかく今は石橋の方が大事だと。少し後ろを歩いていた杉山は2人の方へ駆け寄った。




