茜とユメ〜会話〜
チャイムが鳴り、授業から休憩の時間に変わった。
杉山はユメに言いたい事や聞きたい事があったが、うまく整理出来ていなかった。
それでも杉山はユメの席の方へ歩いて行った。
「幸む・・」杉山がユメの名を呼ぼうとした時に後ろから肩を叩かれた。
「杉山、愛しのハニーが呼んでるぜ!」大げさにウインクしながらクラスの男が言った。
「加藤・・・。お前、言葉も仕草も古いよ。」杉山は苦笑いで、加藤の親指が差す方へ向かった。
「あ、杉山君。あのね、今日はテニスが終わったら、テニス部の友達に買い物に誘われてて、どうしても付き合わないといけないみたいで・・・だから今日は先に帰ってて。」茜は少し落ち着かない感じで言った。
「あぁ。わかったよ。気をつけて行くんだよ。」そう言って杉山は少し笑った。
「じゃあ、私、次は移動授業だから。」すぐ近くの階段を茜は上がっていった。
話が終って、教室に入り、ユメの方へ行こうとすると、ユメの席の辺りで男女の人だかりがあった。かなり盛り上がっているようで、杉山は短い溜息をついて自分の席に戻った。
この光景は休憩時間にはずっと続いた。途切れ途切れに聞こえてくる会話は、内容まではわからなかったが、男子生徒のテンションが高いのはわかった。ユメを取り囲む人の隙間から、たまにユメが見えたが、小学生の時の面影を残しつつ、本当に可愛くなっていた。
放課後になり、杉山はテニスの練習を観にいった。これはもう日課になっていて、意識をしなくても、杉山の足はテニスコートに向くようになっていた。しばらく遠目から茜を見ていたが、休憩になったらしく杉山からは見えない所へ行ってしまった。
そこで杉山は、今日は1人で帰らなければならない事を思い出し、正門の方へ歩き出した。
すると、ちょうど校舎からユメが出てきた。授業が終わってからしばらく時間が経過していたので、騒いでいたクラスメイトは部活か帰宅したらしく、誰も周りにいなかった。
「幸村さん。」小走りに駆け寄り、杉山は言った。
名前を呼ばれると思っていなかったらしく、ユメは少し驚いたように振り返った。
一瞬何かを考えたようだったが、すぐにユメはさっきの倍くらいの驚きの表情に変わった。
「杉山君・・・?」まじまじと杉山の顔を見ながらユメは言った。
「うん。今日からここに来たんだよね。同じクラスなんだけど。」ユメの驚きの表情を見て、杉山から緊張感は無くなっていた。
「え!?そうなの?どうして声をかけてくれなかったの?」
「あの人だかりとあの盛り上がりで声をかけるチャンスが無かったんだよ。」微笑みながら杉山は言う。
「あはは。確かにすごい騒いでたよね。でも、楽しい人達ばかりでよかった。」
「まさか、また会えるとは思って無かったよ。しかも小学校の時と同じような感じでだろ?偶然ってすごいな。」感心するように杉山は言った。
「ホントだね。学校だけじゃなく、クラスも同じだもんね。どれくらいの確率なんだろうね?」
「考えられないくらいの数字が並ぶよ。きっと。あ、そういえばどこに住んでるの?」
「昔と同じ所だよ。今日から住むんだ。もし、まだ杉山君が住んでたら驚かそうと思ってたんだよ。」舌をペロッと出しながらユメはいたずらに笑った。それを見て杉山は、昔、ユメが舌を出して笑う癖があった事を思い出した。変わってないんだなと、杉山は思った。
「そういえばさ、なんでまたこっちに帰って来たの?お祖母ちゃんの所は埼玉だったよね?確か。」ふと浮かんだ疑問だった。
「あ・・えっと・・お父さんがね、日本に帰って来る事になったんだけど、こっちの方でしか出来ない仕事があるんだって。それで、お祖母ちゃんも、もう大変そうだったから、私もこっちに来る事になったの。」
「へぇぇ。そうなんだ。よかったね。また一緒に暮らせるんだね。」杉山も嬉しかった。
「だけどね・・・。もうお母さんがいないの。私が転校して、しばらくして死んじゃった。」俯いてユメが言った。
「・・・そっか・・・。幸村さんが転校する時に入院するって、うちの母さんが言ってた。」
「うん・・・。でも、お父さんがいるから寂しくないんだよ。」ユメは寂しそうに笑った。
それからしばらく歩き駅に着いて、電車に乗り、電車では最近のドラマや映画の話をして、2人で盛り上がった。下車する駅はあっと言う間にやってきて、2人で降りた。
「あ、杉山君。わたし、ちょっと行きたい所があるから、ちょっと行ってくるね。いっぱい話せて楽しかったよ。また喋ろうね。」そう言って、ユメは自宅とは反対方向に歩いて行った。
どこに行くのだろうかと杉山は疑問に思ったが、知る必要もないか。と、のんびり家まで歩いた。いつもより、かなり早い帰宅だった。
「何をしよう・・・。」予定外に時間が余っても有効に使えない性格の杉山はただボーっとしながら、茜とユメの事を交互に考えていた。




