キス〜高校生〜
杉山は高校に入学した。特にやりたい事も無く、クラスメイトとはそれなりに仲良くなり、最高とは言えないが、満足な高校生活を送っていた。
季節は徐々に夏へ変わろうとしている時に杉山はある1人の子に小さな恋心を抱いた。
名前は鈴原茜といい、テニス部に所属する活発な女の子だった。たまたま席が隣になった時によく喋ったり、寝てしまった授業のノートを見せてくれたりして、接しやすい、いい子だなと杉山は思い、そんな些細な事が嬉しかった。放課後にはやる事の無かった杉山はテニス部の練習を観にいく事も多々あった。フェンス越しに見ているだけでもなんとなく杉山は楽しかった。何度か観にいった暑い快晴の日に茜は杉山を見つけフェンスに近寄った。
「最近観に来てるよね?テニスに興味があるなら入部してみない?」汗を拭きながら茜は言った。
「え?いいよ・・・。俺、体育くらいでしか運動してないし、その体育だってそんなに真剣じゃないから、全く動けないよ。」苦笑しながら言った。
「そっか・・・。結構ハードだから無理にとは言わないけど、楽しいから、気が向いたらやってみてね!」そう言って茜はコートの方へ戻って行った。その後ろ姿をボーっと杉山は見つめていた。本当にこういう少しの会話が杉山には嬉しくてたまらなかった。
それからも2人は教室で喋ったりしながらどんどん仲を深めていった。杉山の小さな恋心はもう小さくは無く、杉山自身も無視出来ないほどに膨れ上がっていた。
そして7月も半ばを過ぎ、夏休みの直前に、杉山は茜に告白をした。
「鈴原さん、俺・・君を好きになったんだ。付き合って・・くれないかな?」
「あはは・・・いいよ。」笑って茜は言った。
「やった!だけど、どうして笑ったの?」照れ笑いの杉山が言った。
「だって、いつも真剣な顔なんてしないのに、今は真剣な顔だったからなんか可笑しくて・・・。」そう言ってまたクスクスと茜は笑った。
「あのなぁ、俺は告白でまでふざけるような男じゃないんだよ。」笑って言う。
「でも、よかった。OKしてくれて。振られてたら明日が気まずかったかも。」続けて杉山は言った。
「私もね、杉山君が気になってたんだよ。席が隣同士になってから。」
「俺も同じ時から気になりだしたんだ。もう夕暮れだし帰ろっか。」
2人とも電車通学だった。駅まで一緒に歩いて帰った。
翌日、2人の関係の事はクラス中に広まった。恋バナが大好きな年頃の集まりで、茜も杉山も隠すつもりは無かったし、みんなも笑顔で祝福してくれていた。
それからすぐに夏休みに入った。デート代を稼ぎたい杉山はファミレスでアルバイトを始めた。要領のいい杉山はすぐに慣れ、テキパキと仕事をこなせるようになり、夏休みを有効に使えた。アルバイトの無い日や、早く終わった日などは、茜の練習を観にいったり、自主練の相手をしたりした。初めは全く出来なかった杉山だったが、徐々に慣れはじめて、簡単になら打ち合えるくらいにまで成長した。テニスをやりあうのも大切なデートの時間だった。
たまには映画でも観にいこうと、巷で話題になっていた映画を観にいったりした。
自然と手を繋いで歩くようになり夏休みの間だけで、2人の関係はどんどん親密になっていった。
夏休みの終わりに2人は電車で海に行く事にした。それ程遠い距離ではなく、1時間くらいで海水浴場に着いた。しかし突然の雨に2人は海に入る事無く、雨宿りをする事になってしまった。
「あぁあ。折角ここまで来たのに。天気予報の嘘つき!」ムッとした顔で杉山は空に言った。
「ホントだよね・・・。天気予報は晴れって言ってたもんね。」
海の家は2つあり、杉山達のいる方はもうただの空き家のようになっていた。
もう1つの海の家は結構な人数で賑わっていた。
「俺、何か買ってこようか?食べたい物とかある?」賑わいを見て杉山は言った。
「ううん。いらないよ。今、海でこれだけの人がいるのに、ここには私たちしかいないんだよ?ここは2人だけの場所なんだよ。海もしっかり見えるし。なんか嬉しいね。」茜はそう言うと体育座りをして、静かに波の音を聞いた。
その時に、杉山は久々に自分の鼓動を聞いた。明らかに茜を意識している事が解る。
顔も熱いし、落ち着きが無い感じも杉山は自分で気づいていた。
自分の鼓動が茜に聞こえてしまわないか、杉山は不安だったが、ピタリと寄り添うように座り、海の方を見た。肩に手を回そうかとも考えたが、自分がそうしている姿を想像して、客観的に見て気持ち悪かった。妙な所だけ杉山は冷静だった。
少しすると、茜の視線に気づき、そちらを見た。ハッとした感じだったので、首を回すスピードが速く、2人の顔がかなり近づいた。お互い少し驚いた感じになったが、茜の今までに見た事のない顔を見て杉山は決めた。言葉はいらなかった。本当に一瞬だけ唇が触れ合った。
「もう1回。」杉山はそっと言ってもう1度キスをした。それは1度目より少しだけ長く、1度目より少しだけ強く触れ合った。杉山は初めてにしては上手く出来たと勝手に思っていた。
それからはチャンスがあれば会うたびにキスをした。だんだん2人とも慣れてきて、深いキスになっていった。
秋が過ぎ、冬になり、時はどんどん過ぎていき、ゆったりとしていた2人の愛も気がつけばもうすぐ半年になろうとしていた。
「私ね、エッチって怖いんだ。」2人で学校の帰り道を歩いていると、突然茜が言った。
「え・・うん。俺は、茜の心の準備が出来るまでは待つから。」杉山は、日頃の茜の態度からなんとなくだが気づいていた。
「ごめんね。勇気が出なくて。友達とかは、もう経験とかした子いるんだけど、話を聞いてもなんか怖いんだ。」
「俺は茜を大切にしたいから。怖いのに無理にやりたいなんて思ってないから。」
茜は頷いて黙った。少し沈黙があったが、杉山が、違う話題を持ちかけ、また会話が弾んで、笑いながら帰った。
そして、何事もなく2人は2年生になった。違うクラスになってしまったが、2人の恋愛は上手くいっていた。喧嘩らしい喧嘩もする事は無かった。杉山はずっとこのまま幸せでいたいと思うようになっていった。そんな時にユメが杉山のクラスにやってきたのだった。




