再会〜小学生2〜
翌日、杉山は学校に着いて教室に入ると、クラスの男子達が囲んだ。
「お前、幸村と手ぇ繋いでたなぁ。」ニヤニヤしながら1人が言った。
他の男子も同じように笑っていた。杉山は何も言わずにいた。
「最近一緒に遊ばなくなったと思ったらラブラブだった訳か!」また違う男子が言う。
しまったなぁ・・・。と杉山はただ俯いていた。
「ちょっと!やめなさいよ!幸村さん、泣いてるのよ!」このクラスで1番背の高い女子が大きな声で言った。杉山が登校する前にユメもからかわれていた。
「・・う、うるさい!このノッポ女!」
「うるさいのはお前!こんな事して何が楽しいのよ!」
次にまた男子が何かを言い返そうとした時にチャイムが鳴った。このクラスにはめずらしく静かな1限目となった。
休み時間になっても杉山とユメは話をしなかった。いつもなら、みんなにバレない程度にでも少し喋ったりするのだが、ユメは全く元気がなく、他の女子数名と何かを小さく喋っているだけだった。朝の事で杉山も大きくショックを受けてはいたが、ユメの元気の無い姿を見る方が杉山は心が痛んだ。何か言葉をかけてあげたかったが、またからかわれるのではないかと杉山は怖くなっていた。
午前の授業が全て終わり、給食も食べ終えて、昼休みになった。
女子は数名教室に残っていたが、男子は杉山以外は全員外へ行っていたので、ユメの所へ杉山は向かった。
「あの・・・さ・・。あいつらの・・・言う事、気にすんなよ。」ユメの横に立って杉山はそっと言った。
「・・・今日は一緒に帰りたくない・・・。」少し間があって、涙声でユメは言った。
「・・・わかった。」ユメの涙声に少し戸惑った杉山は他に何も言えずに自分の席に戻った。
杉山は自分以上にユメが傷ついたのだと思った。これ以上からかわれて、またユメが傷ついたら嫌だと思い、今日はもう話しかけずに帰ろうと決めた。
放課後になってユメは足早に教室を出て、帰って行った。ユメを心配していた女子3人が杉山の所へ来て、何かを話していたが、ユメの事が気になって何も聞こえなかった。
好きになった人が傷つくという事が、こんなに辛いとは思っていなかった。杉山はもう自分がからかわれた事など忘れていた。ユメが心配。ただそれだけだった。
わざと帰るのを遅らせて、確実にユメと出会わないと思えるまで待ってから杉山は学校を出た。
1人で帰る道がすごく寂しくて、杉山は少し泣いた。だけど、すぐにユメの事を想い、鼻水をすすって、涙をぬぐった。
公園が見えてきた。杉山に塾が無い日はいつも公園で遊んでいた。
「あぁあ、今日は塾が無い日なのにな・・・。」杉山は小さく呟いた。
溜息をついて公園の横を通りかかると、大きな木の後ろにユメがいた。杉山に手招きをしていた。杉山は驚いたが、辺りを見渡して、誰もいない事を確認してからユメの所へ向かった。
「一緒に帰りたくないって言ってごめんね・・・。」しゃがみ込んでユメは言った。
「いいよ!幸村さん・・すごい辛かったみたいだし・・・。それにココで待っててくれたし!」杉山はニコニコ笑って言った。
「あのね、男の子に色々言われて恥ずかしくて、悲しくなって、もうこれ以上ね、からかわれたくなかったの。」
「うん・・・。わかってたよ。だから僕ね、帰るのを遅らせて帰って来たんだよ。一緒にいる所をみんなに見られないように。」
「だからこんなに遅かったんだ。ありがとう!でもね、今日、帰り道がすごく寂しくていっぱい涙が出たんだよ。明日は一緒に帰ってもらってもいい?」
「・・いいけど、また見つかったら何か言われるかもしれないよ?」
「うん・・・。いいの。そんな事より杉山君と仲良くしてたいもん。」ユメは笑って言った。
杉山はまた顔が熱くなるのを感じた。
「そっか・・・。僕もね今日帰り道寂しかったんだ。」照れながら杉山は言った。
それから2人はいつものようにブランコにのったりして公園で暗くなるまで遊んだ。
いつも通りに遊んだけど、いつもの何倍も杉山は楽しくて楽しくて仕方がなかった。
少しの時間だったけど、ユメを遠く感じて杉山はユメがいないとすごく寂しいと気付いた。
その事によって杉山はもっとユメと遊びたい、手を繋いでもっと歩きたいと思った。
心の中にユメがいっぱいになっていくのがわかった。嬉しいけど、少し恥ずかしいような気持ちだった。風呂に入っていても想い続けていた。
「大好きってこんな気持ちの事なのかなぁ・・?」そう言って、頭まで湯に潜ったりして長風呂になった。窓の外の月が、やさしくすべてを照らしているようだった。
朝、目覚めると遅刻ぎりぎりの時間だった。なんとなく興奮していたのか、杉山はなかなか寝付けず、いつもより1時間程眠りにつくのが遅れたからだった。
慌てて家を出て、走って学校へ向かった。杉山はいつも近所の子達と余裕をもって登校するので、このギリギリの時間に同じように慌てて走っているメンバーを見るのが初めてで、なんとなく新鮮な感じがした。チャイムが鳴る寸前に教室に駆け込みホッと安心してユメの方を見た。
元気ないつもの笑顔でおはよう!と言ってくれると思っていたのにユメは俯いたまま杉山を見なかった。杉山が疑問を持った瞬間にチャイムが鳴って先生が入って来たので、杉山は自分の席に座った。また何か言われたのでは無いかと杉山の胸がざわついた。
「幸村さん・・。前に来なさい。」先生が唐突にユメを前に呼んだ。
杉山は遅刻で動揺し、思いがけないユメの態度でさらに動揺していて状況がよくわからなかった。なぜ、ユメが先生に呼ばれたのかと考えるまでに少し時間がかかり、その間にユメは教卓の横まで行き、生徒の方へ振り返った。
「えー、突然ですが、幸村さんのお父さんが外国へ行く事になり、幸村さんはおばあさんの所で生活をする事になりました。ですので、幸村さんはこの学校から転校する事になりました。幸村さん、みんなに挨拶をしなさい。」先生がユメの背中をポンと叩いた。
杉山は理解出来なかった。ただ口が開いたままで動かなかった。
数名がえー!と声を発していたが、他の生徒は何も言わなかった。
「・・・えっと、みなさん・・・短い間だったけど、仲良くしてくれてありがとう・・・。」ユメは涙声で、短い挨拶をゆっくりと言った。女子の数名が鼻をすすっていた。昨日からかっていた男子も何も言わない。
「みなさん、急ですが、今日で幸村さんは転校する事になりました。今日1日しっかりと幸村さんと仲良く遊んでくださいね。幸村さん、席に戻りなさい。」またポンと背中を叩いた。
なんで?どうして?こんなに仲良くなったのに・・・。杉山は涙をこらえられなかった。
席に戻るユメと目が合った。ユメも泣いていた。
ずっと何も言わなかったのに・・・。転校なんてするって言わなかったのに!杉山は顔を上げれなかった。休み時間が来ても、辛さが勝ってユメに話しかけられなかった。
ユメも同じような気持ちでいて杉山の所へ行けず、他の生徒と喋るだけだった。
学校が終わり、下校の時間になって、みんなと喋っているユメを見ながら杉山は帰った。
辛くてユメに話しかけられず、前日よりもかなり多くの涙を流しながら坂を下った。
家に着いた杉山は何も言わずに部屋に閉じこもり、ベッドにもぐりこんだ。いくら流しても、涙は止まらなかった。太陽が沈みかけた時に、部屋の扉が叩かれた。
「雄ちゃん!ユメちゃんもうすぐ出発してしまうよ!」杉山の母が言った。
「・・・・・。」
「ちょっと!入るよ!」そう言ってゆっくりと扉を開けた。
「雄ちゃん・・・。仲良くしてた子が転校しちゃうのは寂しいと思うけどね、ユメちゃんのほうがずっと寂しいのよ?」そう母が言うと、杉山は布団から顔を出した。
「どうして?」震える声で聞いた。
「ユメちゃんは、クラスのみんなとバイバイしないといけないでしょ?それに、お昼にユメちゃんのお父さんが挨拶に来てね、雄ちゃんとすごく仲良くしてもらったみたいでって言ってくれて、ユメちゃんも転校したくない!って泣いてたみたいなんだけどね、ユメちゃんのお母さんが病気になっちゃったみたいで入院しないといけないんだって。だからユメちゃんはお父さんともお母さんとも一緒に暮らせないんだよ?」優しく杉山に言った。
「だから雄ちゃんよりもずっとずっと寂し・・・」続けて母が言っている時に杉山は走って部屋を出て裸足で家を出た。
ユメの家の前にトラックが止まっていた。そのトラックからエンジンの音が聞こえた。
「幸村さーーーん!!!」杉山は出せる限界の大きさの声で叫んだ。
すると助手席からユメが顔を出した。
「杉山くーーーん!!!」ユメも叫んだ。トラックは発車せずに待っていてくれた。
「ごめんね・・・。僕なんかより、幸村さんの方がずっと、ずーっと寂しいのに、泣いてサヨナラも言わずに帰っちゃって・・・。」また大粒の涙が流れた。
「ううん・・・。ユメも杉山君にずっと言えなかったし・・・。今日の朝まで、転校なんてしないんだって思ってたの・・。誰にも言わないと、このままここで暮らせるかもしれないっておもってた・・・の・・・。パパと・・ママと一緒にいられるんだって・・・。杉山君とも・・。」ユメは声を出して泣いた。
「また、いつか会えるよね?僕・・・、ずっと・・・幸村さんを好きで・・・好きでいる・・いるから。」声を絞り出して言った。
「・・・うん!嬉しい。」目を真っ赤にしながらユメは口だけ笑った。しかし、すぐに崩れてまた泣いた。
2人は手を繋いだ。助手席のユメはかなり高い位置にいて、杉山の手にユメの涙が落ちた。
「ユメ、もう行かなくちゃいけないよ。」ユメの父親が静かに言った。
「杉山君・・。ユメと仲良くしてくれてありがとうね。いつも、家で杉山君の話ばかりしていたんだよ。」続けて父親は言った。
「うん。」杉山は小さくうなずいて言った。
「バイバイ!元気でね!」杉山がそう言って手が離れるとゆっくりとトラックは走りだした。
並んで杉山は全力で走った。
「バイバーイ!バイバーイ!バイバーイ!」杉山は走って、ユメは身を乗り出して言い合った。次第にゆっくりと杉山は離されていった。30メートルくらい離されて、トラックが右に曲がろうとした時に、杉山は唾を飲み込んで思いきり息を吸い込んだ。
「ユメちゃーーーん!!」真っ赤になった目を閉じて思いきり叫んだ。トラックは見えなくなった。その場に座り込んで杉山はただただ泣いた。




