ユメと茜〜恋愛感情〜
連休最終日の午後。杉山は自転車を漕いでいた。雨は午前中にあがり、雲の切れ間から光が射していた。家を出る時にユメの家の方を少し見たが、それだけだった。自分には彼女がいるという思いが、杉山からユメを遠ざけていた。ユメがあまり近付いてきたり、話し掛けてきたりしないのも、きっと付き合っている事を知っているのだろうと杉山は思っていた。
杉山が向かったのはゲームショップだった。サッカーゲームの新しいソフトが発売され、予約をしていた杉山はそれを取りに行ったのだった。
日頃から運動はあまりしない杉山だったが、サッカー中継をみたり、スポーツニュースで世界のサッカーの結果等を見るのが好きだった。1度友達の家でサッカーゲーム対決をして以来、杉山は面白さにハマり、何本かソフトを買う事になった。その中の1つの最新作がこの日に買いに来たソフトだった。その友達も同じソフトを買う事を話していて、1週間後には対決をするという約束まで決めていた。
杉山は立ち漕ぎで急いで家に向かった。買ってすぐのゲームを、はやくプレイしたいという気持ちが杉山の頭の8割を占めていた。対決には負けたくない・・・。
そのままの経ち漕ぎの勢いで、少し広い道路に出た時に、歩道を歩くユメの姿が見えた。
ユメの方も気を使ってくれているのだから、声をかけるのもどうかと悩んでいた時に、ユメがフラッとよろめき、手すりに掴まった。
それを見た瞬間に、杉山はユメの所へ無意識に向かった。
「ちょっと!大丈夫?」横から杉山が覗き込む。
「・・あ・・・・・大丈夫・・・。」顔色の悪いユメが言う。
「大丈夫じゃないね。家まで送るから。ちょっとそこで休もう。」そう言って杉山は自転車を邪魔にならない所に停めて、ゲームの入った袋を持ってユメのすぐ横に並んでゆっくり歩き、近くにあったベンチに座った。しばらく2人は何も話さず、ただ、小鳥や近くを散歩する犬の鳴き声だけが、音として機能しているようだった。杉山は水を自動販売機で購入し、ユメにすすめた。小さな声で礼を言い、ユメは1口飲んだ。また、2人は沈黙した。
徐々に顔色が回復したユメはもう1口水を飲んだ。
「ありがとう・・・。マシになったみたい。私ね、最近貧血気味で、よく気分が悪くなるんだ。」揺れる木々を見つめながらユメは言った。
「そうなんだ。貧血とかって、俺はよくわからないからさ。」
「結構つらいんだよ。変な感じがするし。もう・・・大丈夫だから。」
「歩けるなら、家まで送るから。」
「え?いいよ。1人で帰れるから。」
「ダメだよ。心配だから。気になって、何も出来なくなっちゃうよ。」杉山は明るく笑う。
それから、少しして2人は立ち上がり、ユメの家へ向かった。
お茶でも飲んでと誘われたが、自転車があるからと断り、小走りで自転車の所まで行き、また、立ち漕ぎで家に向かった。
ユメの苦しそうな姿を思い出して、杉山は心に違和感を覚えた。心配な気持ちは確かに確認できたが、その違和感を形成する他の要因は分からなかった。なんだかモヤモヤする感じはしたが、サッカーゲームを買った事をすぐに思い出し、すぐに、ゲーム機の電源をオンにした。
思った以上にリアルな内容に杉山は満足していたが、今の杉山の頭の7割はユメの事だった。
今までに感じた事のない感情が杉山を掴んで離さない。色んなピースを当てはめてみる。
過去にあった出来事を思い返したりしてみる。初恋という言葉が浮かび、当てはめる。僅かに合わない。恋という言葉と好きという言葉が近いのではないかと思い浮かべる。するとあっさりと心から違和感は無くなった。しかし、杉山の頭には違和感だけが残った。
そんなはずはない。杉山は頭で繰り返した。茜を好きな気持ちは間違いない。ユメの事は好きだったが、それは小学生の時の話だ。なのにどうして?杉山は考えたくなくて、ゲームに集中しようとした。だが、杉山の使用するチームは失点を重ねるだけだった。これ以上やってもつまらないと思い、ベッドに寝転がった。自分の中に2人の人間がいて、それぞれが恋をしているのではないかと杉山は考えた。しかし、何を考えているのだろう?と冷静になり、杉山はまた自分の感情に悩み始めた。




