第2話 お使い
山の道に乗ったら、一気に涼しくなった。ライアンは手綱を隣の釘に掛け、車中に寝そべった。
この道いつも往復しているので、馬を放っておくでも、勝手に目的地に着く。
高い木は道の両側にそびえ立つ、横になっているライアンでもほとんどてっぺんが見えない。森の鳥と虫の音は高く響いて、姿を見せてくれない。枝と枝、葉と葉が重なり交わって作った天井、その隙間から光が差し込む。
ライアンは暫く空と木の葉を眺めぼうとして、そして目を閉じた。
ライアンが今暮らしているビダリバイン公国は山岳地帯であり、林業が発達している。そのせいが木材の加工技術が高く、森の中これに暮らしを立てる手工業職人が立ち上がった街も少なくない、コリンズの街もその類だ。ライアン自身も近所の工房にでお世話したことがあるので、簡単な木材の加工スキルも心得ている。
「アレ?」
ライアン急に体を直し、周りを嗅ぐ始めた。
「なんか、変な臭いが……」
その不自然な臭いの正体を掴もうとしてる時
突然、風が吹き始めて、それも目が開けられない程の強風だ。
暫くすると、風が収めて。なぜかその臭いはもうきれいさっぱりに消えて無くなった。
少し腑に落ちないが、消えたものは仕方がない、もうすぐ山頂に着くなので、ライアンはのんびりすることを諦めて、手綱を取り先に急ぐことをした。
その同時に、ライアンが見えない山道の両側の森の中に無数の火の光を纏いし巨大な姿をしているモノ達がコリンズの方向に進んでいた。
彼等通った跡は黒焦げの道になっていた。
遠く丘の上に、黒いマントを被り、ライアンの方向に眺めている姿がいた。
だんだん遠くなっている荷車を見て、彼は静かに森の中に姿を消した。
山の上を越えた後もう少し進むとディシュアルの街が見えて来る。コリンズみたいな山に囲まられた街と違って、ディシュアルは北の港町マクヴィーに道が繋ぎそこそこ活気のある街だ。
幾つの挨拶と世間話の押し売りをくぐり抜けて、ライアンはようやく目的地にたどり着いた。
“エドニー商会”
と書いてあるちょっと古い木製の看板が目の前の建物の上に掛けている。
ライアンが荷車から飛び降りた途端、建物の中に人が出てきた。馬の鳴き声が聞こえて様子を見に来ただろう。
お腹が少し膨らんでいる男だ。短い八の字の髭、一応整理したがぼうぼうとしている髪、そして、笑わずとも人の好意を寄せる顔を持ち合わせている。
うんうん、商人というのはやはりこういう顔をしているものだ。
自分の父親の顔を思いながら、ライアンはふとを思った。
「おぉー、ライアンではないか」
「リウィさん」
ライアンは荷車から降り、
「ひさし…いいえ、十日ぶりですか」と、
軽く挨拶した。両家は商売の繋がりでよく顔を合わせるので、そそうのないように彼は言葉に気を遣っている。
そして、ライアンが口が動く度に上下に揺れ動いているリウィさんの鼻の下の髭に視線を釣られた。
「どうした、いきなり」
リウィはライアンの背中の荷車を見て、
「まさか、貨物の受け取り?」
「ええ、その通りですか」
「オハラさんは?」
「おやっ…父なら来ていませんが」
「じゃあなた一人で?」
「そうですが…」
「……」
「……」
ライアンは何かなんだか全く分からないが、とにかく笑顔だ。
暫く、リウィはライアンの顔をじっと見て、
最後、「頑張れ」と、
リウィはライアンの肩を叩いた。
よく分からないが、励まれた。
しかし、ライアンその言葉の意味を理解するにはそう長く時間をかからなかった。
「クソ親父、よくも僕を嵌めたな!」
ライアンの声は貯蔵庫の中に響く。
とにかく、貨物が多い、おそらく通常の2倍、荷車にギリギリ入れるレベルだ。その上、種類も多い。
リウィさんは倉庫の管理に手を抜けない、全ての品はその種類、産地によってきちんと整理している。これが仇となった、ライアンは貨物を取り出す時これのせいで多いに労力と時間費やした。リウィさんと彼の部下達の手助けがなければもっと時間をかかるかも知れない。
「しかし、」
ライアンは軽く手元のカラス製品が入ってる箱を荷車に載せた、
「よくもまぁ、これだけの品を揃ったものだ」
ライアンは手を止まらず、てきばきと部下を指揮ているリウィさんを覗いた。
「流石って言うか…」
ライアンの父が経営しているのは確かに小さい店だ、そしてコリンズは小さい街だが、それでもニ百戸以上の人が住んている。街の唯一の万事屋として、ライアンの父はそれなりの数の品物を定期に入荷しなければならない。これらの殆どはリウィに通して仕入れている。
只者ではないのは前から知っている。
彼はビタリバイン公国のハルム商会はもちろん、マクラレン公国のフィンリー商会、ファーニバル帝国のリントン商会、ほぼこの大陸を代表する全ての商会に繋がりがある。
以前リウィさんに直接聞いたことがある。
「なぜわざわざこんな辺鄙な所に来たんですか?」と、
その時リウィさんは笑いながらこう言った
「ライアンよ、こういうあなたみたいな若者を質問をさせるの事は、だいたい大人の事情ていうやつさ」
その時ライアンは思った、多分リウィさんの商売の腕の良さが仇となったかもしれない。多くの商会との繋がりが逆に彼を不利な境遇を与えただろう。
「よし、これで最後、と」
ライアンは最後の貨物を荷車に載せて、長い気を吐いた。
「お疲れ」
ひとつ冷たい井戸水に浸した手ぬぐいがライアンの前に渡された。
「ありがとう」
ライアンは彼女から手ぬぐいを受け取って、顔を拭き始めた。
顔を拭きながら、ライアンは彼女の顔を覗いた。
薄い褐色の肌、やし色の髪、そしてよくある村娘の顔をしてにもかかわらず、今でも語ろうとしている瞳はライアンの顔を眺めている。
目が合った瞬間、ライアンは気まずく手ぬぐいで顔を隠した。
彼女の名はレズリー、リウィさんの娘だ。両家は行き来が多いためお互いもよく知っている。
ライアンから見ると、レズリーは仲のいい隣町娘だ
のはずだった。
しかし、最近レズリーは自分に対する態度が変わったような気がした。
時にはうんざりくらい熱情的で、時に意味がわからなく怒てる、しかも怒った最後、話が全然聞いてくれない。
正直、『彼女には会わないように』と、先から心の中で念じていたが、会ったら仕方が無い。
「えっと…」なにか話しを探ている時
「よっ、ライアン」
一人男が挨拶しながら、歩いて来た、
「こんな所で会うなんで、奇遇だな」
男は腰に長剣をぶら下がり、腕と胸の上に褪めた色をしている甲冑を被っている。特に胸の辺りにマクラレン公国の紋章が刻んである。
「クレイグ、ちょうどいい所…じゃなくて、本当に奇遇だね」
ライアンはレズリーだんだん悪くなった顔色を気付き、急いて口を直した。
クレイグはディシュアルの街の衛隊の隊長を務めている。
と言ってもこの街は中央から遠く離れた上、こんな田舎の所にあるから、とにかく平和だ。
だから街の衛隊はただの数十人、普段の仕事は街の見回りとたまに来る商隊の検査くらいのものだ。
ライアンはクレイグのばさばさな髪の毛、頬と顎の上の無精髭を見て、
『こいつ昨日の夜飲んだね 』とすぐ気付いた。
「一人でお使い?」
「あっ、親父に言われてな」
話しを聞いたクレイグは腕をライアンの肩に乗せて
「ライアン、ちょっとこっち来い」
言いながらライアンを引っ張って、荷車の横、レズリー達と離れた所に来た。
「引っ張るな、要件を言え」
クレイグは珍しく真面目の顔をしている
「前から思っているが、」
「何?」
「ライアンの父て、元傭兵でしょう?」
「あぁ、でもそれはもう昔の話だ。今はただの雑貨屋を経営している愛想の悪いじじだ」
「なぜ元傭兵が雑貨屋なんかやってるの、おかしくないか?」
「…で、なにが言いたい?」
クレイグは両手で強くライアンの肩を叩いた。
「あなた、衛隊に入らない?」
「え?あ?何?」
「だから、あなた、ディシュアルの街の衛隊に入隊しないかと聞いているのだ」
「なぜ、そうなるんだ」ライアンは肩の上のクレイグの手を振り落とした。
「どうせあなたはもう父から剣や武器の使い方を習ったでしょう?だったら…」
「いいえ、私は……」
とんだ誤解だ、何せライアンは武器の使い方ところが、父の傭兵の頃の話もほとんど彼から聞いたことは無い。
クレイグはライアンの話を聞かずまだ強くライアンの肩を握って揺らした、
「私はあなたを高く買っている。あなたはそんな寂れた街で雑貨屋なんかやってる柄じゃない、お前ならもっと大きいなにか……」
クレイグの口の中から酒の臭いがぷんぷん伝わって来て、ライアンはとうとう愛想が尽きた。
クレイグの手を力いっぱいで振り落として、頭も振り向かず、
「悪い、興味がないので」
と言いながら早足で去った。
短編を書くつもりなので、こちら暫く休業です。どれたけの人が読んでいるのかは知りませんが、一応連絡しておきます。あと、もし可能ならば小説を読んだ後、貴方のご意見、レビューを書いてください。何卒よろしくお願いいたします。