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夏の暑い日
「なんかさー、面白いことないかなー」
水戸部 有栖は腕を伸ばしながら言った。
半袖から覗く二の腕は真夏には似つかわしくないロシア人のような色をしていた。
「分かんないけどとりあえず明日から合宿だよ」
広川 真美は興味無さそうに話を変える。水戸部は合宿の話題を気に入らなかった。
「合宿なんてつまんないし。どうせ顧問が好き勝手するために学校から離れるだけよ」
「でもみんな一緒だし、そこそこ楽しめるって」
そう言って広川は水戸部を励ました。しかし、水戸部はどうも気に入らないようだ。
「合宿行くなら宿題やる方がマシよ」
「じゃあ顧問にそう言えばいいのに」
「冗談、あいつに話しかけるなんて無理無理。死んでもごめんだわ」
水戸部の顧問に対するアンチテーゼは酷いもので、ことある事に罵倒するのだった。
「なんでそんなに嫌いなのよ」
「野生の勘かな」
「いや、ちょっと意味わかんないから」
「私ってすごいんだよ、野生の勘。なんて言ったって」
セミがうるさくて水戸部の最後の部分が広川には聞こえなかったが、聞き返すのも面倒だったので気にしなかった。