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それは、偽りの姿。冒険者達の物語  作者: しなきしみ
ドラゴンクエスト編
21/198

20話 封印

 サヤが鬼灯の妹だと知り、どのように言葉を掛けて良いか、そもそも辛い記憶を呼び起こす可能性があるのに会話を続けてもいいものだろうかと、頭を悩ませていたヒビキに対して鬼灯は討伐隊員の事もサヤの事も忘れないで欲しいと口にした。

 討伐隊の仲間の姿が脳裏を過ったため、ヒビキは涙が溢れてきそうなんだけどと素直な気持ちを鬼灯に伝える。

 大切な思い出だから絶対に忘れないよとヒビキは、はっきりと言いきった。


 ヒナミの母親がパンケーキを手にして室内に足を踏み入れた事により、話を遮っても良いものか悩んだ末にヒナミがヒビキと鬼灯に声をかけて温かいうちにパンケーキを食べるように声をかける。

 ヒナミやヒナミの母親に気を遣わせてしまうことが無いようにと考えて、鬼灯とヒビキはパンケーキを手に取った。


 ヒナミの母親が焼いてくれた少し甘味のある一口サイズのパンケーキは口の中に含むと、とろっととろけて消える。

 甘味は口の中で、ほろ苦く変化をする。

 変化するパンケーキを気に入った様子の鬼灯とヒビキが、時折パンケーキをつまみながらヒナミとヒナミの母親の会話を聞いていた。

 穏やかな雰囲気と和やかなムードの漂う室内で、だらんとソファーに体を預けるヒビキが、うたた寝を始めようとしていた。

 

「ああ。最後のひとつか」

 うたた寝を始めようとしていたものの、鬼灯が呟いた言葉を耳にした途端、勢い良く目蓋を開いたヒビキが腰を上げる。


「よし」

 鬼灯の手からパンケーキを奪ったヒビキが小さくガッツポーズをする。

 しかし、パンケーキを奪われた鬼灯も黙ってはいない。


「何がよしだよ」

 文句を呟きながらヒビキの手からパンケーキを取り上げる。

 すると、すぐに反撃に出たヒビキが鬼灯の持つパンケーキに向かって手を伸ばす。

 そんなヒビキの行動は鬼灯が高くパンケーキを持った手を掲げた事により阻止されてしまう。


「年下に譲るべきだと思わないか?」

 鬼灯の行動に呆然とパンケーキを眺めていたヒビキが呟いた。


「ああ、それもそうだな」

 鬼灯はヒビキの言葉に素直に納得する。


「どうぞ」

 ヒビキと鬼灯のやり取りを眺めていたヒナミの前にパンケーキを差し出した。


「あ、ありがとう」

 そう来たかとヒビキは内心、密かに感心していた。

 ヒナミにパンケーキを渡されてしまったら諦めるしかない。

 目た目は8歳くらいの小さな女の子からパンケーキを取り上げる事は出来ないから渋々とヒビキがソファーの上に腰かける。

 パンケーキを差しだされて、ぽかーんと間の抜けた表情を浮かべていたヒナミが鬼灯に笑顔を見せると頭を下げた。

 そんなヒナミを横目に、だらんとソファーに体を預けたヒビキが目蓋を閉じる。


「切り替えが早いな」

 目蓋を閉じてすぐに整った寝息を立て始めたヒビキに向け、鬼灯が呆れた様子で呟いた。


 討伐隊の隊長を務めていた彼からは想像もつかないほどの警戒心のなさ。

 のんびりとした性格が偽りの無い本来のものなのか。

 眉を寄せる鬼灯にヒナミが声をかける。


「ヒビキお兄ちゃん宴会の会場でも熟睡してたから、朝まで起きないと思うよ」

 熟睡するヒビキに、鬼灯が信じられないものを見るような視線を向ける。

「宴会会場で熟睡するって、どんだけ警戒心が無いんだよ」

 ヒビキの性格は鬼灯が予想していたものとは違っていた。


 討伐隊の隊長を務めていた時のヒビキは決して自分から人に絡むような人物ではなかった。

 ユキヒラが一方的に絡もうとしていた事はあったけど、人と話すことに興味がないのか無反応だった。

 この時ヒビキはユキヒラに返事をする前に、ユキヒラがヒビキの前から立ち去ったため、返事をする事が出来なかっただけである。

 しかし、周囲にはヒビキがユキヒラに対して返事をする気がないように見えていた。

 鬼灯が大きな欠伸をする。




「ねぇ、お母さん」

「どうしたの、ヒナミちゃん」

「あのね、人って夜遅くまで起きてられないの?」

 夕食の後片付けをしていた母親にヒナミが問いかけた。

 ヒナミの質問に対して首を傾けた母親がヒビキと鬼灯の座るソファーに視線を向ける。

 ソファーでは右側の肘掛けに頭を乗せ眠る鬼灯と左側の肘掛けに、うつ伏せで寄りかかるヒビキが眠りについていた。

 昨夜は熟睡をしたヒビキとは違って鬼灯は夜眠る事なく森を抜けて魔界に移動した。

 そのため鬼灯は昨日と今日の2日間、眠ること無く動き回っていた事になる。


 「あらあら、二人とも寝ちゃったの? 人はよく眠る種族なのね」

 ヒビキはともかく、鬼灯が眠ってしまうのは仕方のない事だった。

 しかし、鬼灯が2日間とも眠らずに行動していたことを知らないヒナミの母親は勘違いをする。


「ヒナミちゃん。私たちも寝ましょうか」

「うん!」

 お皿を全てキッチンに運んだ母親がヒナミに声をかける。

 嬉しそうにソファーから腰を上げたヒナミが元気よく母親の元に向かう。

 リビングには、ふかふかの布団をかけてもらったヒビキと鬼灯が取り残された。




 ヒナミと母親が眠りについた頃。


 魔王城と人間界のお城ではゲートを繋ぐための準備が終わり、魔王とリンスールと国王の3人が魔法陣の上に佇んでいた。


 魔界では魔王とリンスールが。 

 人間界では国王が。


「始めるぞ」

 すぐ隣に佇むリンスールに魔王が声をかける。


「はい」

 リンスールが頷き、魔王にタイミングを合わせて魔力を注ぐ。すると、魔法陣が青白く輝きだした。

 魔法陣が青白く輝き始めたら国王も魔力を注いでほしい。


 魔王からの手紙に記されていた言葉通り、魔法陣から青白い光が放たれると国王も魔力を注ぎこむ。

 3人の体を包み込んだ白い光が自ら国王達の魔力の吸収を始める。


 魔法陣が徐々に姿を変える。

 大きさも元のものより3倍に広がりを見せた。

 目映い光を放ち始めた魔法陣は予想していた以上の魔力を必要とした。


「それでは、始めるぞ」

 少し息を切らしている魔王がリンスールに声をかける。


「はい」

 魔王の合図と共に大きく息を吐き出したリンスールが現在、扱うことの出きる魔力を放出する。

 魔王が使用可能レベル150のブラックホールを発動させる。

 続けて使用可能レベル100の闇のゲートを発動させて人間界と魔界を繋ぐゲートを結ぶ。


 バチバチバチと凄まじい静電気が起こるのと同時に目の前の空間に亀裂が入り、ぱっくりと割れる。

 空間の中は真っ暗な闇が広がっていた。


「通れるのですか?」

 魔力を使い果たして、ふらふらになりながらリンスールが問いかける。


「ああ。魔界から人間界に一瞬で行けるだろう。中は空間が歪みまくってるから体調を悪くする者もいると思うが」

 汗だくになりながらクスッと笑った魔王が大きく頷いた。

 魔王のスキルにより人間界と魔界を繋ぐゲートが完成した。

 これで、国王や魔王や騎士達がゲートを好きな時に好きなだけ通過する事が出来ると誰もが、そう考えていた。

 国王も目の前に出現したゲートを見て安心する。

 これで魔界に行き討伐隊の隊長を努めていた少年を探すことが出来ると思った。

 しかし、突然バチッと激しい衝撃が国王を襲い、衝撃により体を弾かれた国王の体が宙に浮く。

 身体中を炎で焼かれているような感覚が国王を襲う。

 王冠が弾かれて床に激しく打ち付けられる。

 室内で国王の警護をしていた騎馬隊が手に持っていた槍を投げ捨て、国王の元に走り出そうとする姿が、まるでスローモーションのように見えた。

 意識を失った国王の体を突然、淡い光が包み込む。


 真っ白い魔法陣が姿を現して、魔法陣から放たれた光の柱が国王の体を包み込むのは一瞬の出来事だった。

 弾き飛ばされ、宙に浮いたままの状態で光の柱に包まれた国王の時が止まってしまった。


 光の柱の元へと駆けつけた騎馬隊が時を止めた国王を助け出そうと試みる。

 しかし、光の柱は結界のようで騎馬隊が触れようとするとバチッと音を立てて強い衝撃を与える。

 騎馬隊からの連絡により駆けつけた調査隊も特攻隊も、誰もが国王に触れるどころか結界を破ることすら出来なかった。




 魔界でも人間界と同じような事が起こっていた。

 ゲートは繋ぐことに成功した。

 しかし、ゲートが完成したと素直に喜んでいたリンスールと魔王の体をバチッと激しい衝撃が襲う。

 二人とも衝撃に体を弾き飛ばされた。

 近くに待機していた暗黒騎士団が魔王とリンスールの元へ走り出す姿が、まるでスローモーションのように見えた。

 国王の時と同じように二人の真下にも白い魔法陣が現れる。

 そして宙に体を浮かしたまま光の柱に身を包まれた魔王とリンスールも時を止めてしまった。

 二人の元に駆けつけた暗黒騎士達が光に包まれた二人を助け出そうと試みる。

 しかし、こちらも結界の役割を果たす柱がパチッと弾き暗黒騎士団が触れるのを阻止する。






「号外、号外だよー!」

 ひゃっほいと何度も飛び跳ねながら小さなお猿さんが黒い紙をばらまいている。


「そこのお兄さん、お姉さん。昨夜魔界の王である魔王と、人間界の王である国王と、妖精界の王である妖精王が巨大な柱により封印されてしまったらしいよ!」

 小さなお猿さんは情報屋さん。


「気になるっしょ? もっと寄って寄って!」

 周りに集まった人達に手渡しで黒い紙を配っていく。

 3人の王が封印されてしまった情報は瞬く間に全世界に広がっていった。


 ウキキッと紙を撒き散らすお猿さんの横を通り過ぎようとしていたヒビキが目を見開き、お猿さんを見つめる。


「国王が封印?」

 動揺のあまり手に持っていた朝食のパンケーキを地面に落とす。

 ぽつりと独り言を呟いたヒビキが歩みを止めた。


「ん、どうした?」

 青ざめたヒビキに、すぐ隣を歩いていた鬼灯が声をかける。


「今、国王が封印されたって言った?」

 ヒビキは国王と面識がある。

 酷く動揺して体を震わせるヒビキが鬼灯に問いかける。


「ああ、確かに言ってたな」

 急に動揺し顔面蒼白となったヒビキが、その場にしゃがみこむから鬼灯が慌て出す。


「本当に大丈夫か?」

 街路の真ん中で、しゃがみこんでしまったヒビキに鬼灯が声をかけるけど返事は無かった。






 父上、行ってきます。

 あの日も、いつものように父親に挨拶をした。

 最後に国王と挨拶を交わした日の出来事を思い起こす。


 俺と同じクリーム色の髪の毛に薄い水色の瞳。

 俺を見下ろしてドラゴンの討伐に成功をしたら、すぐに報告をするようにと言った父親を銀騎士達が取り囲んでいる。

 頭には立派な王冠を身に付けており、白いモコモコつきの真っ赤なマントを纏っている父親は民から国王と呼ばれていた。

 いつも険しい表情を浮かべて息子を見る。

 そんな父親の姿しかしらない俺は正直、父親の事が苦手だった。

 気難しい父に自ら進んで話しかける事もなかったし世間話をする事もなかった。

 俺に対して興味が無いのか、食事も一緒にとる事が無かったから国王の身に何か良くない事が起こっても冷静でいられる自信はあった。

 国王が俺に対して無関心なように、俺も国王に対してなんの感情も持っていないと思っていたから。

 しかし、実際は国王が封印されたと聞き戸惑い冷静さを失ってしまう。


 ヒビキは国王が息子に対して無関心と思っているけど、とんでもない。

 ヒビキが率いる討伐隊が全滅したと聞いた時、どれほど国王が取り乱したか。

 騎士達の前では心配をかけさせまいと、いつも通りの態度で接していた国王は一人になると城を抜け出して情報を求めて何度も街をさまよった。

 実際にヒビキ達が攻撃を受けた東の森にも足を踏み入れた。

 東の森にある崖の下も自ら調べるために下りた。

 そんな国王を更に愕然とさせる情報が人間界に広がりだす。


 討伐隊の隊長が仲間を裏切った。

 副隊長を務めていた子が命からがらドラゴンとヒビキの元から逃げ帰ったのだという。

 瞬く間に広かった情報を国王を含め城の内部にいた者は誰一人として信じなかった。


 昨夜もヒビキを探すために魔王の力を借りて人間界と魔界を繋ぐゲートを完成させた国王は、以前ギフリードから情報を得た暗黒騎士団に入った少年に会うつもりでいた。

 人間界から魔界へ、すぐに行き来する事が出来るようになれば騎士団も国王が数時間だけ不在になる事を許してくれると思っていた。

 弾き飛ばされ宙に浮かんだまま時を止める国王を銀騎士達が愕然と眺めている。

 助け出そうにも強い結界が張られているため触れる事すら叶わなかった。

 

 国王が封印されてしまった事を知ったヒビキは鬼灯と共に魔界のギルドに足を踏み入れた。

 身内が封印されてしまい取り乱しはしたものの、すぐに我に返ったヒビキが動き出す。


 いきなり取り乱したかと思えば急に立ち上がり走り出したヒビキに戸惑いながら後を追った鬼灯は、乱れた呼吸を繰り返していた。

 ヒビキが真面目に走ったら早すぎる。

 ついて行くのがやっとだった。

 肩で呼吸を繰り返す鬼灯と違って、ヒビキは呼吸を乱す事なくカウンターに立つ女性を一人一人眺めていく。


 左から順番に。

 ある一人の女性で視線を止めたヒビキが足早に目的の場所に向け歩き出した。


「お姉さん、少しお話いいですか?」

 受け付けに立つ若い女性の腕をつかみ、おっとりとした口調で声をかける。

 歩き出したヒビキの後に続いてカウンターに移動をした鬼灯が、あんぐりと口を開けてヒビキを二度見した。


 誰、こいつ。


 鬼灯が、そう思うのも仕方がない。

 一度でもヒビキの本性を見ていたら咄嗟に頭の中が切り替わらないだろう。

 しかし、よくよく思い返してみればドワーフの塔で出会った当初はヒビキが今のような、おっとりとした口調で話していた事を思い出す。


「いいわよ。行きましょうか」

 朝早く人が少ない時間帯だったため、手の空いていた受付嬢がヒビキの誘いに乗った。

 クスリと笑う受付嬢は白いケープを身に付けているヒビキを小さな子供だと思っていた。

 狐の耳がついたフードをかぶり、自分の事をお姉さんと呼んだ子供の誘いを断るわけにはいかないと考える受付嬢には幼い妹がいる。

 二階にある個室に移動をした受付嬢がヒビキと鬼灯に、向かい側にあるソファーに腰かけるようにすすめる。 


「話って何かしら?」

 完全にヒビキを子供扱いしている受付嬢が、笑顔で問いかけた。


「あのね」

 ヒビキが被っていたフードを取り外した。

 お人形さんのような印象を人に与える少年は、真っ白い肌に華奢な体つきの儚げな風貌(ふうぼう)をしている。

 クリーム色の柔らかそうな髪の毛に薄い水色の瞳。

 眉尻を下げて困った様子の少年に受付嬢は頬を真っ赤に染めた。

 目の前にいるのは人の子なのに、ドキドキと胸が高鳴りだす。

 恋をしたとか抱きつきたいとか、そんな雰囲気の少年ではない。

 言うならば持ち帰って透明なケースに入れて保管しておきたいような、そんな気持ちにさせる少年を目の前にして女性が一人で舞い上がっている。

 肝はきっと美味だろう。

 味見をさせてくれるだろうか。


「飛行術を売って欲しいんです。何でもするから、お願いします」

 普通だったら絶対にやらない頼みかたをするヒビキが深々と女性に頭を下げる。


「お金が足りないんだけど、でも足りない分は何でもします。頭から食わせろ等の命を奪うような指示は聞き入れることは出来ませんが、命に関わること以外でしたら何でも受け入れるので飛行術を売ってください」

 眉尻を下げて困ったように女性を見つめるヒビキは、目の前に腰を下ろしている受付嬢が舌舐りをした事を見逃さなかった。

 何でもしますと口にして早々、受付嬢の種族は魔族であるため頭から食わせろと言う指示を出される可能性を視野に入れる。

 命に関わる願いは聞き入れられないと慌てて言葉を付け加えた。


「な、なんでも!?」

 受付の女性がヒビキの言葉を鵜呑みにして声を上げる。

 受付嬢は何を想像したのか、ごくっと息を飲み込んだ。

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