第22話_獣王対ギルマスです
「・・・中々いいのではないでしょうか」
「はぁ、はぁ、そうかしら?」
「ギルマスも初日でここまではいきませんでしたよ」
「あら、そうなの。あいつより上なら嬉しいわね」
休息日も夕方に近づいた頃、獣王はシュウの教えたことをしっかりと身につけていた。
獣人としての身体能力のおかげか既に刺突を飛ばす事が出来るまでになっていた。
魔力が存在するこの世界で活用法が知られていないだけなので多少教えればこのくらいは多くの人が到達できそうだ、と思うシュウ。
事実ギルマスにしても獣王にしてももともとかなりの強さを持っていたが魔力に関しては肉体の強さはあまり関係ない。
なのでどんな人でも素晴らしい魔法使いになるか、魔力を用いた戦闘力の向上が見込めるのだ。
「それにしても魔力、ねぇ。話だけは聞いていたけど自分で使ってみると不思議な感覚ね」
「獣王様の使い方だともともとの身体能力が高いのに更に上乗せした形ですからね。それも副作用無しで」
「・・・考えようによっては怖い力よね」
「それはどんな力でも同じです。要は使い方ですよ」
「・・・そうね」
シュウの言葉に神妙そうに頷く獣王。
わりとワガママを通そうとしているが為政者としての責任感も持ち合わせているのである。
「よし、今日はありがと。おかげで自分の強さを上げることが出来たわ」
「それは何よりです」
「お礼に晩ごはんも食べてってね」
「それではお言葉に甘えさせていただきます」
晩ごはんも王宮で食べることが確定し、この日は3食王宮での食事となった。
しかし、それに不満はなく、むしろとても美味しかったので得した気分である。
ホクホクとした顔で夕飯を食べる一行だが、まさか今ここでニコニコ笑っている獣王が翌日とんでもないことを仕出かすとは思いもしないのであった。
◇◆◇
「で、何でシュウやフィアさんもここにいるのでしょうか?」
「こっちが聞きたいよ。いつも通り控室に行こうとしたらこっちだって言われたんだし」
ティアナの質問にシュウが答えに詰まる。
いつもは控室に直行するシュウとフィアだがこの日は観客席に行くように言われたのだ。
そのためティアナ達の所に来たのだが、ティアナが不思議そうな表情で迎えてくれた。
しかしシュウも何故自分がここにいくように指示されたのか不明であるため困ることしか出来ない。
というかこれは武術大会であり、自分たちは出場者、つまり自分たちが舞台に行かないと誰が戦い、観客は何を見るのか全く不明な状態となってしまうのだ。
不思議に思っていると司会者の声が会場中に響いた。
【えー、会場中の皆様にお知らせいたします。本日の試合ですが、最初の試合の前に特別試合を行いたいと思います】
特別試合、という得体のしれないものに会場中が首を傾げた。
今までの大会の歴史でこのようなことは一度もなかったらしい。
シュウも首を傾げながら実況席を見ると、そこには司会者だけしかいなかった。
今までであれば司会者の隣にはギルマスが陣取っており、進行の手助けをしていたはずである。
それが何故か今はいない。
と、すぐにギルマスの姿を見つけることが出来た。・・・というか舞台上に入場してきたのだ。
これにはさすがにシュウも驚き、何が起こっているのかと目を凝らす。
するとすぐに反対側から入場してくる人物がいた。
シュウはその人物を知っている。というか昨日一日中一緒にいたのだ。
つまり獣王である。
彼は完全武装で昨日持っていたのと同じ槍を持って舞台へと上がってきたのだ。
舞台上には大剣を構えるギルマスと槍を構える獣王。
何が起こるのか分かってしまい、シュウは仲間たちの方を見る。
しかし彼女らも同じ気持であったらしく、困ったようにシュウを見返してくるのみである。
会場中も同じようで、ザワザワとした空気が漂っている。
【お気づきの方も多いかと思いますが、特別試合で戦うのはこの大会で解説役をしてくださっているギルバートさんと、この国の獣王様です。なんでも獣王様が新しい技を覚えたということでこの試合を希望され実現されました】
シュウは司会者の発言で頭痛がしてくる。
要するにこの試合のキッカケを作ったのは自分たちということである。
【さて、それでは早速試合を開始したいと思います。・・・試合開始ッ】
司会者の合図で試合が開始される。
しかし2人は開始位置のまま動かず睨み合っていた。
【あ、あれ?試合始まってますよー?】
司会者も困惑している。
このくらいのにらみ合いなら他の選手もするのだが、どうやらこの2人が以前戦った時は即効ぶつかり合っていたらしい。
それがお互い距離を取って睨み合っているものだから不思議に思われてもしょうが無いだろう。
しかも2人とも何処かニヤついているのだから観客には余計に不思議に映るらしい。
観客には不思議に写ってもシュウから見るとお互いに何を狙っているのか手に取るように分かる。
ギルマスは既に獣王に自慢したらしい斬撃を飛ばす技を、獣王はギルマスに内緒で特訓した刺突を飛ばす技を、要するにお互いに狙いは同じなのである。
そこまで考えたところで試合に動きがあった。
お互いに武器を構えたのだ。
それだけのことなのに会場中に緊張感が走る。
ざわついていたのが途端に静まった。
司会者までも実況を忘れ息を呑んでいる音が聞こえた。
とそこで一気に試合が動く。
ギルマスは大上段からの振り下ろし、獣王は中腰から槍を突き出した。
しかし本来であればお互い武器の届かない距離である。
バキィ
観客が何故その距離から武器を振ったのか観衆が不思議に思った瞬間、甲高い音が会場中に響き渡った。
そしてそのままお互いに武器を下ろし満足気な表情を浮かべながらそれぞれが入場してきた入り口に向かって歩き出した。
観客には何が起こったのか、そして何故2人は満足気に退場しているのか全く不明であった。
だがその理由はシュウたちには分かっていた。
「主殿、あれは・・・」
「そうだね。あれはカエデの技の剣と槍バージョンだね」
「やはりのう。ギルマスはともかく獣王の方は昨日初めてやってみせたのに随分な成果じゃのう」
「さすがは獣王、ってことかな」
今のはギルマスが剣で、獣王が槍で攻撃を飛ばしたものがぶつかり合い弾きあった時の音である。
お互い今のやり取りで満足したらしい。
もし、満足しなかった場合このまま接近戦にもつれ込んでいただろうが、今のやり取りを見るに実力は伯仲しており、そんなことになったら本来今日予定していた試合に影響が出るレベルでやりあっていた可能性がある。
それが分かったのはシュウたちのみであり、他の観客は何がなんだか分かっておらず、それは司会者も同様だったようだ。
【え?えーと、もうよろしいのでしょうか・・・?えー、ではご満足いただけたようなのでここから普通に大会を進めたいと思います。選手の皆様は控室の方へ移動をお願いします】
思ったよりも早く試合が終わったせいか司会者も困惑気味だが自分の職務は忘れなかったらしい。
司会者の言葉に従い移動を開始する。
「それじゃ行ってくるよ」
「今日も頑張ってくるっす!」
「はい、頑張ってください」
「しっかりやるのじゃぞ」
「いってらっしゃぁい」
仲間たちに見送られシュウとフィアは控室へと向かったのであった。
やっぱりオネエキャラが出ると制御できません。
いつの間にかギルマスと戦うことが自分の中で決定していました。
しかしこの章のどこで戦っても他の試合が霞んでしまうためこのような形で獣王には満足してもらいました。




