第20話_恩人との戦いです
フィアの完勝で終わった2回戦第1試合のあと、カイの出場する第2試合、そして第3試合が行われたのだが特に何事も無く試合が終了した。
勿論それぞれにドラマはあったし内容も見応え充分なのであるがそれ以前のフィアの試合、そしてこれから行われるシュウの試合への期待度が高すぎるためどうしてもやや霞む印象を受けてしまう。
ちなみにカイは無事に勝ち進み準決勝ではフィアと当たることが決定している。
さて2回戦最終試合、つまりシュウとアランの試合が行われる番となった。
2人は既に舞台上におり、後は試合の開始を待つだけ、という状況となっており会場の興奮も最早自重という言葉を忘れてしまったような空気をまとっている。
そんな中、シュウは観客席を見渡していた。
彼の脳裏には昨日であったインパクト十分、というかインパクトしか感じなかった獣王の姿がこびりついており、そういえばどこから見ているのだろう、という単純な疑問を無視できなかったのである。
昨日と同じであれば大勢の騎士たちを従えており普通に観客席のどこかにいれば目立つはずなのだがどうにもその姿を見つけられない。
と、ふと実況席の方を見ると、丁度その真上の部分に何やら壁がせり出したようなブロックがあることに気づいた。
目を凝らすとそのブロックの中に数名の人がおり、そのうちの1人が獣王であった。
どうやらあそこが貴賓席であり、彼(彼女?)はそこから試合を見ていたらしい。
昨日まではただの壁、もしくは実況席のための柱か何かだと思っていたので気づかなかったのである。
そうしていると獣王と目が合い、バチコーンと効果音がなりそうなウインクを貰った。
反応に困ったのでとりあえず頭をペコリと下げておいた。
これで不敬などには問われないだろう、と思いつつ顔を上げるとやや不機嫌そうな獣王の顔が見えた。
何か対応を間違えたか、と思ったがそこで実況席から声が掛かる。
【さて、両者準備がよろしいようなので・・・2回戦最終試合・・・開始ッ!!】
2回戦最終試合ということで気合の入りまくった合図と同時にシュウが仕掛ける。
獣王のことは一瞬で頭の片隅に追いやっての攻撃である。
と、アランは防御の姿勢をとった。
上段から振り下ろされるシュウの攻撃に対して剣を横にしている。
普通であれば受け止めるか、失敗して押し切られるかしかないように見える両者であるが、シュウはそうでないことを理解していた。
何故ならアランの戦法は後の先を取ることにあり、現に今も剣を真横にではなくやや斜めに構えている。
以前シュウも何度かやったことがあるように、相手の剣を受け流しそのまま攻撃に転ずるつもりなのだろう。
確かに当たったと思った攻撃が受け流されると体勢を崩してしまい、さすがのシュウでも危ない状況となってしまう。
だがそこまで理解しているシュウがなにもしないはずもなく、一瞬で刀の軌道を変えやや斜めに構えられた剣に対して垂直にぶつかるように微調整を加える。
自分の剣に対して斜め方向から攻撃が来ると思っていたアランは全く受け流せない垂直からの攻撃を受けてしまい後退した。
「・・・全く、今のに対応されたんじゃあお手上げじゃないか」
「とか言いながらいかにも攻撃によって、という感じで俺からわざと距離を取りましたね」
「・・・はぁ、どうして分かっちゃうかなぁ」
シュウの指摘通りアランは攻撃により下がらされたのではなく、自ら後退していたのである。
これによりシュウが予定していた返しの剣が不発に終わってしまっている。
攻撃が受け流せないのならば続く剣を打たせなければいい、というフィアとは全く逆の発想によるこの戦法はやややり辛さを感じさせる。
力技でゴリ押してもいいのだがそれでは全く経験にならない。
そのため先程のフィア動揺フェイントを入れてみることにする。
再び攻撃するために刀を振り上げながら前進するシュウ。
それに対して同じように身構えるアラン。
シュウの刀が再び軌道を変えアランの剣に垂直に当たる寸前で動きを止める。
シュウの予想ではこの時にアランが動きを止める、もしくは鈍ると思っていたのだがシュウが動きを止めた瞬間アランがシュウとの距離を詰めてきた。
そのまま剣を突き出してきたのでシュウは慌てて後退する。
先ほどのアランとは違って自らの後退であることを隠す必要もないためかなり距離を離す。
剣を付きだしたアランは再び剣を手元に引き寄せ油断なく構えている。
「なるほど、厄介ですね」
「分かるかい?」
「何もしなければ受け流して攻撃、剣を合わせられれば自ら後退して2撃目を防ぐ。そしてこちらが何かするために動きを変える一瞬の隙に自ら前進し攻撃。これじゃあ攻めるに攻め切れないですよ」
「別に隠すつもりもないんだけど、初見でアッサリ対応されるとやっぱり落ち込むね」
「全然そんなことないくせに。はぁ、どう攻めようかな」
「降参してくれてもいいんだよ?」
「それは・・・ないですッ!」
会話を切り上げ一気に距離を詰めるシュウ。
対するアランは落ち着いて剣を構えている。
この戦法に慣れ、使いこなしているアランを崩すことは容易ではないが、シュウには突破口が見えていた。
アランの剣に対して再び垂直に刀を振り下ろす。
今度は止まることをせずにそのまま振りぬく。
当然アランはその力に逆らうことをせずそのまま後方へと下がる。
通常攻撃する際は踏み込んでから行うのでそこから後ろに下がられると再度踏み込むまでに時間がかかる。
その隙に攻撃されるのを嫌うと追撃を諦めざるをえないのだが、シュウは追撃をかける。
とは言っても再び体制を立て直し踏み込むという手順は踏まず、踏み込みで出た足を軸にそのまま一気に加速する。
通常であれば逆足での踏み込みを行うとバランスを崩すか力の載り切らない攻撃にしかならないため、アランはそれに対する術も持っている。
だが、シュウのそれは通常では考えられないような鋭さを持っており、後退したばかりで体勢がまだ整っていないアランは何の細工も出来ず剣を構えた。
結果まともにシュウの攻撃を受けてしまいそのまま場外まで吹き飛ばされる。
舞台外に投げ出されたアランは何とか受け身を取るとスクッと立ち上がった。
【じ、場外!アラン選手が場外に落ちたためシュウ選手の勝利です!!】
司会者がシュウの勝利を告げる。
場外に落ちたアランは舞台上に戻ってくるとシュウに握手を求めてきた。
それに応じるとアランは笑顔でシュウを讃えてきた。
「まさか2回踏み込んでくるとはね。しかもあの鋭さじゃあ何も出来ないよ」
「本当であれば最初の攻撃で吹き飛ばした相手に追撃を加えるはずなんですけどね。アランさんにはただの連撃にしかなりませんでした」
「・・・あれをまともに2回食らったんじゃあたたじゃ済まないよね」
「アランさんに勝つにはあれ以外だと本当に全力を出さないといけなかったので」
「・・・うん。あれで良かったよ」
シュウの全力となると魔法を撃ち込まれる可能性がある。
そうなると自分は一秒も持たないことが分かっているアランは目を逸らしながら答えた。
ちなみに単純な強さでいえばシュウが初戦で戦った双剣の男のほうがアランよりも強いだろう。
しかし相性の問題で、単純な剣技だけだとまだまだ未熟なシュウはただ手数が多い(とシュウが思っている)双剣よりは防御に徹される方がやり辛いのである。
仮に双剣の男とアランが戦った場合、初撃が何らかの方法で防がれてももう一方の剣がすぐに襲いかかるためアランが負ける可能性が非常に高い。
いずれにせよ無事に勝ち進めたのでいいのだが。
◇◆◇
【さて、これで2回戦の全ての試合が終わりました。ギルバートさん、残った選手の方々は明日の休息日を過ぎれば準決勝となるわけですが今後の見どころ等ありましたら教えて下さい】
【ふむ。全員分かっていることだとは思うがあの小僧と嬢ちゃんは強い。だが決して突き崩せんことはない。最終的に小僧が勝ったがあのアランとか言う若造には少し苦戦しておった。全てはやり方、ということじゃの】
【ということは残った選手でも自分の得意な戦いに持ち込めば勝算はある、と?】
【そうじゃ。いかに相手を自分の戦いに引き込むか、それが出来ればあるいは勝てるかもしれんのう】
実況席の方で割りと勝手なことを言っているギルマスである。
というか会場中の雰囲気もそうだが自分たちの勝ちを前提に話すのはやめて欲しい、と思うシュウ。
他の参加者に対してあまりに申し訳なく感じてしまうのだ。
だがその前提は会場中の観客、そして勝ち残った選手たちも同様である。
しかしそれによってシュウたちに対して悪感情を抱いているものはいない。
何故ならば強いものに惹かれるのがこの国の風習であるし獣人の特性でもあるのだ。
一切の卑劣な行為をせず、単純な力のみで勝ち上がるシュウたちを蔑むという発想すら無いようである。
これはこの国以外から参加や観戦に来た者達にも浸透しておりシュウたちは最早若干の英雄視すらされているのだが本人たちは知る由もない。
そしてそんな強いシュウを翌日呼びつけている獣王はその翌日が来るのが楽しみすぎて中々寝付くことが出来ず、やや寝不足気味で朝を迎えるのだがそれはまた別のお話である。
投稿するときに気づいたのですが、このタイトルだとすごいドラマチックな展開に感じますね。
昔助けてもらった人が今は敵で・・・的な。
そんなドラマもなくあっさり終わるのが当作品クオリティです。




