第16話_1回戦最終試合です
本戦初日から一夜明け、2日目となった。
この日はアランとシュウの出番があり、2人は早速控室へと移動していた。
その控室の様子であるが、確実にシュウが注目を集めていた。
視線を一手に受けているシュウであるが全く気にした様子がない。
むしろ一緒に行動しているため視線も同時に受けることになったアランのほうが小さくなってしまっている。
「あの、シュウくん?何で動じないの?」
「え?だって気にする必要なんてないじゃないですか。自分のやることを精一杯やるだけですし」
「精一杯やる」のあたりで控室には衝撃が走った。
特にシュウと今日戦う相手などは地面を見つめて固まってしまっている。
ここにいる全員がシュウの強さを認識しており、もし自分と当たった時に言葉通り精一杯やられては堪ったものではない。
そのシュウと今日戦うことになっている相手、フィアが予選で戦いを避けたうちの1人である双剣の戦士であった。
彼は自分の強さに自信があった。
それが予選の最中にフィアという予想外の強敵と相まみえてしまい、何とかその予選を勝ち上がって安心していたのだが、今度は予選最終ブロックでとんでもない強さを持つ選手が現れたのだ。
しかもその選手は本戦で自分の最初の試合相手となり彼は自分の運の無さを呪った。
これが仮にフィアであったとすれば予選という同じ舞台の上で彼女の戦いを観察できていたのでまだ対抗策は考えつく。
だが相手は違う予選ブロック出身である上に観客席から見ていても動きの見えない部分が多かった。
これが一対一で向かい合った場合に対処できるようになるかと言えば確実に無理であり、自分の敗退は決まってしまったようなものだ。
彼はこの試合を次の大会に活かせるよう経験を積むことに終止することにしていた。
そんな対戦相手の心情など知る由もなくシュウの態度は全くいつも通りなのであった。
◇◆◇
本日分の試合は計4試合あり、そのうちの2試合が何事も無く終了した。
この2試合に出場する選手たちは最低2回勝ち上がるまではシュウと当たらない位置なので、うまくすればそれなりの賞金を得ることが出来る、と気合が充分に入っていたため見応えのある内容となった。
そしてアランの出番となる。
アランの相手はごく普通の剣士タイプであり、バランスの取れた強さを誇っている。
彼は1回勝ち上がるとシュウと当たるため、少しでも多くの賞金を得るためこの試合を絶対に勝ち上がろうと必死になっていた。
そのため勝負を焦ってアランに試合開始早々攻撃を仕掛け、アランのカウンターの餌食となってしまった。
アランの予選での戦いをしっかりと覚えていればそのような結果にはならなかったのかも知れないが、シュウを意識しすぎたことでその辺の注意力が落ちていたらしい。
ある意味シュウのおかげで楽に勝利をつかめたアランであるが、次の相手がほぼ確実にそのシュウであるため喜んでばかりもいられない複雑な心境なのであった。
ここまでの試合でも観客は充分な興奮を見せていた。
しかし本戦1回戦最終試合、つまりシュウが出る試合前である現在はより強い興奮が会場中を満たしていた。
予選では乱戦であったため回りの邪魔がない状況でシュウがどのような戦いを繰り広げるのか観客たちは興味津々である。
【さぁ、1回戦も残る所最後の試合となりました。そしてこの試合では予選から大注目されているシュウ選手が登場します!】
司会者の言葉により会場の興奮は最高潮に達する。
それに合わせてシュウと対戦相手は舞台に姿を現す。
観客たちは完全にシュウにのみ意識を割いており、双剣の選手を見ている観客の数は多くない。
それが完全に双剣の男に火をつけた。
どうして自分がこのような引き立て役のような存在になってしまっているのか、もともとプライドが高い方である彼にとっては無視できるものではない。
これは是が非でも勝ちたくなってきた。
【ふむ。ようやくあの小僧の登場か】
【おや、予選の様子をご覧になっていたのですか?】
【いや、あやつのことはあやつらがハイエルにいた頃から知っておる、というか昨日言ったワシと模擬戦をしたのはあの小僧じゃよ】
【なんと!そ、それで結果はどうだったのですか!?昨日ははぐらかされてしまいましたし教えて下さいよ】
【まぁこの大会とはルールが違うから参考になるかは分からんが、あの小僧はワシに勝ちおったよ】
それを聞いた観客たちはもう興奮が最高潮に達していたと思っていたのにさらにそれを突破した。
そして対戦相手の双剣の男は燃え上がっていた炎が再び消えてしまっていた。
ギルマスは人族において最強と評されており、それは獣人である自分たちにとっても無視できる評価ではなく、むしろ尊敬しているといっても良い。
そんな相手が勝てなかった相手が目の前に立っているとなると最早自分のプライドなどどうでも良くなってしまったのである。
【それは・・・本当なのでしょうか?】
【ワシはこんな嘘は付かん。それより試合を初めなくて良いのかの?客が待っておるようじゃが】
人族最強と評される人物に買った人物が戦うとなれば是が非でも観戦したいという観客達は試合の開始を今か今かと待ちわびていた。
【はっ!そ、それでは試合開始です!!】
慌てたように司会者が試合開始を宣言した。
あまりに突然の開始にさすがのシュウも一瞬反応が遅れてしまった。
その隙を逃さず双剣の男が一気に間合いを詰めてきた。
勝つことは諦めているが一泡吹かせることだけは諦めていないのである。
「っと・・・」
振るわれた双剣を片方は避け、片方は自分の刀で受け止める。
シュウはいとも簡単にやってのけたがかなりの鋭さを持った攻撃であった。
渾身の初撃をいとも簡単に防がれた相手は悔しそうな表情をしながらも距離をとった。
そのまま油断なくシュウの方を観察している。
(やっぱり本戦に出場するくらいだからかなり強いなぁ・・・。さて、どうやって攻めようかな)
別に攻めあぐねているわけではない。
全力で攻めると一瞬で相手の武器を破壊してしまい、それ以上の戦闘が不可能になってしまう。
そして手加減して攻めれば戦闘は継続できるが、このレベルの相手だと自分が手加減しているのを知られてしまう。
それは相手に悪いのである程度全力で、それでいて経験を積むために戦闘を継続できるレベルでの攻撃の仕方で悩んでいるのだ。
そんな考えをしている時点で相手に対して敬意もあったものではないが、そこまで気は回っていない。
シュウが攻めてこないのを訝しんでいた相手だが、シュウが来ないならば、と再び攻めてきた。
今度は一本一本をバラバラにではなく、シュウの方に刃を向けながら交差させ、それを開くように振るってくる。
生身の部分に当たれば刃引きされた剣でも大ダメージを負うこと必至だろうし躱そうとしても突進しながら両手の剣を開いてくるので攻撃範囲がとても広い。
無論シュウの全力であれば回避するだけであれば可能だがそれだけではあまり経験を積めない。
なのでシュウも前進し、相手の剣が開ききる前に自らの刀を差し入れそれ以上開けないようにした。
通常の武器であれば武器破壊も狙える攻撃方法であるがシュウの刀はその程度で壊れるはずもない。
というか刃のついた刀であれば相手の剣をそのまま斬り裂くことも可能性として十分ある。
とは言え今は刃引きされた刀なので相手の剣を止めるだけに留まった。
【ほう、小僧のやつ腕を上げておるのう】
【それはギルバートさんと戦った時と比べて、ですか?】
【うむ。その後も共に戦ったりしたのだが、あやつの戦いを見るたびにこちらもワクワクしてくるわい】
【共に戦った、ですか?】
【そうじゃ。ハイエルの魔獣襲撃事件は知っておるじゃろう?あの時王都にやって来たほぼ全ての魔獣を1人で撃退したのがあの小僧じゃ】
ギルマスの発言により会場中が静まり返ってしまった。
ある程度の話であればそのまま興奮の材料となっていただろうが話の内容が内容だ。
多少尾ひれが付いているのかもしれないがハイエルに襲いかかった魔獣の数は1000匹程度であったそうである。
ただの獣ならともかくそれより強力になっている魔獣を1人で、となると眉唾ものだ。
しかし他の誰あろうギルマス自らがそれが正しいと言っているのだ。
観客もいつまでも静まり返ってはおらず、そんな強さを持つ人物がたった今目の前の舞台で戦っている事を理解し始めると途端に会場から爆発的な歓声が巻き起こった。
ギルマスの言葉が足りないせいでシュウが剣技のみで魔獣の群れを撃退したように取られていることにシュウはやや不安を感じている。
実際は魔法を使って倒したのであり、自分の剣技はそこまで完成されたものではない、と言いたいのだ。
ここで1つ訂正しておきたいのだが、シュウの剣技が弱いということは決してない。
というかこれで弱いと言われてしまうと他の本戦出場者や予選でシュウが勝ってきた人たちが全力で落ち込んでしまうため、彼らの精神衛生的にも否定しておかなければならないだろう。
さて、舞台上の2人であるが双剣の男は完全に引いていた。
シュウについて強いとは思っていたのだが明らかに自分が相手をするには荷が勝ちすぎていることに気づいたのだ。
ギルマスに勝てるとは言ってもどうやらルールに則って行われた勝負だったようなので、そのルールによっては自分でもチャンスがあるだろうと思っていた。
それがルールも何もあったものではない魔獣の大群の撃退を行ったとなれば話が変わる。
確実に次元の違う強さを持つシュウに対してどう戦うべきか、迷いが生じ始めていた。
舞台上の2人が固まっていると実況席のギルマスが再び口を開いた。
【おっと、小僧。一応言っておくがアレは使うでないぞ?面白味がないからの】
通常あり得ない実況席から選手への声掛けだがギルマスなら何をしても納得するしかない。
その発言を聞いてシュウはギルマスの言わんとしていることを性格に把握していた。
ギルマスはシュウに対して魔法を使うな、と言っていたのである。
シュウには伝わったが相手には全く伝わらない。
彼にしてみればギルマスが使用を禁止するほど凶悪な攻撃があるのか、と余計に不安を掻き立てられる結果になったのである。
試合開始から会場の興奮は一切衰えを見せず、むしろそろそろ誰か倒れてもおかしくないくらいの高まりを見せていたのであった。
ギルマスにはシュウの力を隠す気はないようです。




