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第13話_本戦開始です

【さぁ、いよいよ本戦です!皆様準備はよろしいですか!?】


おおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!


会場中の観客が興奮のあまり一斉に叫ぶので最早空気が震えるほどの音量となっている。

その歓声の矛先は全て舞台上に向かっていた。

そこには予選の時はどこか離れた実況席のような所から実況していたらしい司会者が立っており、マイクのような物を持ちつつ観客を煽っている。

ちなみにこの司会者の言う「準備」とは観戦するための準備だけではない。

実はこの本戦は賭けの対象となっており、予選で見た結果を踏まえて観客は本選出場者の中で誰が優勝するのか、を賭けているのだ。

賭けである以上倍率が存在しており、優勝すると多くの観客が予想した人物は倍率が低めとなっている。

つまりどうなっているかというと、シュウが地味ながら圧倒的な強さを見せたことにより倍率が物凄く低くなっていた。

他の参加者、特に例年であればかなりの強者と認識されるフィアなどの倍率は例年よりやや高め、つまり優勝は難しいという判断を下されていた。

この結果については司会者から公表され、選手たちは自分がいかに応援されているのかを認識したり、逆に見返してやると熱意を燃やすことになる。

しかしそれは通常であれば、という但し書きがつき、今年に限っては倍率が低い、つまり多くの人が優勝すると思っているシュウの強さに全員が半分諦めの境地に至っているため最早目的は一回でも多く勝ち進み少しでも多くの賞金を得る、それだけとなっていた。

ちなみに優勝できなかった選手に掛けた者も最終的な順位により還元されるため今回はもっぱら2位予想をするための賭けと言ってもいい様相である。

この賭けであるが、選手の関係者、というか選手自身も誰に賭けても自由というルールなので多くの者は自分に賭けている。

そのほうが賞金と賭けの還元分でより多くのお金を得ることが出来るためである。

勿論シュウたち一行も今回用いた掛け金の総額でいうと、7割をシュウ、3割をフィアといった具合に賭けていた。

最早シュウの優勝は鉄板中の鉄板であり、フィアも恐らく2位、もしくはそれに近いところになるだろうと予想されたため、負けの可能性がほぼない賭け内容となっている。

別にスリルを味わいたいわけでもなく、大穴にかけて大金を得ようとも思っていないので当然の内容であった。


さて、闘技場の様子であるが、司会者が煽ったため観客のテンションは最高潮に達しようとしていた。


【観客の皆様もそろそろ待ちきれないでしょう。ではそろそろ本戦第一回戦第一試合を開始することにしましょう!記念すべき第一試合の選手をご紹介することにしましょう!】


司会者が合図することで入場口から2人の選手が姿を表した。

1人は大柄な体に巨大な大剣(刃引き済み)をもったいかにも重戦士という姿の獣人である。

そしてもう1人はシュウの仲間、フィアである。

実はこの二人の組み合わせは予選Aブロックに置いて同じ舞台上で戦っていたのだ。

フィアが素早い動きで選手を弾き飛ばしていく中敢えて避けていたうちの1人である。

戦いを避けていた理由は単純で、乱戦の中ではお互い全力を出すことが出来ず、予想外の形で負けることも考えられるため予選での決着は付けずに置いたのである。

そんな2人であるからお互いのことは認識しており、予選で決着を付けられなかった分この本戦では全力で戦う心積もりをしていた。

無論大剣の男はフィアの動きを同じ舞台上という絶好のロケーションで見ており、その強さもはっきりと認識しているため一回戦を勝ち上がることは難しいことを承知していた。

それでもシュウを相手にするよりはマシな相手なので対抗心はまだ折れていない。

2人がそんなことを考えているうちに大剣の男の方の紹介が終わっており、次はフィアの紹介に移っていた。


【この本戦に勝ち進んだ選手のうち、唯一の女性のフィア選手ですが、予選では素晴らしい戦いを見せてくれました。

彼女は普段冒険者として活動しているそうですがランクはDと決して高くはありません。

ですがランクだけを見ていると痛い目を見るということも予選でお分かりのとおりだと思います。

武器は手にしている長剣ですが実はこの剣、お仲間の手製だそうです。

大会用の刃引きした武器でさえも一切の手抜きがないことやこの真剣な表情から分かる通り油断や慢心は一切ありません。

これは予選同様素晴らしい動きが期待できそうです!】


司会者によりフィアの情報が紹介される。

ある程度は予選のうちに紹介されていたためつい先程、追加で取材を受けていたのである。

その中で武器が仲間(シュウ)の手製であることを公表してしまったため勘の鋭い人であれば同じような黒い刀身を持つ武器を持っているシュウこそがフィアの仲間だと分かってしまうだろう。

しかし幸いな事にシュウの非常識な強さばかりが目立ち、黒刀の方はあまり注目されずに済んでいるため勘づいた人は決して多くはなかったのだが。

フィアの紹介を聞いて相手の男もより一層表情を険しいものとした。

明らかに強い相手が一切の油断も慢心もなく望んでくる。それはこちらも最初から全力でいかなければ一瞬で終わってしまうことを意味している。

フィアが必要以上に真剣な表情をしている理由が、万が一負けてしまえばカエデによる地獄の特訓が始まってしまうため、それを避けたい一心であることを相手が知ってしまえば泣きたくなること必至である。


2人の紹介が終わり、司会者は舞台から少し離れた所に設置された実況席へと移っていた。

さすがに戦いをしている側で実況をするつもりはないようだ。

と、そこでシュウは驚くべきものを目にした。


【さて、本戦ですが実況は予選から引き続き私と、試合内容の解説として特別ゲストをお迎えしております】

【ふむ。ワシは感じたことを素直にしか言えん。それで良ければよろしく頼む】

【皆様ご存じの方も多いでしょうが、人族の国、ハイエル王都において冒険者ギルドのマスターをしておられるギルバート様です】


ハイエルを出るしばらく前、厳密に言えば魔族の襲来を知らせた2日後くらいから見ないと思っていたギルマスが解説役として司会者の隣で座っていたのだ。

どうやらシュウからの頼みを王に伝えた後すぐにガルムに向け出発したため見なかったらしい。

予選から見ていたのだとしたら既にシュウ達がこの国にやって来ていることは知っていただろうが何故か接触してこなかったのだ。

忙しかったのだろうか、とも思ったが、一回戦の最後の試合に配置されてしまったため今日は試合のないシュウがティアナ達と共に観客席から見ているとギルマスが不意にこちらを見た気がした。

そしてニヤリと口元を歪めているため確実に確信犯である。

恐らくこっちのほうが面白い、と思ったのだろう。

ギルマスの考えそうなことである。


「っていうかギルマスの名前ってギルバートっていうんだね」

「そういえば今の今まで知りませんでしたね。かなり色々ありましたが・・・」

「ギルマスさんがいるなんてビックリですねぇ」

「そうじゃのう」

「というかアンタらギルマスとそんなに親しい間柄なのかい?」

「ラグスを出たのだって最初はあのギルマスからの呼び出しだったし、それから色々あったからね」


シュウの人脈を知ってイリーネが驚きつつ聞いてくるので差し障りの無い内容を伝えておく。

これで万が一ギルマスと模擬戦の結果勝利を収めた、なんて言ってしまえば確実に遠い目になってしまうだろう。

そんなギルマスのことはひとまず置き、いよいよ試合が開始されようとしていた。


◇◆◇


【試合開始!】


司会者の合図により本戦の第一試合が開始された。

舞台上の2人はいきなり攻撃を仕掛けたりせずお互いに観察しあっていた。

動きのない2人だが観客もブーイングをしたりはしない。

毎年見ている観客からするとこの動かない状況でも真剣勝負が始まっている事を分かっているのである。

お互いがお互いの隙を探りあい、ピクピクと手足を動かして相手を誘っている。

いつまでもそうしていては埒が明かないため同時に2人が動き出した。

攻撃が早いのはやはりフィアの方である。

上段から剣を振り下ろし相手を打倒さんとする。

相手も負けておらず、フィアの剣に合わせるように大剣を下からかち上げお互いの武器がぶつかり合った。

通常であれば上段から振り下ろしたフィアの方が打ち勝つはずだがお互いの武器と腕力の差により互角に終わる。

相手にしてみればいくら下からのかち上げでも自分が勝つ算段は十分にあったのだ。

それが結果は互角。

これは思った通り一筋縄ではいかないなと更に気を引き締めた。

一方のフィアは完全に予想通りの展開である。


(やっぱり単純な力勝負じゃこっちが不利っすね。なら・・・)


今度は真っ直ぐ相手に向かわず、やや斜め前方方向に進む。

相手は横から攻撃を貰っては敵わないとフィアが通りすぎようとした方向へ体を向けた。

と、フィアが急激に体勢を変え、再び相手の横を通り抜けるように動き出す。

それを相手が追い、という具合にお互いに激しく動き始めた。

本来ただ体の向きを変えるだけで済む相手のほうが動きが早いはずだがこれまた動きは互角であった。

これは単に相手の回りをグルグル回っているだけのフィアのほうが動きが早いためである。


【これは・・・フィア選手は相手の回りをグルグル回っているだけですが、何を狙っているのでしょうか?】

【ふむ。恐らく相手が着いてこれなくなってから背後に回り込んで攻撃を加えようとしているようにも見えるのう・・・。だが・・・】

【何か気になることでも?】

【うむ。あやつらがそれだけで終わらせるとは思えんのう】

【おや?フィア選手をご存知だったんですか?】

【ハイエルで色々とあっての。今戦っている嬢ちゃんより強いという奴とも模擬戦をしたことがあるぞい】

【ほ、本当ですか!?一体どちらが勝ったのでしょう?】

【まぁ、今は秘密じゃ。それより、ほれ。試合が動くぞ】


司会、及び解説のギルマスが話している間にも試合は進んでいく。

徐々にではあるがフィアのスピードに相手が着いてこれなくなりついにフィアに背中を晒してしまった。

一撃もらうことを覚悟したのだが、予想と違いいつまでも衝撃が襲ってこない。

不思議に思って振り返ると少し距離をおいた所にフィアが立っていた。

剣こそ構えているが攻撃してくるような様子はない。

不思議に思いつつも自身も大剣を構え直した。


【・・・?何故フィア選手は攻撃しなかったのでしょう?】

【うーむ。何か考えがあるのかのう】


ギルマスも不思議に思っているらしいが勿論フィアにも考えがあってのことだ。


(やっぱり単純なスピードならうちの勝ちっすね。なら今度は別な攻撃をしてみるっす)


自分の長所のみであれば相手に勝てることは分かった。

しかしそれが活かせない場合も今後あることを考え、様々な戦い方をこの大会中に試してみる、というのがシュウやカエデから課せられた内容である。

参加者全員が真剣に参加している事を考えると、シュウやカエデの考えはフザケているようにも見えるが、当のフィアは真剣そのものである。

言いつけを守らないとカエデにどんな特訓を課されるか分かったものではない、という説教を恐れる子供のような心境であるのを除けば、であるが。


フィアの戦い前半でした。


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