第11話_明日から本戦です
予選と本戦の合間にある休息日、つまり今日であるがシュウたちは武術大会開催期間中とは思えないくらいいつも通りである。
例えば前日予選が終わった後シュウたち同様大会に参加し、無事勝ち残っているアランとゴルドは今日を完全に休日、つまり何もせずゆっくり過ごすことにしている。
間違っても食べ歩きなどするわけがないのである。
「さっきのお肉おいしかったですねぇ」
「そうだね。でも俺はその前の屋台で食べた肉と野菜を焼いた奴が良かったかな」
「えぇ、野菜はいらないですよぉ」
「好き嫌いしたらダメだよ」
「でもぉ・・・」
緊張感のないシュウとリエルのやり取りである。
完全に親子の会話なのだが気にする人物は一行の中にはいない。
「というかシュウ?最初もう食べれないって言ってませんでしたか?」
「そういえばそうっすね。今は構わず食べてるっすけど」
「だってリエルがあんまりに美味しそうに食べてるからつい・・・」
「というかお腹は大丈夫かの?」
「そういえばそれほど苦しくないな。食べれないと思ってたんだけど・・・」
「あぁ、それはぁ、私があげた加護のおかげですねぇ」
「加護?」
「覚えてませんかぁ?ほらぁ、胃腸を強くする加護をあげたじゃないですかぁ」
「あぁ・・・」
シュウはそういえばそんなの貰ったなぁ、と思い出した。
そんな微妙な加護なので仲間たちに自分の秘密を語る時も忘れていたのだ。
なので仲間たちがその事実を知るのは初めてであり、そんな加護があるのかと驚きが表情に現れている。
「胃腸を強く、ですか?」
「そうですぅ。だからどれだけ食べてもお腹は痛くなりませんよぉ。皆さんもほしいですかぁ?欲しいですよねぇ。あげちゃいまーす」
「え、ちょ・・・」
リエルが勢い良く加護を押し付けてくる。
正直胃腸が強くなる加護を貰っても困ることはないのだが貰って嬉しいかと言われれば微妙である。
というかノリが軽すぎである。
「あの、リエルさん?加護ってどうやって貰えるんすか?」
「えぇー?もう付与してますよぉ」
「へ?」
「あー、そういえば俺の時もそんな感じで軽く渡されたなぁ」
「・・・簡単すぎて逆に怖いですね」
「・・・フィアさん?なんだか胃のあたりが軽くなった気がしませんか?」
「さっきの朝食が残ってたはずなのですが・・・」
「むふふぅ。それが私の加護の力ですぅ。どうですかぁ、一緒に屋台のお肉を食べましょぉ!」
リエルは朗らかに屋台の食事を勧めてくる。
先程までは全く食べれる気がしなかったのだが、今は不思議とそんな気はしない。
しかしそれを加護のおかげだと言われると正直微妙な気分である。
そこで困るのがカエデである。
「のう、リエルよ。我は本来固形物を食べる必要がないのじゃが・・・」
「あぁ、そういえばそうでしたねぇ」
「なので貰えるなら他の加護のほうがいいのじゃが」
「ありませんよぉ」
「ぬ?」
「だからぁ、私が差し上げられるのは胃腸を強くする加護だけですぅ」
「ならば主殿はどうしてあれほどの力を持ってるのじゃ?アレのうち幾つかはお主の力で授けたものじゃろう?」
「私の力のみでシュウさんに上げたのは胃腸を強くする加護だけですぅ。他の物は先輩の神様の権限をちょろまかして付与しましたぁ」
「・・・俺の能力って身体強化、魔力強化、回復能力の3つだよね?それ全部他の神様の力?回復能力はリエルのじゃなくて?リエルって回復魔法得意だったよね」
「えっとぉ、出来ることとぉ付与できる能力はぁ別なんですぅ」
張本人のシュウですら初めて知る事実である。
リエルが自身の権限を超えた力をシュウに渡したことで地上落ちしたことは聞いていたがまさか全てだとは思っていなかった。
というか最初に胃腸の加護については断っていたのでもしそのままだったらリエルにより転生された恩恵が全て他の神様のものになり、リエルの功績がただシュウを間違えてこの世界に送り込んだというマイナス面しか残らなくなってしまっていた。
そう考えるとリエルの存在意義的な意味で胃腸を強くする加護は覚えておこうと思う。
以前にも同じようなことを考えた気がするが覚えていなかったのでそれは気のせいだったのだろう。そうに違いない。
◇◆◇
リエルにより付与された加護により女性陣も食べ歩きに参加し始めた。
もとより食べ物を食べなくて済むため加護が付与されなかったカエデだが、食べなくていいのに食べれるということは食べたものを排出する必要が無い、つまり完全なエネルギーとして一切の無駄なく体に蓄える事が可能であるため無理をしなくても食べ続けることが出来るのだ。
そのため一行は屋台の端から順番に食べ進めても全くお腹が苦しくならず、その様子を見ていた人たちから好機の目線を集めていた。
その中には予選で目立っていたフィアとシュウの事に気づいた者もおり、それが広まっているのだが別にシュウたちに実害が及ぶようなことはなかった。
よりよい戦いを見たいこの街の住人達は大会期間中に参加者にちょっかいを出すような無粋な真似はしない。
無論屋台の店主など対応をしなければならない者はどうしても会話しなければならず、その立場を利用して多少の会話をするくらいは黙認される。
その会話もそれほど凝ったものではなくせいぜいが「応援している。頑張れよ」程度の物である。
これが日本であれば有名人を見つけようものなら大勢の一般人が群がるだろう。
その点、この国の住人は統率が取れているのだろう。取れすぎて怖いくらいだが。
そしてそんな食べ歩きをするための資金であるが、ハイエルで獣を狩りまくったお金がまだ残っているためあまり心配がない。
さらにはシュウたちのことを試合で見ていた店主たちは料金を割り引いて提供している。
この辺りに強いものを尊ぶ獣人の気質が現れているだろう。
「どのお店でも割引してもらって悪いなぁ」
「でも獣人からしてみれば強いシュウさんにサービスするのは当然のことなんじゃないっすか?」
「いいじゃないですか。好意はそのまま受け取っても」
「でもなぁ・・・」
日本人的感覚のシュウは自分が何かした覚えもないのにサービスしてもらうというはどうしても気が引けてしまうのだ。
割引する、というのを断るのも悪い気がするのでそのまま受け取っているのだが徐々にその思いが強くなってきている。
「シュウさんが何かしたいというなら試合を頑張るしかないっすね。この国の人達は武術大会を何より楽しみにしてるんすから」
「うーん、それじゃあ本戦ではもっと本気を出そうかな」
「あ!うちと戦うことになったら多少手加減はしてほしいっす!!」
「え?フィアと当たったら手加減一切なしの本気で戦うつもりだけど?」
「なんでっすか!?」
「だってフィアは俺たちとある程度模擬戦が出来るくらい強くなったじゃないか。その成長を見る意味でもこういう場は有効活用しないとね」
「・・・勝ち上がるのが怖くなってきたっす」
「もし途中で手を抜いてわざと負けようとしたら後で猛特訓するからの」
「カエデちゃん!?」
勝ち進めば本気のシュウと当たり、無様な戦いをすればカエデに特訓と称した地獄を見せられる。
まさしく前門の虎、後門の狼状態に陥ったフィアは子猫のように小さくなって震えてしまった。
もちろん魔法を使ったりはしない。
魔法が一般的でないこの世界では使用は最初から想定の範囲外なのでルールに明記はされていない。
なので使う事自体は反則でもなんでもないのだがさすがに武術大会という場なので自重するつもりだ。
だが刀を使った攻撃に関しては発言の通り手を抜くつもりはない。
そもそも単純な早さだけはシュウを上回っており、その使い方を実戦で経験するために参加しているのだ。
最初から当たったりしない限りは実戦で何度か使った状態で戦えるのでシュウも気が抜けないと考えている。
フィアにとっては絶体絶命な状態に追い込まれるシュウの発言だがシュウはシュウなりにフィアの強さを認識してのことである。
フィアも速度が自分の武器であることを認識してはいるのだが、それを十全に発揮してもシュウには勝てる気がしないため絶望感を味わっている。
お互いがお互いのことをはっきりと理解しているようで理解していないための会話結果であるが一方的に追い込まれたのがフィアの方というのはいつものことである。
というかシュウが発言に対して凹んだりすることがあってもここまでの絶望を味わうことはそんなにない。
ある程度のことは自力でひっくり返せるシュウを恨めしく見つめるフィアなのであった。
他の仲間にもリエルの加護が加わりました。
ですが力が力なので今後の冒険が楽になったりはしません。
あくまでネタとして突っ込んでみました。




