第10話_お休みです
「この国にはぁ、どんなお料理があるんでしょうねぇ」
「・・・リエル。俺達がこれからやるのはこの国の観光で、食べ歩きじゃないからね?」
「シュウの言うとおりです。というか、つい今しがた朝食をモリモリ食べてたじゃないですか」
「それはそれぇ、これはこれぇ、ですぅ」
リエルが全力の笑顔で提案してくるのを苦笑しながら聞くシュウ。
彼の言葉通り、今日はこの国の観光をする予定である。
というのもこの国に来て二日後には武術大会の予選が始まり、その空いている1日は大会のための準備で潰れてしまっていた。
さらにその予選中は時間的にも試合終了後に出掛けることが出来なかった。
そこで出来た予選と本選の合間の休息日、つまり今日がこの国にやってきて最初の観光チャンスなのである。
そのチャンスを活かすべく、シュウたち『黒の刃』一行は街に繰り出そう、というところでリエルの発言があった。
リエルの中では観光=食べ歩きであるらしい。
そういえば王都に初めて行った時もリエルたちは食べ歩きをしていたな、と思い出しつつシュウも食べ物には興味がある。
王都では白米を見つけることが出来たし、アルスでは店ではないが味噌を発見することが出来た。
異世界独自の食べ物も楽しみだが、やはり転生者としては異世界と日本の共通点を見つけるのが醍醐味だろう、とシュウが勝手に考えることに従う。
勿論食べ歩きだけで終わるつもりはないがリエルに付き合うのも悪く無いだろう。
「とりあえず何があるかわからないし適当にブラブラしてみようよ。で、美味しそうなものがあったら買う方向で」
「わぁーい」
「それじゃあ出発!」
意気揚々と宿から外に出るリエル。
あまりに嬉しそうなので自然とシュウたちもつられて笑顔になりつつリエルを追っていくのだった。
◇◆◇
「うーん、戦い関係の色んな物はあるけどそれ以外だとあんまり目を引くものがないね」
「そうですね」
「やっぱり獣人にとって一番大事なのは上部で強いことっす。だから過度な装飾だったりは邪魔なだけなんすよ」
「確かに闘技場も戦うための場としては最適だけど飾り気は殆ど無かったからね。その割に銅像みたいなのは一杯あったけど」
「あぁ、あれは聞いた所によると歴代の優勝者の像らしいのう。優勝すれば自動的に立てて貰えるものではなく獣王の琴線に触れたもののみが立ててもらえるらしい」
「獣王?」
「うむ。この国の王様らしいのう」
「王様の一存で立てる立てないを決めるんだ」
「銅像だけじゃなくこの国では基本的に国に関わる全てを王の一存で決めるらしいぞ?武術大会の始まりだって何代か前の獣王が思いつきで始めたらしいしのう」
「・・・それで決まるって独裁制なのかな?」
「独裁?よく分からんがこの国で王になるためには国民から絶大な支持を受けなければならんらしい。そして獣人は強いものに惹かれるからの。結果強くて人格者な王が生まれ、その王の決めたことに反対するものなどほぼおらんらしい」
「あー、なるほど」
日本のように民主制で一定期間ごとに選挙などはないらしいがかなり上手く国が回っているらしい。
強いだけで性格が最悪なものは王になれないので悪い方向へ行くことも無かったのだろうが何とも危うい感じを受ける。
おそらく獣人の特性であり長所でも短所でもある真っ直ぐな性格が働いているようだ。
「まぁざっと見た感じこの街の人達も暗い表情なんかしてないし上手くいってるんだろうね」
「そうっすね。うちはこの国の出身じゃないっすけど、出会った出身者の人たちは皆いい人達だったすね。一応うちも獣人の端くれなので一度来てみたいと思ってたのが叶って嬉しいっす」
「武術大会なんて面白いものを逃す手はないからね。それに・・・」
会話の途中でシュウは一瞬視線をズラす。
その視線の先にはフィアの尻尾が揺れていた。
見た目からしてモフモフで触ったら気持ちよさそうなそれをシュウはいつか触ってみたいと思っている。
シュウは動物の部位の中で尻尾が一番好きなのだ。
そしてそんな尻尾を持つものがたくさんいる獣人の国に来ないという選択肢は存在しない。
あまり見つめすぎても後からが怖いのであくまで見るのは一瞬である。
当の本人であるフィアはまったくもって気づいていないのでセーフだ。
「・・・」
「・・・」
と思ったらティアナが無言でシュウを見つめていた。
シュウも無言で視線をあさっての方向へ向ける。
しかしシュウが視線を外しても一向にシュウへ向かう視線は外れない。
微妙に居心地が悪くなったシュウは話題をそらすことにした。
「ところで何か面白いもの見つけた?」
「・・・」
誰に言ったわけでもない、雑すぎる話題変更にティアナの視線は弱まるどころか強まったのだが敢えてスルーする。
と、リエルが助け舟を出してくれた。
「見つけてはいないんですけどぉ、あっちの方からいい匂いが漂ってくるのが気になりますねぇ」
「お!じゃああっちに行ってみようか」
「・・・」
リエルの指し示す方向に舵を取る。
それでもティアナの無言の圧力は減らないのだが気にしたら負けなのだ。
プレッシャーに耐えつつ幾つかの角を曲がって進んでいくと広場のような所に出た。
そこには無数の屋台が出展しており、そのほぼ全てから様々ないい匂いが立ち上っている。
その様子に今まで無言だったティアナも匂いにつられてシュウから視線を外す。
ようやく圧力の無くなったシュウはホッと一息着きながら改めて屋台街を見渡す。
目に入った屋台では大きな肉塊をまるごと焼いており、焼けた部分を削ぎ切りにしてお客に提供している。
またある屋台では一口大の肉を串に刺し、こんがりと焼いてそのまま客が口に運んでいる。
これまたある屋台では薄切りにした肉を少々の野菜とともに炒め、パンに挟んで食べやすくしている。
「って肉ばかりかよ!?」
思わずシュウから飛び出たツッコミだが、それは見事に的を得ている。
屋台で売られている食べ物は見事に肉ばかりであり、ラグスやハイエルで売っていたような軽食的なものがないのだ。
いや、量的には軽食に入るであろう物が多いのだが肉を使ったガッツリ系ばかりなので軽い気持ちで食べたら後の食事に響くこと間違いなしだ。
そんなガッツリ系の食事を朝食を食べたばかり、というこの時間帯に屋台で出すのは普通の人族であればまずやりえない。
しかしここは獣人の国であり、ある意味デザート感覚らしい。
現にそれらの屋台にはそれなりの人数が買いに来ている。
正直この時間からこれはつらそうだなぁ、とシュウたちは考えているのだがここに1人例外がいた。
「シュウさん、あれ買ってきていいですかぁ?」
「・・・いいけど今食べれるの?」
「えぇ?食べれなかったら買うなんて言いませんよぉ」
何を当然の事を?といった視線を向けられるがこれに関してはシュウのほうが反応として正しいだろう。
それを証明するかのように全員がシュウの言葉に頷いている。
「あれ?そういえばフィアは食べなくていいの?というかいつも食べる量って俺達くらいだよね」
「あぁ、うちは獣人っていっても小食な部類になるんすよ。だからいつも食べてる位の量でちょうどいいんす」
「あれで小食だったんだ・・・」
フィアはいつも男のシュウと同じくらいの量を食べている。
女性としては量を食べる方なのだが獣人基準では小食になるらしい。
そういえばシュウが知る他の獣人、『草原の狼』のゴルドはよく食べていた。
あれが獣人の普通だとすれば確かに小食になるんだろうなぁ、とシュウが考えているとソワソワしていたリエルがついに我慢できなくなり屋台に突撃していた。
それを見て肩をすくめつつシュウも後を追う。
1人で好き勝手に行動させるとあとが怖いのである。
この後あれもこれもと買い始めたリエルを適度なところで止めつつ観光という名の食べ歩きをしていくのであった。
何とかしてフィアの尻尾をもふもふする話が書きたいです。




