第08話_シュウ、出陣です
昨日同様に休憩を挟んだ後シュウが出場する予選Dブロックとなる。
会場内では予選最終試合であるこの試合に並々ならぬ期待感が寄せられていた。
それもそのはずで昨日のフィアが出場した予選Bブロックで暴露された「フィアより強い者」に該当するような選手がこれまでの試合で出てこなかったため、この試合に出る可能性が高いという判断のためである。
勿論これまでの試合の中でも強者はそれなりの人数が戦っていたのだが、どうしてもフィアの印象が強すぎたためそれ以外の試合の印象があまり残っていないのである。
ちなみに試合申込時の記入用紙にはフィアが自分の情報をそれなりに書いていたのだが、シュウは本当に最低限の事しか書いていないため、用紙を見られてもシュウのことがばれる心配がないのだ。
それでも最後まで隠し通せるとは思っていないのだが、予選くらいは実力を隠して突破したいと思っているのだ。
そんなシュウの希望をティアナは気づいているのだが無理だろうな、と思われている。
【これより予選最終試合を開始したいと思います。これで本大会の予選は全て終了となります。毎年この予選最終試合はこれまでの予選で勝ち残った選手全てが観戦し、どのような戦いをするか見極めるポイントになっています。この中で勝ち残る選手がいかに実力を隠しながら勝ち残るかも重要となりますよ!それでは・・・試合開始!!】
司会者の合図で今までの試合同様、選手たちが一斉に動き始めた。
その中でシュウはたった今の司会者の言葉について考えていた。
(そういえば目立たたないだけでなく他の選手から実力を隠す意味でも適当に手を抜くのは必要だよなぁ)
試合中に停止し、そんなことを考える余裕のあるシュウ。
しかし傍から見ると隙だらけであり、格好の獲物に見えるのだ。
「試合中によそ見とは余裕じゃないか!これでもくら『ガキィン』いやが・・・れ?」
「あぁ、確かに集中しないと危ないね。・・・よっと!!」
シュウの足が襲ってきた男の腹部に突き刺さり堪らず吹き飛ばされていく。
ただの蹴りで人を吹き飛ばすなど一般人からすればとんでもないことなのだが、舞台上にいる選手たちにしてみれば決して出来ないことではない。
問題はその前である。
シュウが考え事をしている隙に剣を持って襲いかかってきた男なのだが、シュウは刀を鞘から抜いてすらいなかった。
何も知らないものから見れば、次の瞬間男の剣がシュウに当たり少なくないダメージを与えることが想像出来ていた。
しかしそうはならず、シュウが一瞬で居合い抜きの要領で刀を抜き放ち相手の剣にぶつけ・・・たまでは良かったがそのまま振りぬいたのである。
間違いなく相手の剣にぶつかった刀が振りぬかれるという状況になる、つまり相手の剣を刀が通過したことを意味する。
相手の剣も刃を潰しているとはいえ鉄製であり、通常であれば通り抜けるわけがないのだが結果として通り抜けた、つまり相手の剣をへし折り、刀を振り切ったのである。
お互いに武器を持ち、打ちあうことになると思った相手はあまりな出来事につい硬直してしまい、そのままシュウに蹴り飛ばされる羽目になった。
「よし、あまり派手に動かずひとりずつ倒していこう」
シュウが独り言をつぶやきながら次の標的を探す。
すると多くの目がこちらを見ていることに気づいた。
それらは舞台上にいる選手のもとで、シュウの近くにいた者は全てと言っていいほどシュウの方を見ていたのだ。
さすがのシュウもこの視線にはびっくりしてしまい、何が原因なのか、とやや混乱している。
だが明らかに隙を見せたシュウに対して襲いかかるものはいなかった。
実はこの時、シュウが最初の相手の剣をへし折るところを目撃してしまい、思わず固まってしまっていたのだ。
と、そこで混乱から回復したシュウがひとまず一番近い相手にゆっくりと近づき始めた。
目標にされた相手は顔を引き攣らせつつも自分の武器を構え直した。
しかしシュウはただ近づいてくるだけで武器は再び鞘に納めてしまっている。
さすがに最初の相手のように好機と見て襲いかかるようなことはしなかったのだが、シュウがそのまま近づいて来るため自分から攻撃をせざるを得なくなる。
「くそっ。やられるまえに『ガキィン』やってや・・・降参だ」
「あ、そう?じゃあ巻き込まれないうちに場外に逃げてね」
再び相手の武器をおったところで降参を受け入れる。
相手も武器がなくてはこれ以上戦えないし、戦えない以上無駄に痛い目にも会いたくないため降参してさっさと安全な所に行きたいのである。
ここで降参した振りなどして後ろから襲いかかろうものならこの国において卑怯者のレッテルを貼られ、街を堂々と歩けなくなるためそのまま舞台を後にした。
こうなると周囲はやや逃げ腰となる。
そもそも単純な武器同士の打ち合いであればまだ戦いようはある。
しかしシュウがやってのけたように相手の武器をへし折る、しかもその動きが全く見えないとなれば勝ち目が薄いことを悟るしか無い。
この後、シュウの周囲にいた選手の行動は2つに別れることになる。
1つは勝ち目が無いという事実を受け入れそのまま舞台を降りる者。
もう1つは破れかぶれでシュウに襲いかかる者だ。
前者については本来、戦わずに逃げ出した者という不名誉な称号を得ることになるのだが相手が相手であり、勇気ある撤退と受け止められるパターンが多かった。
後者は通常勝ち目がない者に立ち向かった勇者として持て囃されるはずなのだが、これまた相手が相手のため大局を見極められらなかった者という扱いを受けたのであった。
このように(シュウの主観では)あまり目立たないように戦っていたのだが、観客の視線はすっかりシュウに集まっていた。
フィアの時のように興奮しながらその戦いを見守るようなものではなく、あまりに他の参加者と実力が違いすぎるため正直どのようなリアクションをして良いのか分からないのである。
目立たないように最低限の動きで相手を倒しているつもりのシュウが全く気づいていないのだが。
シュウが見た目の派手さこそないが着実に舞台上の選手を減らしていき、半数ほどになったころシュウの前に立ちはだかる者がいた。
黄色と黒の縞模様の毛皮に覆われた巨大な体躯を持つ虎の獣人のようだ。
年齢としては若そうに見える。恐らくシュウと同年代だろう。
「お前中々やるなぁ」
「どうも。で、あなたが次に相手をしてくれるの?」
「普通ならお前のような強い者とは本戦で一対一で戦おうと思ったのだがどうにも我慢できなくてな。スマンが付き合ってもらうぞ」
「今でも本戦でもどっちでもやることは違わないさ」
「はっ。中々面白いやつだ・・・なっ」
相手は手にした鉄棍を突き出してくる。
今までの相手は武器が剣ということもあり、振り下ろすか横に薙ぎ払うような動きがほとんどであったため突きという動きだと今までどおりカウンター気味に居合抜きで相手の武器を折る事が出来ない。
仕方なく本日初の回避を選択した。
「てっきり他の連中と同じように武器を折りにくると思ったのだがな」
「突きで来られると合わせるのが難しいんだよ。それにこの刃を潰している刀じゃあその棍を折るのは無理そうだし」
「その良いようだとまるで刃がついていれば切り落とせるように聞こえるのだがなッ!」
「まぁいつも使ってる刀なら出来る・・・かな!」
会話の最中だが再び武器を突き出してこられたので、今度は普通に刀を抜き放ち相手の焜の側面に当て攻撃を逸らした。
その結果体勢を崩した相手にお返しとばかりに刀を返し斬りかかった。
体勢が崩れていたため防御が難しいと判断したのか自分から更に体制を崩しシュウの攻撃をくぐり抜けた。
空振りに終わったシュウだが体制を崩すことなく再び相手の方を振り向く。
相手も即座に立ち上がり体勢を整えていた。
「さすがに今のは焦ったぜ」
「俺も躱されるとは思わなかった」
「それは今までの経験ってやつよ」
経験、それはシュウに足りないものであった。
チートな能力を持つばかりに積むことが出来なかったギリギリな戦いから学ぶそれはシュウの弱点にもなり得るものである。
元に純粋な身体能力では余裕で相手を上回っているはずのシュウが体勢を崩している相手に攻撃を当てられない、という事態を引き起こしているのだ。
本当に大会に出て学ぶことを選択して良かったと思ったシュウである。
「それじゃあ今度はこっちから行くぞ!」
「おぉ!?」
これまでは相手に初手を譲ってきたが自分から攻めに転じる。
この状況になるとあまり慣れていない居合抜きよりも自分の得意な攻撃方法がいいので真っ直ぐ斬りかかった。・・・全力で踏み込みをした最大速度で。
これはフィアが行ったことの短距離版で相手の目から消えるまでは出来ないが攻撃のタイミングをずらすことが可能である。
来ると思っていたタイミングより早く攻撃が自分に到達しそうになったことで相手もさすがに余裕が無くなった。
辛うじて刀と自分の体の間に棍を滑りこませ直撃を避けることに成功した。
しかし全力で踏み込まれ、完全な体勢から繰り出された攻撃を完全に受けきることは出来ず、数歩後退ってしまう。
そしてそんな一撃を受けたことで棍を持っていた両手はすっかり痺れてしまいすぐに攻撃をすることも、二撃目を防ぐことも難しいだろう。
さすがにこのまま敗退してしまうのでは?と考え始めたのだがどうやら天は彼を見放さなかったようだ。
【試合終了です!今舞台上に残っている選手の方が本戦出場となります!!】
残り人数が4人となったので試合終了が宣言された。
そこでシュウも回りを見渡してみると自分と戦っていた相手の他には2人が残るのみとなっており、(シュウの中では目立たずに)本戦に勝ち残る事が出来たのであった。
「はぁ、さすがに負けを覚悟したぞ」
「このまま勝てると思ったんだけどなぁ」
「実質お前の勝ちだろ。こっちは手が痺れてしばらく棍が扱えん。全くなんてやつだ」
「褒め言葉として受け取っておく」
「だが本戦で当たることがあったら今のようにはいかんぞ」
「次も負けないよ」
「はっはっは。オレはカイ。見ての通り虎の獣人だ」
「俺はシュウ。これは刀という武器で一応は剣士として出場している」
「シュウ、な。次に当たるまで負けるんじゃないぞ」
「そっちもな」
所謂男の友情というものが芽生えた瞬間である。
こうして本戦に出場する16人が出揃ったのだがシュウの主観では全く目立つことなく、かつ実力を隠したまま勝ち残ることが出来たと思っている。
実力については確かにある程度隠し通すことが出来たのだがそれでも実力が桁違いであるため警戒されまくりである。
またそれにより目立たないように、という考えも全く実現できてはいない。
結果本戦ではかなり警戒されることになるのだが隠し通していると思っているシュウはまだ気づかないのであった。
シュウの希望通りあまり派手にならず、それでいて非常識な戦闘、と考えてこうなりました。
あとカイについてですが、今後どうするかは・・・まだ決めてません。




