第02話_訓練風景です
今回は久々にあの人達が登場します。
「はあああぁぁ!」
「甘いわッ!」
「きゃう」
フィアの剣がカエデの手甲に弾かれたかと思った瞬間、フィアの懐に入ったカエデが肩をフィアの腹部に叩き込む。
剣を弾かれたばかりで体勢の崩れていたフィアは踏ん張れるはずもなく尻餅をついてしまった。
もしカエデが本気であれば肩ではなく魔力を纏った拳が叩きこまれフィアがすぐに立ち上がれるような状態では無かっただろう。
あくまで模擬戦のため、この状況になったのだ。
「早さは大したものじゃが一撃が軽すぎるのう。その割に弾かれたり逸らされたりすると体勢が崩れてしまうのはダメなのじゃ」
「うう。カエデちゃんが強すぎるんすよう。・・・でもうちの剣が軽すぎる、っていうのは今後の課題なんすよねぇ」
「ヘタに一撃の重さを求めるとお主の良い所まで消えてしまうからのう。その辺は少しずつ調整するしかないの」
「了解っす!もう一度お願いするっす!!」
「かかって来るのじゃ」
獣人の国 ガルム への道中、野営の度に行われている模擬戦である。
主な参加者は今戦っているフィアとカエデ、そしてシュウの3人でたまにリエルが参加し、ティアナには万が一相手に接近された時のため護身術程度の戦闘訓練を行っている。
とはいえ今回の目的はガルムで開催される武術大会へ向けた特訓であるためシュウとフィアに重点が置かれている。
シュウの場合、やるべきことは相手のフェイントに惑わされず制する事であり、パーティの中では一番そういった戦いが出来るフィアが、そしてそのフィアは攻撃は早いが、それだけなので連撃やフェイントに磨きをかけるための特訓をシュウ、カエデ相手に行っている。
自然とフィアの回数が増えるのだが別に苛めたくてやっているわけではなく、本人から申し出があったためである。
フィア曰く。
「多分うちはパーティメンバーの中で一番出来ることが少ないっす。だからこそ自分の出来ることをしっかり出来るようになりたいっす!」
シュウは言わずもがなとしてカエデは接近戦に加え多少であれば遠距離攻撃、そしてドラゴン形態となれば超威力のブレスを使うことが出来る。
リエルは戦斧を用いた一撃粉砕の戦いに加え回復魔法を使い味方の補助に回る事も出来る。
ティアナも魔法を使うだけだが、その種類は徐々に増えてきており、戦術に幅をもたらしている。
その中にあってフィアだけは近接戦闘のみを得意としており、早さこそメンバーの中で一番だがそれだけなのだ。
フィアはそれを気にしているが、無理に出来ることを増やすより自分の長所を伸ばした方が良いと考えている。
シュウやドラゴン状態のカエデを除けば飛び抜けた能力を持っていないメンバーなので一芸に特化してもらったほうがシュウとしてもありがたいのでその方針には賛成である。
さて模擬戦の様子であるが、誰を相手にした場合でも未だフィアの勝ちはない。
これは決してフィアが弱いというわけではなく、シュウ達が強すぎるのである。
フィアの相手をする事ができるメンバーのうちシュウとリエルはチート能力持ちであり、カエデは人化しているとはいえ元々人間を超越した存在なのだ。
獣人とはいえ普通の人間であるフィアがおいそれと敵う相手ではない。
ただしリエルと戦いのみに関していえばリエルがフィアの早さに付いていけていないことが多くなり、そろそろ初白星となりそうである。
そもそも彼女はプリーストとして冒険者活動をしているのに戦斧を持っている変わり者である。
本職が前衛ではないのでむしろよく勝っていると言えるだろう。
シュウはチートな身体能力に加えてチート魔力による身体強化を本気で使った場合、今の女性陣全員で襲いかかっても勝つ可能性がある。
そしてカエデだがアルスでのドラゴン無双以来どうにも一気にパワーアップしているようだ。
本人曰く。
「人化していても魔力の通りがスムーズなのじゃ。おかげで今までより体が軽いようじゃの」
らしい。
恐らくある程度魔力の運用を覚えてからドラゴン状態に戻ったことで効率が強化され、その状態での人化を行ったことで今までよりも出力が上がっているらしい。
こうなるとさすがのシュウでもカエデを完封することは難しくなっている。
最終的に勝てるとしてもヒヤリとする瞬間が増えているのだ。
現に模擬戦でも何度か隙を付かれ負けているのである。
武術大会に出場さえ出来ればかなり上まで行けそうなのだが見た目だけは全く変化されなかったので今回は我慢となっている。
当の本人が良いと言っているのが幸いである。
◇◆◇
「それにしても平和だなぁ」
「いきなりどうしたんですか?」
「んー、ラグスから王都に行った時ってやたらと獣に襲われたじゃん。それからすると今回は何もないなぁ、って」
「何もない、というのならアルスに行った時も何もありませんでしたよ。それに回数こそ少ないですがモンスターの襲撃があったじゃないですか。現に今もそうですし」
「そうなんだけどね」
朝から夕方にかけて荷馬車に乗って移動している途中、モンスターの襲撃中に何気なく呟いたシュウの言葉にティアナが反応してくる。
彼女の言うとおりこれまで何度かゴブリン等の弱いモンスターの襲撃はあったのだが今回も含めてシュウは全く動いていない。
襲撃時にフィアとカエデが飛び出し一瞬で相手を殲滅してしまうのだ。
「実戦の方が鍛えられるっすから」
「あの程度主殿の手を煩わせるまでもあるまい」
とは2人の言葉だ。
フィアの方は恐らく本心だろう。
だがゴブリン程度の相手だと今更何匹仕留めようと得るものは少ないと思う。
思うのだがフィアが強くなる為に自分で考えたことなので尊重している。
問題はカエデの方で、言葉通りに受け取ればシュウのことを思っての行動なのだが実際に戦いに赴く彼女の表情はとても良い笑顔であり、どうやら自分の体が今まで以上に動かせることが嬉しくてしょうがないらしい。
本心はともかくとしてシュウが出るまでもなく済んでいるためティアナとのんびり会話しているし、リエルに至ってはスヤスヤと寝入っている。
夜の交代で行う見張りはきちんとこなしているので今寝ていても特に注意する必要がないため放置されているのだ。
話しているうちにゴブリンの群れは壊滅、後には動きを確かめているフィアと何処かすっきりした表情のカエデが残るのみだった。
2人が荷馬車に乗り込むと再び移動を開始する。
冒険者ランク的にはDと決して飛び抜けた高さではないのだが、実力は全くランクに見合わず、今となってはこの程度の襲撃であれば片手間で片付けられるのであった。
◇◆◇
特訓をしたりたまにモンスターを撃退したりを繰り返しながら移動すること約2週間。
シュウたちはようやくガルム周辺にたどり着いていた。
シュウが元いた地球であれば国を超える際には検問などを通過する必要があるのだが、どうやらこのヒースには国境という物がないらしい。
大体この街(村)までがこの国、という括りのみが存在しているようだ。
普通の旅人であれば多少遠回りになってもそういった街などを経由して食料などを補給しながら進むものだが魔法が使えたり、収納袋を持っているシュウたちはその点において全く心配ないため直線距離で移動してきた。
さすがに寝具については旅用の簡易なものなので快眠とはいかなかったので、その点についてのみは多少疲労が溜まっているがシュウたちにとっては無視できるレベルであった。
それでもガルムが見えてきた時にはようやくゆっくり眠れる、と思ったのはしょうがないだろう。
そこからの足取りは軽く、昼過ぎにはガルムの中に入ることが出来た。
この国でも冒険者カードは使用することができ、特に入場料などは取られなかった。
その対応をしてくれたのはさすが獣人の国と言うべきか、屈強な獣人の男性であり、シュウはふとラグスの街で知り合ったゴルドを思い出していた。
彼も獣人の男性であり、彼らのパーティ『草原の狼』の最年長としてメンバーに頼られていたのだ。
久しぶりにラグスの街に戻りたいなー、とシュウが考えながらガルムの中へ入って行くと目の前に人がいることに気づかず思いっきりぶつかってしまった。
「す、すいません。前を見ていませんでした」
「ん?ああ、気にするな。だが前はキチンと見て歩かないと・・・ってお前坊主か!?」
「え、あ!ゴ、ゴルドさん!?」
シュウがぶつかってしまった人物こそシュウがまさに今考えていた『草原の狼』のゴルドその人であった。
「ゴルド、一体どうしたんだい、ってシュウくん?」
「おや、随分と久しぶりじゃないか」
とそこへ『草原の狼』の残りのメンバーであり、リーダーのアランと紅一点のイリーネがやって来た。
「皆さんもガルムに来ていたんですね」
「ああ。この国で行われる武術大会に参加しようと思ってね。この時期に来たってことはシュウくんたちも?」
「ええ。俺とフィアが出るつもりです」
「かー、『竜殺し』が出るんじゃ余計に優勝は難しいじゃねぇか」
シュウたちの参加を告げるとゴルドが何やらショックを受けていた。
不思議に思っているとイリーネが答えを教えてくれた。
「ラグスの街で武術大会の話を聞いた時ね、丁度酒場で飲んでいてさ。よって気が大きくなったゴルドが絶対優勝してくる、なんて大見得切っちまったんだよ。それで意気込んでやって来てみればアンタ達と鉢合わせて自分の不利を嘆いているのさ」
いかにもゴルドらしい発言である。
というか仮にシュウが出なくてもこの世界には達人と呼ばれるような人が存在しているはずなのでそういった相手とぶつかった時はどうするつもりだったのか聞いておきたい。
・・・恐らくこの様子を見るに何も考えていなかっただろうが。
ちなみにゴルドと会話しているのは既にガルムの中であり、当然武術大会に参加するものや観戦に訪れた者が多数存在している。
そして久しく呼ばれていなかったシュウの『竜殺し』という異名であるがこの国にも噂は入ってきており、知られていた。
そんな中で大会に『竜殺し』が出る、と大声で叫べばどうなるか。
結果は火を見るより明らかで、噂は国中に広がり、『竜殺し』が参加するということで優勝を諦めたり、ひと目見ようと観客が押し寄せたりと様々なトラブルが起きることをこの時のシュウは知るはずもないのであった。
書いてる途中でアランたちを出そうと思いつきました。
久々なので口調など忘れていたので昔のを読み返して多分こんな感じ、といった具合に書きました。
変なところとかあったらすいません。




