第20話_今度は負けません
「死ねやぁ」
「誰が死ぬかっ!」
襲いかかってきたヴァレスの攻撃を防御しながら叫び返す。
刀と剣がぶつかり金属音があたりに木霊している。
昨日はヴァレスが門番を傷つけたとはいえ相手は人型で言葉も通じるため攻撃することを躊躇ってしまった。
そのためティアナとカエデが傷つき倒れてしまったのだ。
同じ過ちは繰り返さないためにも最初から全力である。
ヴァレスが冗談から剣を振り下ろしてくるのに対してシュウは刀の刃先を下に向けるように斜めに構える。
そのまま剣と刀がぶつかるが斜めに構えた刀の線にそって剣筋がシュウの体からずれていく。
すかさず刀を起こし逆に上段から振り下ろす。
「ちぃっ」
体制を崩されながらもヴァレスは何とかその場から飛び退きシュウの刀を躱すことに成功した。
だがそれでは終わらない。
シュウは刀を最後まで振り切らず途中で止めるとその勢いを活かしながら横回転の動きに切り替える。
遠心力を乗せ刀をヴァレスに叩きつけるように斬りかかる。
突然目の前でシュウが回転したことに驚きつつもヴァレスは何とか剣を立ててシュウの刀と自分の体の間に滑り込ませた。
魔力を限界まで乗せ切れ味が最大限まで増したシュウの刀はヴァレスが防御に使った剣をそのまま両断せんと刃を食い込ませる。
このままでは剣が折れてしまうと判断したヴァレスは再び飛び退き剣が破壊されることを防いだ。
「お前ぇ、中々やるなぁ」
「ふん、お前が口ほどにもないだけだ」
「言ってくれるじゃないのぉ。本気でいくぜぇ」
ヴァレスが再び剣を上段にして向かってきたのでシュウは先程と同じように受け流そうと刀を構えた。
だが今度は振り下ろしの動きが変化し横薙ぎとなってシュウに襲いかかる。
だが、かろうじて躱すことに成功した。
「くっ」
「よく躱したなぁ。だがこれで終わりじゃ無いぜぇ」
ヴァレスの剣はまるで生きているかのようにシュウを襲う。
横かと思ったら縦、上かと思ったら下、攻めると見せかけつつ動きを止めてタイミングをズラしたりとフェイントを織り交ぜながらシュウを翻弄する。
最初の撃ち合いで力押しが効かないと悟ったヴァレスが戦い方を変えてきたのだ。
シュウもこの世界にきてからそれなりの経験を積んではいるが対人戦という点においてはヴァレスのほうが何歩も先を行っている。
(くそっ、こうなるとこっちが不利だ。何とかこっちのペースに戻さないと・・・)
流れを変えるため一気に後ろへと下がり、ヴァレスの攻撃を空振りさせる。
その瞬間を狙ってシュウは全力で地を蹴り肉薄する。
実はこの動きはヴァレスが誘ったものであり近づいてきたシュウをそのまま切り捨てるつもりだったのだ。
だがシュウの前進速度が予想よりも遥かに早く予定していた攻撃を取りやめ防御を選択した。
判断が早かったためシュウの攻撃はヴァレスに届かず剣で防御されてしまい、瞬間繰り出された蹴りを腹部に喰らい強制的に距離を取らされる。
魔力で強化していたためダメージはほぼないが攻撃が失敗したことでやや悔しさが出る。
「当てられなかったか・・・」
「ひゅぅ、ホントにやるねぇ。戦いを楽しんでる暇がねぇや」
「それなら帰ってくれるとありがたいんだが」
「それは出来ないねぇ。お前さえ殺せれば後はなんとかなるだろぉ」
「カエデが残ってる限り無理だと思うんだがなぁ」
「はん。あのドラゴンが自分で言ってたじゃねぇか。お前のほうが強いってよぉ。だからお前を倒せば俺様があのドラゴンより強いってことだろぉ」
「その理屈は合ってるような間違っているような・・・」
「だからさっさと斬らせろぉ」
「それは断る!」
そう言って再び正面から激突する。
純粋な力や身体能力ではシュウが勝っているのだが、ヴァレスの戦闘に関する技術力で劣っているため攻め切れないのだ。
長期戦になりそうだ、と思いつつもシュウは刀を振るう。
(・・・待てよ。こいつは何で真正面から打ち合ってきたんだ?さっきみたいにフェイントがないってことは・・・マズイ!!)
シュウが気づくがそれは既に遅かった。
「ばぁかぁ。誰が真正面から行くかよぉ。魔法ってのはこういう使い方も出来るんだぜぇ」
ヴァレスが勝ち誇りながら剣を横薙ぎに振るってくる。
大振りなそれは本来であれば致命的な隙を生み出すのだがシュウはそれどころではない。
シュウが気づいた時、既にその両足は地面に飲み込まれていたのだ。
ヴァレスは自らの魔法で地面を軟化させ、任意のタイミングでシュウの足を絡めとる準備を進めていた。
泥の中にふくらはぎ半ばまで一気に沈められ一瞬動きが止まる。
それが狙いだったヴァレスは攻め時と見て大振りの攻撃を仕掛けてきたのだ。
脱出自体は簡単だが攻撃が届くまでの一瞬では難しい。
勝利を確認してシュウが真っ二つになるまで後僅かというところでいきなりシュウの姿が消える。
足を固められていたのでしゃがむくらいしか出来ないはずだが、地面にもその姿はない。
と、そこで自分の上空から影が落ちてきたことに気づきとっさに横に飛び退る。
するとそこには刀を振り下ろした体勢のシュウがおり、そのままそこにいたらどうなっていたかは火を見るよりも明らかだろう。
「どうやって拘束から抜けだしたぁ」
「いきなり足が沈んで驚いたけどね。自力で足が抜けないなら別の力で引っこ抜けばいいのさ」
そう言うとシュウは空へと浮かび上がる。
それを見たヴァレスが呆然としていた。
「・・・おいおいぃ、いくら魔法が凄くても空を飛ぶってのはありかいぃ」
「これが俺の魔法だ」
上空からヴァレスに向かって急降下しつつ刀を振るう。
慣れない上空からという状況に加え、落下速度も乗ったシュウの攻撃はヴァレスにとって厄介という他なく、防戦一方となる。
防御しながらも自分が少しでも有利になるよう場所に動こうとしたり魔法を放とうとするがシュウが上から魔法を放ちそれらを封じる。
じわじわと追い詰められているヴァレスは焦っていた。
最初の予定では魔法を使えない者を相手にこちらの優位を崩さず蹂躙するはずだったのだ。
それが実際はどうだ。
戦闘力では負けていたがこれまで培った技術と戦い方で相手を追い詰めていったはずがいつの間にか魔法で追い詰められている。
シュウの攻撃を防ぎながらもヴァレスの混乱は極限に達しようとしていた。
「ふ、ふざけるなぁ。どうしてお前のような人族が魔法を使ってやがるんだぁ。魔法は俺様たちのように選ばれたものが使い、それ以外を支配するためにあるはずだぁ」
「そんな考えが通じるわけ無いだろ。魔法は生活を豊かにしてくれるものだ。それをお前たちのようなやつが悪用するから衰退したんだろうが」
「それの何が悪いぃ。俺様たちは選ばれた種族だぁ。人族は人族らしく俺様たちにひれ伏してればいいんだよぉ」
「話にならないな。やっぱりお前たちはここで止める」
「やれるもんならやってみやがれぇ!大地の牙ぁ!!」
ヴァレスが突然剣を手放し両手を地面につけたかと思うとその前方の地面が盛り上がり上空にいるシュウへと向かってきた。
ただ地面が盛り上がっているわけではない。
頂上部分に穴が開いたかと思うとその内側には大小様々な大きさの棘が無数に突き出していた。
そのままシュウを飲み込むと一気に収縮し、平らな地面へと戻った。
大地の牙。
包み込まれた者を内側の棘によって突き刺し、致命のダメージを与える魔法である。
ヴァレスが現状放てる最大魔法であり、最強の魔法である。
代償としてほぼ全ての魔力を使いきりこの後は撤退を余儀なくされるが、シュウさえ排除できれば後はどうにでもなる。
ドラゴンのカエデが多少厄介だがシュウと同じく大地の牙を当てれば勝つ自信はある。
当初の予定よりは時間が掛かるが目的の達成を確信したところで爆音が周囲に響いた。
ドゴォォォォン
発生源は自分が使った魔法を使いシュウを飲み込んだ部分の地面であり、今は大きく凹んでいた。
無数の棘に貫かれそのまま地中に引きずり込まれたはずのシュウだが特に怪我をした様子はない。
シュウには水で出来た生き物が彼を守るかのようにトグロを巻いており、棘から守ったようだ。
その正体は『水龍』であり、とっさに発動し体の周囲に纏わせることで分厚い防御壁としたのだ。
そして爆音の正体はヴァレスを最初に殴った時の『爆炎』であり、『水龍』で守られた外側を一気に爆発させ地中から脱出し再び飛び上がった。
「ちくしょおおおぉ。俺様が負けるはずがねぇんだぁ」
「いい加減諦めろ・・・よ!」
ヴァレスが叫んでいるが構わず防御に使っていた『水龍』を放つ。
「くそがああぁぁぁぁ」
魔力を使いきったヴァレスに最早防ぐすべもなく最後のあがきとばかりに叫びつつ『水龍』の質量に負け放物線を描き飛んで行くのであった。
そして同時にカエデ達が相手をしていた魔族の軍勢も全て地に伏しており魔族によるアルス襲撃は失敗に終わったのであった。
もっと緊迫感のある戦いが書きたかった・・・




